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豊かな社会に向かうために、果たして自分には何ができるのか

はじめに

世の中には、新たな価値を生み出すことに挑戦する人と誰かによって生み出された価値を積極的に利活用し世の中に広げる人、そしてそれらを傍観する人が存在する。

イノベーションの起点を創るのは、スタートアップの起業家や社会起業家をはじめとする、新たな価値の創造に挑戦する人たちだ。このような挑戦者によって生み出された新たな価値を積極的に利活用する人たちがそれらを世の中に広げ、大きく育てることで社会実装に向かい、世界が前に進んでいく。

海外と比べると、日本は新たな価値の創造に挑戦する人が少ないと言われる。日本は世界で1番の超高齢化国家であり、精神的・身体的に保守的な選択肢を取らざるを得ない人々が多いことや、日本人の国民性として、不確実性が存在する新たな選択肢よりも、既にエビデンスが揃った選択肢を好む傾向が高いなど、その理由はいくつも挙げられる。欧米の先進国と比較して開業率が低いという統計にも、そんな日本人の国民性が色濃く表れているように思う。

日本の現在地

時は大きく遡るが、日本の高度経済成長期における力強い経済成長を支えていた団塊世代の人たちは、おそらくとても喉が渇いていたのだと思う。エズラ・ヴォーゲル教授が書いた書籍「Japan as No.1」にもある通り、戦争によって多くのものを失い、戦後の焼け野原からの復興を目指す中、もっと成長しよう、もっと豊かな生活を実現しようという飽くなき欲求や意志が当時の人々を強く突き動かし、テレビ・洗濯機・冷蔵庫といった「三種の神器」をはじめ、数々の新たな価値が生み出された。また、良質で安い労働力や、軍需生産のために官民一体となり発達した技術力、高い貯蓄率、輸出に有利な円安相場、消費意欲の拡大なども重なり、1968年には日本がドイツのGDPを抜き、世界第2位のGDPを生み出すまでに経済成長した。

しかし今はどうだろう。日本の基幹産業の多くがアナログ技術をベースに成熟を遂げたものの、デジタル化の局面では逆にそれらが足枷となり、DXに意欲的なひと握りの企業を除いて、遅々としてデジタル化が進まない。新規事業に挑戦しようにも、実績や事例がないとなかなか社内稟議が通らない。決められたオペレーションに沿ってプロダクトやサービスを創ることは得意だが、独自性やブランドエクイティなどの非価格競争力が築けず国際競争力は低下するばかりで、一向に賃金も上がらない。結果として、2023年のGDPは日本の人口の2/3しかないドイツに抜かれて世界第4位となる見込みとのこと。ドイツが日本のGDPを抜くためには、大まかに言って日本の生産性の1.5倍を実現する必要がある訳だが、多くの日本企業がMade in Japanへの拘りを捨てて、生産拠点を当時労働単価が安かった海外に移し、薄利多売に傾いた日本とは異なり、製造業を中心に一貫してMade in Germanyであることに拘り、高付加価値をつけて高く販売する努力をしてきたドイツとの差が如実に表れた格好だ。また、一人当たりの名目GDPで見ても日本は32位と、国全体として長期にわたり経済成長していないだけではなく、再び成長軌道に乗せる打ち手も殆ど打てていないように見える。

その一方で、私たちも拠点を構えているインドネシアやベトナム・インドなどの国々はどうだろう。まさに日本の高度経済成長期のように、もっと成長しよう、もっと豊かな生活を実現しようといった飽くなき欲求や意志が現地の人々を突き動かし、主にはスタートアップの存在によって産業のDXが急速に進むと同時に、(地域格差は依然存在しているものの)総じて豊かな国に向かいつつある。日本と異なり、デジタルとのカニバリを生じさせる阻害要因があまり存在しないことや、経済的に恵まれない状況が長期間続いていたことによる反動も大きいだろう。昨年2月に実施したチームオフサイト@Jakartaでインドネシアの支援先スタートアップとキャッチアップした際、どのファウンダーも目を輝かせながら壮大なビジョンを語ってくれたのが記憶に新しい。

チームオフサイト@Jakarta(2023年2月)

今の日本に必要なこと

アナログ技術をベースに大きく経済成長したものの、1995年をピークに生産年齢人口が減り続け、世界における存在感が急激に低下している日本。インターネットの恩恵を受けつつ、デジタルとの相性が良い若年層が多くを占める人口構成や人口の多さを存分に活かしながら、今後数十年経済成長し続けるであろう東南アジアやインドなどの国々。これまで日本は「先進国」と呼ばれるに相応しい国だったと思うが、現状を冷静に見るともはや「後進国」と呼ばれざるを得ないだろう。

