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幼少期のトラウマ映画「リング」の原作を読んだ話(※ほぼ自分語り)

※当記事には鈴木光司著『リング』のネタバレが含まれます。

 タイトル通りなのだが、私にとって映画「リング」は恐怖の象徴であった。
 映画そのものを見たわけではないし、今「見ろ」と言われても絶対に嫌なのだが、それがどうしてトラウマになったかというと夜間に放送していた映画の特集番組か何かで、かの有名な「呪いのビデオ」のワンシーンを目撃したためである。
 私は未だにホラーゲーム実況を除く視覚的なホラーコンテンツを苦手としているのだが、幼少期はそれが顕著であった。何をきっかけとして苦手になったのかは覚えていない。けれど両親が映画好きで夜になるとサスペンスホラーをよく見ていたので、その間リビングに近寄れずに布団をかぶっていた記憶がある。
 両親とて私を怖がらせようとしていたわけではない。むしろ私があまりに怖がるので昼間は見たいものを見られず、私が寝てからの時間にゆっくり鑑賞していたのだろう。……まあ、そのお陰で夜中に目を覚ました途端ホラー音声が聞こえてくるという、子供にとっては恐ろしいことこの上ない環境が出来上がってしまっていたわけだが。
 そんな私が「リング」の映像の一部を目撃してしまったのはその映像にそれほど大きな音声が含まれていなかったのが原因ではないかと思う。はっきりと内容を記憶しているわけではないが、とにかく気味が悪く恐ろしい映像だった。鏡に映る女性が髪をとかしている姿だけはいまだに夢に見ることがある。そのくらい、当時は本当に怖かった。
 私が見たのはたったそれだけだが、数日間その恐怖を引きずり、寝つきがとんでもなく悪かった。寝室に大きな鏡があったことも災いして、母に泣いて一緒に寝てくれと頼んでいた記憶がある。

 そんなトラウマコンテンツにどうして今になって触れようと思ったかというと、ずっと興味があったからだ。いつまでも恐怖が頭から離れなかった影響でほんのちょっとしか知らないくせに「リング」について考える時間は長く、想像ばかりが膨らんで答え合わせする機会を実際のところ、待っていた。
 けれど映画を見る勇気はない。先程触れたように私はホラー映画や怖い漫画が本当に苦手なのだ。たぶん見てしまったが最後、幼少期よろしく眠れなくなって旦那に添い寝を要求することになってしまう。

 そんな時分、現在良くも悪くも話題沸騰の雨穴著「変な家」に出会った。

 もともと雨穴さんのYouTubeはよく見ていた。彼の作品も割とホラーだが直接的な表現があまり出てこないからか、私の頭はそれを苦手なジャンルとは認識しなかったようだ。
 大好きな映像作品が書籍化するということで発売日に嬉々として購入したわけだが、買ってから気づくことになる。

「あ、私、読書苦手だった」

 詳細は省くけれど、かつて好きだった小説を知人に全否定されてからというもの、本を読むことを苦痛に感じるようになってしまっていた私はそこそこの厚みがある「変な家」の表紙をしばらく眺めていた。
 読みたくて買ったのに、開くことを体が拒否する。でも読みたい。あの動画の続きが気になる。

 結果、好奇心が勝った。

 この時の私に拍手を送りたい。この選択、私の人生にとって大きな転換点だったのではないかと思うのだ。
 読み進める手が止まらないという経験を、恐らく中学生時代以来初めて経験した。そこから全く本を読まなかったわけではなく、高校、大学、社会人と話題作りのためや必要に迫られたりして読書をしたことはあったけれど、どこか義務的だったそれとは違って、心から楽しい読書体験をした。
 「苦手」が「好き」に代わる快感に背を押され、そこからは気になるタイトルを好きに読み始めた。人気作だとか誰が推薦してるからだとか仕事に必要だからとかを抜きにして、気の向くままに手に取って読んだ。
 すると、己の好きの傾向が見えてくる。気づけばブクログの本棚には不穏な表紙ばかりが並んでいた。私、どうやら怖がりの癖にホラーが好きらしい。それならばやはり「あれ」を履修しなくてはならないのでは? ずっと興味はあったんだろ? ホラー小説の金字塔だぞ?

 ――よし、『リング』読もう。

 図書館の棚を物色して、とんでもなく派手な表紙を見つけた時には息をのんだ。なにせ少なく見積もって二十年は脅かされてきた存在とついに相対するときが来たのだ。わくわくと怯えが五分五分で、借りてきてからも怖気づいていた結果、読み始めたのは返却期限を翌々日に控えた、そんな日だった。

 さて、ここからやっとネタバレを含んだ感想になるのだが、結論からいうと他の作品に比べ、全然怖くはなかった。
 そもそもホラーというよりはSFミステリーというのだろうか。死が迫りくる恐怖こそ感じるけれど、私がずっと恐れていた貞子はテレビから出てこないし、ビデオにも登場しないし、なんなら主人公の前にその妖艶な姿を現すこともなかった。映画と小説では設定が異なることは何となく耳にしていたけれど、私のなかにほんの僅かある「リング」の知識はすべて映画オリジナルだったらしい。
 拍子抜けもしたがそれは置いておいて、小説版の『リング』は私の好みにかなり刺さる作品であった。だって呪いのビデオばかりを前面に押し出して広告してた作品があんなに熱いバディものだとは思わないじゃん……。竜司さん……結局本当の彼はどんな人だったんですかね……。
 感情移入できる登場人物が一人もいないというのにここまで引き込まれたのは初めてだった。心の底からオタク気質でよかったと思う。心境を考察するにつけ、貞子が大好きになってしまった。貞子、お前一体何を考えて生きて死んだんだ……。少しは楽しいことあったのかな……。駄目だよ子供が酷い目に合うのはさ……。そもそもどっから来たんだよ超能力……。すべての神々は即刻人間で遊ぶのをやめろ。

 ハッピーエンドとは到底言えない結末なのになんとなくすっきりした読後感が印象的だった『リング』だが、なんと続編があるというではないか。
 トラウマから避けてきた作品故、ここから先は本当に全く内容を知らない。さっそく借りてきた『らせん』。読むのがとっても楽しみだ。

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