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共話とピアス

ドミニク・チェンさん出演のtakram radioポッドキャストで「共話」というコミュニケーションタイプが言及されていた。

共話的な意思決定とは、各人のバックグラウンドをもとに、お互いに対話をする中で即興的に、言説や意見が形成されていく営みをあらわす。
例えばこんな感じ。
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ex.1
A:男のピアスってどう思う?

B:え、何急に。うーん、似合う人がつけてたらかっこいいよね。でも痛そうだし、イヤリングみたいなのもあるから、わざわざ穴を開けるのはよくわかんないかな

A:そうだよねー、実はおれ空けようかなと思ってて。

B:え、まじ。なんで

A:なんかさ、自分が自分である理由ってさ、この体にはない気がしたんだよね。だから印をつけてみたいなと思って。

B:ほぉ

A:あと、身体改変というか拡張をしてみたかったのもある。整形とかはお金かかるし、刺青は痛そうだし。ピアスなら手軽にできるし、嫌になったらほっとけば穴も埋まるらしいし。ちょうどいいかなって。

B:なるほどね、たしかに心と体が別物みたいな感覚は僕もある。印をつけて自分の存在を確かめたい、みたいな感じなのかな

A:そうそう、そんな感じ!

B:家畜の識別番号思い出したわ。あの豚とかの耳についてるやつ。あれで個体管理してるんでしょ

A:おぉ、なんかそう言われると複雑だな

B:あ、気を悪くしたらごめん。

A:や別にいいけど

B:でもなんていうかさ、すごく即物的な考えじゃない?ピアスを開けるっていうのは、たしかに改変とか印とか言ったらそれっぽく聞こえるけど、ただの自傷行為にも見えるよ。体に異物ぶっ刺して、それだけでお前がお前ってことになんのかな

A:うーん、それも一理あるとは思う。け ど、自傷行為が悪いのかっていうのもおれはよくわかんないんだよね。自分が嫌いだと傷つけたくなるじゃない。そうすることで心のやるせなさをどうにかできるっていうことも、過去にあったんだよな。

B:え、リスカ?

A:ちげーよ、ちょっとカッターで肌に傷つけたくらい。でも、意図的に体の一部を変えることで、それを意図した精神がフィードバックを得る。っていうこともあると思うんだよね。

B:あんまかわんねーじゃん
なるほどね、それはおもしろいかも。病は気からっていうじゃん?あれは心が体に影響を与えるって話だったけど、今は体が心を変えていくこともあるってことだよね。

A:うん。ま当たり前っちゃ当たり前だと思うけどね。身長によって見える高さは違うし、イケメンとおれの精神性とか世界との関わり方は根本的にちがうと思うし。

B:草。
前にテレビで、精神的な不調もホルモンバランスとか、運動不足睡眠不足から来るっていう話をしてたんだけど、それに近いのかもね。ピアスでそれを意図的にうんでみるってことなのかも。

A:あー、それね。生理中の彼女にどう接したらいいかわかんない、的な。

B:え、お前彼女いんの。

A:うん。え、あれ、言ってなかったっけ。バイトの先輩

B:初めて聞いたわ。まじかよ。。

A:え、なんかごめん。

B:いや、なんであやまんだよ

A:知ってると思ってたわ。

B:いや、うん、お幸せに。ピアス気に入ってくれるといいな。うん

A:あの、あれだったら女友達とか紹介しようか、、

B:えマジ!それはエキサイティング

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画像1

ほんとにあけました。てんあげ

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ex.2
C:こないだ彼氏が急にピアスつけ始めたんだ

D:え、まじ、あの後輩くん?ピアスつける感じにはみえなかったわ

C:うーん、なんか体を改造したいみたいなこと言ってて。よくわかんなかった。

D:変なの笑 でも男の人のピアスって私好きだけどね。なんか、シンプルだけど目立つし。

C:たしかにー。髪が短いからかな。かっこいい人はかっこいいけどさ。あのひと、私服とかダサめなんだよなぁ。なんか、イキリ大学生にみえちゃうんだよねぶっちゃけ

D:うける笑 たしかにファッションと合ってなかったら嫌だなぁ

C:でしょ!それ言ったら、これをきっかけにおしゃれもがんばるとかなんとか

D:へー、でもそれならいいじゃん!かっこよくなったら嬉しくない?