しかし、そんな日本の現状を打破するかのように、起業家の裾野は分厚くなってきているし、大きな志を持って社会課題の解決や新たな価値の創造に挑戦している起業家、日本を飛び越えてグローバルマーケットを本気で狙っている起業家は間違いなく増加している。スタートアップエコシステムに循環するリスクマネーも増加しているし、スタートアップへの投資から始まった大企業のオープンイノベーションも一巡し、投資から具体的な共創を目指すフェーズへとステップアップしつつある。

2022年11月、政府よりスタートアップ育成5ヵ年計画がアナウンスされ、2027年度にスタートアップへの投資額10倍超(10兆円)、ユニコーン100社、スタートアップ10万社創出などの数値計画が発表された。これらを実現するためには、志の高い起業家を一人でも多く増やす必要があるのはもちろん、大きな志を持った起業家が全力でフルスイングでき、事業の成功に必要なあらゆるアセットにスムーズにアクセスできる環境を整えることが重要なのは言うまでもない。また、スタートアップに期待するだけではなく、投資家・事業会社・政府・地方自治体といった産業創造に関わるあらゆるステイクホルダーも実績・事例主義から大きくマインドを変え、まだ見ぬ未来をともにゼロから創っていく覚悟と意思を持たなければならない。そして、企業や業種などの垣根を越え、一つのチームとなってあるべき未来を実現するために本気で挑戦することが大切だと思う。新たな価値を生み出すことに挑戦する人が増え、それらを本気で支える人が増えるときっと未来は変えられるのはもちろん、挑戦者の背中を見てまた挑戦者が増えるという好循環が生まれるはずだ。

私たちの今後の取組み

ジェネシア・ベンチャーズは「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」というビジョンを掲げているベンチャーキャピタルだが、このビジョンは、私個人の意思とも深くリンクしている。

敢えて言うまでもないが、世界は今混沌としている。ウクライナ戦争をはじめとした地政学的リスクの高まりや、ネットによって世界があらゆる角度から可視化され、これまで目に触れることがなかった情報のシャワーを大量に浴びる時代。知りたかった情報はもちろん、出来れば知りたくなかった情報、見たくなかった情報までもが目に耳に飛び込んでくる時代。日々情報が増え続け、脳内の構成要素が多次元になり、その複雑性にますます拍車がかかっている。

そのような中で、誰しもが”今”を生きている。

年齢・国籍・ジェンダー・人種・思想・宗教など挙げると切りがないが、世界は数えきれないほど多層のミルフィーユに包まれ、人の数だけその組み合わせが存在している。他人の目を気にすることなく、胸を張って自分の好きな生き方を選んでいる人、他人からどう見られるのかを常に意識しながら生きている人など、人の数だけ生き方が存在している。

しかし、人の数だけ存在する人生にひとつ共通しているのは、誰しもが寿命を全うすれば必ず死んでいくという事実。そのような中で、自分の中で自問し始めたことがある。

それは、エネルギー問題や食糧問題、貧困問題や気候変動問題など、次世代にバトンを渡す前に解決に向けた打ち手が十分に打ててない中で、また児童虐待・動物の殺処分・自殺・殺人事件や戦争といった、思わず目を瞑りたくなるニュースを、冷静な口調のニュースキャスターから、毎日のように浴び続ける中で、それらに対して自分が何もできていない無力さとともに湧き上がってくる「豊かな社会に向かうために、果たして自分には何ができるのか? 」という自身に対する問いだった。

このような問いを立てると、人の数だけ存在する豊かさの形に対しての共通解を探す必要性に迫られるが、豊かな社会自体が、大いなる多様性を包摂する概念であることは疑う余地がなく、共通解なんて持つことはできないことにようやく気づいてきた。では、どうすれば豊かな社会の実現に向かうことができるのか? 世の中に数多く存在する社会問題に対してのソリューションを一つ一つ考え、チームを創るのがいいのか?

もちろんそれも極めて重要なことだと思うが、私は
・自ら問題を定義し、解決方法を考え、仲間を巻き込みながら高い情熱を持って解決に向かう挑戦者を増やすこと
・挑戦者が持つ可能性を解き放つ環境を創り、育むこと
・挑戦者同士の一期一会を生み出し、イノベーションの総量を最大化すること
の3つに自分の有限の時間を使いたい。そして、それぞれが持続的な形で成長し続けるエンジンを残してこの世を去りたいと考えている。

