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DAO(自律分散型組織)の大衆化は何をもたらすか DAO1.0から3.0までの歴史から考える

最近、Web3とメタバースに関する講演の依頼を頂くことが多い。この二つはセットで扱われたり、Web3の一部にメタバースを含める場合もあり、概念的にも揺れている状況であるが(実際には別々に発展してきた概念である)、Web3領域の中で地味に、しかし着実に展開してきているものがある。それがDAO(自律分散型組織)である。

DAOはビットコインの初期から提唱されてきた概念である。ビットコインの登場により、「従来は中央銀行のような信頼のある大組織でなければできなかった業務を、個人個人のネットワークで、しかも自律的に各ノードが業務を実行することで、全体として最適な処理が行われる」ということが現実に実装可能であることが証明された。

そこで、このアーキテクチャの社会経済的側面、組織的側面を多方面に展開しようとして抽象化された概念がDAOである。最近では、メタバースの管理から、空き屋対策・シェアハウス活用、マンガ等コンテンツ制作、地方創生など様々な領域においてDAOが登場している。

しかし、実はビットコインからブロックチェーン、Web3と主要なキーワードが変遷していく中で、DAOの内実も少しづつ変わりつつある。以前にも簡単にDAOの歴史を振り返ったことがあるが、今回はもう少し深堀して考察してみたい。

DAO1.0から3.0までの展開


これまでのDAOを振り返ると、3つのフェーズに分けられるだろう(下図)。

DAOの展開

DAO1.0 と呼んでいるものが、「原理形式」といっても良いものである。あらかじめプログラミングされたプロトコルを自動的に各ノードで実行することで、組織的に業務処理を実現する。業務実行における人の介在は極めて少なく、あらかじめデザインされたインセンティブに従って業務が割り振られ、報酬が支払われるように実装されている。ビットコインやイーサリアムのブロックチェーンそのものに見られる形式である。(ビットコインの運用は2009年開始)

DAO2.0は、こうした自律的、自動的に処理が行われるDAOを、より広範な業務に適用しようとしたものである。特にイーサリアムが登場したことで、ブロックチェーン上で動作するソフトウェアであるスマートコントラクトを活用すれば、あらゆる業務を自律分散型に転換できるのではないかという期待が高まった。マーケットプレイス、ライドシェア、クラウドソーシング等のプラットフォームをDAO的に実装しようというアイデアが注目を集めたのもこの頃である。2016年頃からのことである。

しかし、こうした期待と裏腹に、全ての業務をスマートコントラクトに記載して実行するには、データ容量、スピード、メンテナンス性、プログラミングの汎用性など多くの点で困難に直面し、多くのプロジェクトは立ち消えに終わった。自律分散型組織の「複雑化」に挑戦したものの、結局はブロックチェーンに登録するのは証跡など一部の機能に留め、ほとんどの機能をその外側に構築する方が現実的ということになった。

こうした中で唯一「複雑化」の中で成功し、現在もほぼ純粋な形でDAO的に実装されているのがDeFi(分散型金融)の世界である。特に分散型取引所(DEX)ではUniswapが95%以上のほぼ独占的といってよい市場シェアを達成しており、累積取引額1.4兆ドル以上という実績を誇る。利用者から預けられた仮想通貨を基に両替取引を行うにあたり、流動性確保等に関する高度な数理モデルを実装している。

分散型取引所のシェア

そして、現在主流になっているのがDAO3.0である。これは、プロジェクトのトークンの保有者によってコミュニティを形成し、トークン持ち高に応じた決定権限により意思決定を行う。業務の変更や新規の取り組みに柔軟に対応できる。ブロックチェーン/スマートコントラクトはその基盤技術として活用するが、サービスそのものを自律分散的に実装することは前提とされていない。以前も紹介したSnapshotなどのツールを使って、議論や意思決定が行われる。(Snapshotが2021年からなので、DAO3.0もその頃からと思われる)

このDAO3.0では、業務そのものをプログラミングして、自律分散的、自動的に実行しようという思想は影を潜め、コミュニティへの参加権としてのトークンを利用する形式となっている。先述のように、メタバースの管理から、空き屋対策・シェアハウス活用、マンガ等コンテンツ制作、地方創生など様々な領域においてDAOが登場している。トークンを購入するだけで参加できるため、DAO1.0、2.0に比べて敷居が低く、その意味では「DAOの大衆化」といってよいだろう。多くの人にとって、自律分散的な仕組みに触れる機会が増えたという点では大きな意義がある一方、技術的な革新性という点ではやや後退した面もあるかもしれない。

DAO3.0の意義を考える


おそらく、現在のDAO3.0は従来のブロックチェーンの展開の文脈ではなく、コミュニティやボランタリー組織の文脈で理解する方が良いかもしれない。オープンソースのコミュニティ、シビックテック、地域のボランタリー活動、NPO/NGOなど、「ヒエラルキー×売上依存」ではない形の活動はこれまでも次々に展開してきていた。ここに、一つの便利な参加権(券)として、また成功した際のインセンティブとしてのトークンが使えることになった。

ただ、DAOでは最初は対価なく出資(投資)を行い、プロジェクトが成功したら大きなリターンが得られる(かもしれない)という、キャピタルゲインの発想も組み込まれる。そして、その価値を上げることができるのは自分たちの貢献次第である面もある。従来は限られた人にしかアクセスできなかったベンチャー投資や、ストックオプションのような制度が、広くDAOを通じてアクセス可能になったとも言えるだろう。DAOがいわばキャピタルゲイン文化の普及をもたらす面もある。

コミュニティの延長でもあり、キャピタルゲイン文化の担い手でもある。その配合の度合いは一つ一つのプロジェクトによっても異なるだろう。このような視点で、今後の展開に注目してはいかがだろうか。


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