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冬に読みたい天文学エッセイ『夜の魂ー天文学逍遥』
冬になると甘くてこってりしたお菓子が食べたなくなる。フルーツを散りばめたバターたっぷりのシュトーレンや、濃厚なホットチョコレート、アプリコットジャムをしのばせたザッハトルテーー。疲れた心と身体にしみわたる甘さの。
冬の読書も例外ではない。シュトーレンみたいな甘くて華やかなものが読みたくなる。数年前から私の「冬に読む本リスト」の定番となったのが、『夜の魂ー天文学逍遥』だ。
『夜の魂』は、天文・物理学者の書いた天文学エッセイだ。といっても、むずかしい専門用語で埋め尽くされているわけではない。むしろさまざまな詩や神話に美しく彩られている。
「なぜなら、美は恐怖の始まり以外の何物でもないのだから」と詩人のライナー・マリア・リルケは嘆いている。そして今宵、またしてもわたしは、堅い黒松と名もない星々の子供時代の夢にとらわれて、闇夜に目が覚めたのである。孤独な時間、絶望の時間、狼の時間であった。幽霊が影の中に宿っていた。肉体の幽霊、精神の幽霊。衝動に駆られてわたしは起き上り、灯の消えた部屋を抜けて、玄関先の前庭に向かった。そこで深更の秋空に、こそこそと横切ろうとしている冬の星座、オリオンの姿を捉えた。
甘くて濃厚な文体。本を開けば、すぐさま宇宙と文学のロマンにどっぷり浸かることができる。
宇宙や遠い昔のことを考えていると、日常の悩みが些細なことに思えてくるから不思議だ。星の時間軸を思う。それは新しいストレス解消法かもしれない。
「今宵、星のかすかな明かりの中で/木々や花々が、冷たい彩りをまき散らす」。
瞑想の今宵、シルヴィア・プラスの詩を引用するのも三度目だ。毎日が小さな生命であり、それぞれが小さな闇に囲まれている。銀河はわたしたちから逃げ去り、その明るさを薄め、空を暗くする。夜は字宙の青年期である。
わたしの歩いていた道の両脇には生垣があった。木苺と忍冬とフクシアの生垣である。フクシアの角灯は、その淡い光を薄め、華やかな暗褐色や深紅色は色褪せて、銀河とともに飛び散ってしまった。字宙は若い。わたしはその若々しい光の中を歩いていく。(後略)
シュトーレンは、薄く切って少しずつ食べるもの。『夜の魂』も同じように、少しずつ大切に読んでいくのがあっているように思える。
ナイトテーブルに乗せておいて、寝つきが悪い夜なんかに少しだけ読んでみたり。人の世の小さな悩みはぜんぶ忘れて、冬のクリアな夜空に思いを馳せる。贅沢な時間がそこにある。
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