【随筆】東京


地方出身の人が少しだけ羨ましい。

首都圏内に生まれ住むと上京というのは帰省だ。数年だけ大阪に住んでいた頃、地方都市では最大規模の大阪の人でさえ、上京というのは何か夢のある話のように語っていた。何だか地方から見た上京というものの感覚がいまいち理解出来ない。

「上京して、失敗して、地元に帰ります。」そんな話は存在しない。都会生まれが全員そうだとは思わないけど、都会の嫌な部分だってたくさん見る。満員電車で通勤通学なんかして、少し頭が良くてももっと頭が良い学校、少しスポーツができてももっと強い学校がある。全国から、つまり地方から、能力の高い人間を集めて競争させる。トップ思考を与えながら、上には上がいることを示す。そういう匂いがするのが僕の地元で都会だった。

河川敷にはブルーシートの家が建つ。線路の高架下にも野宿する人がいる。皇居の近くのオシャレなオフィスビルが建ち並ぶ駅でさえ、ホームレスはいた。そういう世界を横目に、何だか知らないグローバルとか経済とかそういうところで活躍することが、良しとされる空気感に踊らされている。でも、日本の教育は変に自己責任論が蔓延してるから世界観には成り得なかった。


別に地方にだってそういう匂いはあるんだろうけれど、「故郷に帰る」選択肢があるというのは少し羨ましいことだと思った。地方に生まれたってそういう選択ができない多くの人がまた、都会に残ることも分かっていた。



東京というのは昔から現実の街だ。

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