もちろん1人でできるわけなんてない。だからこそ、たくさんの意志ある人に仲間になってもらい、連携することでこれらを実現したい。

ここでいう挑戦とは何か。

冒頭にも書いたが、イノベーションの起点を創るのは、スタートアップの起業家や社会起業家をはじめとする新たな価値を生み出す挑戦者たちだ。でも、それ以外にもたくさんの挑戦の形がある。企業の中で今の仕組みをより良いものに変えるという志を持って日々奮闘している人もそうだし、スタートアップのように急成長は目指さずとも、自分がやりたいこと、得意なことを活かし、意志を持って生きようとしている人、これもひとつの挑戦の形だと思う。

そのような挑戦者を世の中に一人でも多く増やすこと、そして意思のあるさまざまな投資家や事業会社と連携しながら、挑戦者が持つ可能性を解き放つ環境、具体的には挑戦者の想いを実現するための一期一会を生み出す場であり、想いを実現するために必要なノウハウ・ナレッジやソリューションが得られる場を創り、育むことができれば、多様性を包摂しながら、豊かな社会を実現する方向に歩んでいくことができるのではと考えている。

①挑戦者を増やすこと
‐ジェネシア・ベンチャーズのビジョン「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」、及び前職の同僚である越智さんと共に立ち上げたグランストーリーのビジョン「次世代に活力と希望に溢れる豊かな未来をつなぐ」を広く社会に伝え、広げていくこと
‐自分自身を受け入れ、その人が持つ興味・関心や強みを活かして豊かに生きている人を増やす「次世代の学び舎(仮)」をつくること
挑戦者の持てるポテンシャルを最大限活かせる場を創り、育むこと
‐ジェネシア・ベンチャーズが掲げる「6つの挑戦」に共に向かえるスタートアップへの投資・支援を通じて、スタートアップが持つポテンシャルを解き放ち、世の中をあるべき方向に推し進めていくこと

-スタートアップのように急成長はしないものの、社会的に解決すべきテーマに取り組む挑戦者の可能性を解き放つ仕組みをつくること
一期一会を生み出し、イノベーションの総量を最大化すること
前述のグランストーリーが提供している新産業創造プラットフォーム「STORIUM」を通じて、高い志を持った人同士の一期一会の機会を最大化すること

これらの3つのアクションを通じて、微力ではあるが、多様性を包摂しながら、「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会」に向かっていくことに少しでも貢献できるのではと考えている。

最後に

このタイミングでこのような記事を書いたのは理由がある。一つは、少し前に「豊かな人生ってなんだろう」というnoteでも書いた通り、自分の父親が50歳でこの世を去ったことから、私にとって50歳は一つの大きな区切りであり、50歳まであと1年と少しのこのタイミングで今の自分が見えている景色について書き残しておきたかったことが一つ。もう一つは、私自身がベンチャーキャピタリストをやっている意義を内省する中で、地球を持続的にしていくため、豊かな社会を実現していくためのイノベーションやソリューションに投資・伴走することを通じて、後世に残り続ける産業、次世代に良い形でバトンを渡すことに繋がる産業を残すことに貢献したいと改めて決心したことが大きな理由である。高い利益や高成長をただ目的とするのではなく、地球を持続的にしていくため、豊かな社会を実現していくために、そしてそれらの経済活動を持続的、且つ大きなうねりにしていくために、しっかり稼ぎ、成長していくという考え方を大切にしたい。前例や事例など何もないシードラウンドでの投資にフォーカスしているベンチャーキャピタルだからこそ、ゼロからイチを生み出す不確実性を思いきり楽しみ、起業家の持つ可能性を解き放つ存在であれるように、私自身も日々学び、進化し続けていきたいと思う。起業を検討している方、起業してシードファイナンスを検討している方、是非ディスカッションさせてください(ご連絡はこちらの問い合わせフォームまで)!

2023年12月に実施したオフサイトミーティング@沖縄にて(フルタイムメンバーのうち、水谷(航己)さん、宮原さん、吉田(愛)さんの3名が都合で参加できなかったのが残念でしたが、日本・ベトナム・インドネシア・インドのメンバーが一堂に集まり、最高の時間を過ごすことができました)

【採用告知】私たちと共に、ビジョンの実現に向かえる頼もしい仲間を探しています

ジェネシア・ベンチャーズでは、現在「スタートアップが大きな挑戦をし続けるための資金獲得と体制構築を行う」をミッションに掲げるPPM(Portfolio and Partnership) チームの仲間を探しています(募集要項はこちら)。また、この記事はPPMチームの活動に関しての吉田(実希)のnoteです。今すぐの転職を検討していない方でも構いません。また、経験者自体がほとんどいないポジションなので、VC/金融業界の経験も全く問いません(IBD職や事業会社の投資・M&Aに関わったことがある方などは特にフィットしやすいと思います)。Join Genesia, We are hiring!


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