C:そうだけどさぁ、うーん、あんまりイメージできない。

D:改造したいって思うきっかけみたいのがあったのかな。ハガレンの再放送とか

C:えーわかんない。ほんと急だった

D:ふーん。謎だね

C:ほんとだよ。空ける前に一言くらい言ってくれてもよくない?なんか雰囲気変わっちゃった気もして。

D:でもさ、それって、ピアス空けるっていう体の改造をきっかけに、自分を変えようとしてるってことなんじゃないの。
体だけじゃなくて、行動とか気持ちも変わっていく、みたいな!

C:あー、うーーん、そうかな

D:男の人がピアスをあけるって、ちょっとチャラいイメージあるけどさ、自分の理想像に近付いたり、美意識を実現したりする、その第一歩としてピアスを開けたっていうなら、納得できるかも?

C:んー。彼氏にはやりたいことやり続けていてほしいしな。それは尊重したいなって思う。たしかにそう考えると、ピアスも彼氏っぽさをあらわすものになっていくのかも。

D:うんうん。今は違和感あるかもしれないけど、なんかまた新しい一面が見れたりするんじゃない。いつも頼りない感じだけどさ、クール系になろうとがんばっちゃったりして

C:…それはエキサイティング


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各々が、相手の話を受けた上で打ち返し、そのラリーの応酬からその場における意見やアイデアが形成される。これが共話。
そして共話的に形成された意見は、話者に内在化され、話者の知的バックグラウンドが更新される。
そして、また別の空間、別の時間、別の人間で新たな共話がなされる。

これは人間と人間の間だけでなく、例えば読書中に頭の中で起きていることにも似ていると思う。著者が言葉というスタイルで文章中に散りばめた思考法やアイデアに読者が触れ、読者の頭の中では自分のこれまでの経験と紙面の情報との間に相互作用が生まれる。時に経験が別の解釈のされ方をしたり、紙面の情報が恣意的に理解されたり、はたまた文章中の「ピアス」という単語をきかっけに、読者の脳内で「好きなピアスランキング」が作成され始めるかもしれない。

このようにして、意見が私と他者との対話の中で、まるでジャズのセッションのように形成され、それが別の場において新たな意見の形成につながり、それがスノーフロスト型に展開していく。その展開の仕方は、その場にいあわせた人間がふだんから保持している知的ネットワーク(エコシステム)に応じて変化する。

ここで「意見」というのは、主観性を伴う情報であって、そこにはなんらかの意味が生じる。ある個人の個人的な経験や、その人にしか当てはまらないようなことも、その意見には含まれることがある。それを肯定的・否定的にとるかは受け手によるが、重要なのは、共話においてはその主観性こそが人間が生み出す情報が価値をもつ根拠になるということだ。
「客観的な」情報は、意見にはなり得ない。(意見を補強するエビデンスにはなる)
ある事象について話す際に、「事実→解釈→展開」というプロセスがあるとすると、共話は各々の解釈を出し合い、それを立体的にアウフヘーベンすることで展開していく。

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偉大な思想や思考法やアイデアも、全て誰かの口から発せられるときには「意見」だ。
人間が生み出す意味情報(=意見)というのは、個々人が持つ知的ネットワーク(エコシステム)を土台に、度重なる共話を通じて、形成され、ときに淘汰されながら、発展していく。
その共話において価値を持つのは、あなたの個人的な経験や主観である。そこには正解も不正解もないし、上も下もない。

だから、共話的な場においては、もっと自由に、話したいことを話せばいいんじゃねって思うんですが、どう思います?


※サムネ画像は渋谷「パーラー大箸」の『ととのうプリン』。超絶おいしかったです。

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