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茗荷谷くん #1

地下鉄のくせに日を浴びられるのはずるいと、思う。
なぜこの街で、
顔を出そうと思ったのだろうか。
丸の内線の赤は、私には、
眩しい。

だって、だって、この街は灰色の。
ぐにゃりとした灰色の線でできていて、
先が見えない、それは不安な色と形とで描かれているから、
私は時たまに、そんな線の上を歩いていることが不安でたまらなくなるのだ。


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なんで不安になるの?
考えすぎだよ、いつも。
そう言って真っ直ぐに、この灰色の線を、
ただひたすらに走っていくあなたは、眩しい。
不安にさせているのは、あなたの方でしょ?
そういうと、あなたは不思議な顔をする。
青空が見えたって見えなくたって
雨に濡れたって曇り空だって
そんなことさえも気にしていないみたいで。

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そうしてその赤は、灰色の街に溶けていく。
くすんだこの世界のなかの、
一瞬だけ垣間見えるこの赤い車両のおかげで、
わたしはこの街がどうにもこうにも、
好きなのだ。



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