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相性の良い山本周五郎賞受賞作品発表の5月

5月は山本周五郎賞の発表月。直木賞よりも自分的に相性が良いので毎回気になっている。加えて候補作の多くを読んでおりどれが受賞するか予想することも出来る。楽しいものだ。
その関係で候補作で読めていなかった萩堂顕「ループオブコード」を読む。400ページ2段組と膨大ながら楽しめた。帯にはあの「虐殺器官」と並びという文言もある。伊藤計劃の傑作として名高く私も読んだが難しい点も多かった。あのテイストかぁ、と考えたのだが、いやいやエンタメに寄っているので読みやすかった。スリラーと医療ミステリーの2面から進行する物語は緊張感を持って進んでいく。分量が多いのは脇役含め登場人物の掘り下げに割いている所がありそこが面白味でもある。受賞は残念ながらならずだが、次回作も期待が出来るだろう。
ちなみに受賞は永井さんの「木挽町のあだ討ち」こちらは今年始めに読了済。江戸の時代小説の良さとミステリーが融合した作品で自分の本命でもあった。おめでとうございます。

さて新刊でもう1冊。門井慶喜さんの「文豪、社長になる」だ。文藝春秋をつくった男、菊池寛。彼の生涯を取り巻く文豪仲間や戦争、解散危機などの出来事とともに追っていく歴史小説である。門井さんは歴史小説、本の小説、文豪小説、建設小説など史実を文学に落とし込むのが大変に優れている方かと思うのだが、本作品でもそれは見られる。特に芥川・直木賞をつくったエピソードは2人の苛烈な作家と菊池との友情物語が読めて大変に素晴らしかった。

毎月何冊かは過去の名作を読むようにしているのだが、5月は「ジェームス山の李蘭」を読んだ。作者は樋口修吉。トクマの特撰にて復刊した作品だがタイトルになっている李蘭ではなく主人公は八坂葉介という人物。軟派を目指す彼が青年から大人になる過程を当時の風俗を交えながら描く。特に中盤のポーカーのくだりは良かった。ギャンブル小説の一面を見事に書いており、その後の著者の作風となる礎があった。

最後は翻訳。ようやくながらずっと読みたいと思っていたフランシスハーディングを読んだ。「噓の木」である。自分が思っていた以上にダークな印象を受けたが、周りは敵ばかりな少女が懸命に頑張る姿はYA小説そのもの。嘘をつくことで成長する不思議な木にイメージを持っていかれるが、実際にはついた嘘からどんどん不穏な雰囲気になる現実じみた話でもある。うーむ思っていたのと違うが面白いぞこれは。ということで今月はここまで。ではまた。


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