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新型ハードコア「ニューコア」は2020年代のロックのメインストリームになるか?

ニューコアとは、2010年代中盤から増えてきた、新しいタイプのポストハードコアです。

その音楽性を端的に表現するなら、「ポップでモダンなポストハードコア」といえるでしょうか。あるいは多くの日本人には「ONE OK ROCKをヘヴィにした音楽」という表現の方が分かりやすいかもしれません。

ハードコアの一種でありながら、美しいクリーンヴォーカル、叙情的なメロディ、キラキラとした輝度の高いギターサウンド、ピアノやストリングスを使ったドラマティックなアレンジ、シンセやデジタル的なエフェクトを多用した広がり空間処理などを特徴としています。

表層的にはオルタナティブ・ロックに近く、従来のハードコアやポストハードコアのような激しい音楽を好まないリスナーでも楽しめる、聴きやすい音楽です。

メインストリームとの対立を存在意義とするハードコアに属しながら、商業主義的なサウンドへの接近を恐れないのが、ニューコアの特徴です。

2010年代中盤に自然発生したニューコアは、ロック不毛といわれる2010年代に徐々にその影響を広げていき、多くのポストハードコアやメタルコアに属するバンドたちがニューコアのスタイルに移行していきました。

さらに2020年1月に開催された第62回グラミー賞では、代表的なニューコア作品であるBring Me The Horizon『Amo』とI Prevail『TRAUMA』がBest Rock Album部門にノミネートされるまでに至りました。

このニューコアは、世間一般に浸透しているジャンル名ではありません。Spotifyの同名プレイリストから私が勝手に命名したものです。

しかしこれは、私の単なる思い付きでもありません。2010年代中盤以降、ポストハードコアやメタルコアがポップに変質していく現象は、明らかに存在しています。

昨年も多くのポストハードコア/メタルコアバンドがニューコアに移行し、ニューコアのスタイルを踏襲した若いバンドも世界中から数多く登場しました。今勢いのあるこのニューコアこそ、2020年代のロックシーンにおけるメインストリームを形成する、最有力候補ではないかと思ったりもします。

このnoteでは、そんなニューコアの解説とともに、最後にニューコアを代表するアルバムを約50枚ほどご紹介したいと思います。

「解説はいいからさっさと音を聞かせろ」という方のために、おすすめ曲を集めたプレイリストを、SpotifyとApple Musicで作りました。

初心者でも聴きやすいよう曲順も考えたので、最初はシャッフルではなく、是非順番通りお聞きください。

(現在は168曲ですが、今後もどんどん追加していきます)

Apple Music版はこちら

※当記事は有料記事になっていますが、全文無料で読めます。読んで満足いただけた方は、投げ銭感覚で課金いただけると嬉しいです。

ニューコア前史①パンクとハードコア

ニューコアの理解には、源流となっているポストハードコアの理解が不可欠ですが、現在のポストハードコアの成立経緯は複雑で、ロックの創成まで遡り、そこからパンクとハードコアについて説明する必要があります。

1950年代、チャック・ベリーやリトル・リチャードといった黒人アーティストたちはR&Bを過剰にアレンジし、大人たちが眉を顰めるいかがわしい音楽表現を発明しました。これがロックンロールです。

このロックンロールは、単なる騒々しい音楽ではなく、当時のアメリカ大衆音楽のメインストリームであったR&B、ジャズ、ブルース、ゴスペルに対するカウンターミュージックでもありました。

黒人文化の中で生まれた初期のロックンロールは、ほどなくしてエルビス・プレスリーやビル・ヘイリーらによって白人の音楽となりつつも、ブームとしては一旦沈静化します。

そして1960年代、ロックンロールは大西洋を渡り、大きく花開きます。アメリカのロックロールをラジオで聴いていたイギリスの若者たちが、The Beatles、The Rolling Stones、The Who、The Kinksとなり、彼らを中心としたイギリスの若いロックバンドたちが世界の音楽シーンを席巻したのです。

この人類史上初の世界的ロックムーブメントは、ブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばれています。このブリティッシュ・インヴェイジョンを契機として、「ロックンロール」は「ロック」となり、ポップミュージックの一ジャンルとして定着しました。

そしてブリティッシュ・インヴェイジョンとともに、ロックの主導権はアメリカからイギリスに移ります。

60年代後半にはCreamやジミ・ヘンドリックスに代表されるブルースロック、70年代にはLed ZeppelinやBlack Sabbathに代表されるハードロック、Pink FloydやKing Crimsonに代表されるプログレッシブロック、David BowieやT-Rexに代表されるグラムロック、あるいはQueenやエルトン・ジョンのような娯楽性の高いロックなどがイギリスを発信源として登場し、アメリカを始め世界中で人気を博し、ロック産業は巨大化していきました。

70年代に加速したロックの産業化には弊害もありました。元来はメインストリームに対するカウンターであり、社会に対する怒りや不満の代弁者であったロックンロール=ロックが、その精神性を失って高度な演奏技術や高尚な芸術性を競い合うようになっていったのです。

このようなロックの堕落に対し、ロックが持っていた破壊的な精神性を取り戻すためのカウンターミュージックとして1977年に登場したのが、Sex PistolsやThe Clash、The Damnedらに代表されるロンドンパンクです。

ロンドンパンクは、破壊的な精神性を拠り所としていたが故に、音楽性自体は決して革新的なものではありませんでした。

彼らが演奏していた3コードのロックンロールは、50年代のロックンロール、60年代のブリティッシュ・インヴェイジョンやガレージロック、70年代のMC5やThe Stoogesといったデトロイトロック、あるいはRamones、Television、パティ・スミスといったニューヨークパンクの影響下にある、「既出のモノ」です。

しかしながら、演奏技術を必要としないシンプルで粗削りなロックンロールというのが、1977年のイギリスにおいて、高度に複雑化していたハードロックやプログレッシブロックのカウンターになりえたわけです。

パンクが持っていたこの破壊精神は、ブームとなった自らの音楽性自体にも向かいます。その結果ロンドンパンクは短命で終わり、新しい後継ジャンルにすぐ移行していきました。その一つがポストパンクであり、もう一つがハードコア・パンクです。

ポストパンクは「既存の枠組みを破壊する」というパンクの精神性を引き継ぎながら、レゲエ、ファンク、ジャズ、民族音楽などの異ジャンルを複雑に掛け合わせて音楽性を拡散させていったジャンルです。Sex Pistolsのジョン・ライドンが結成したPublic Image Ltd、The Pop Group、Bauhaus、Cocteau Twins、Echo & the Bunnymenなどがその代表です。

一方のハードコア・パンク、俗にいうハードコアも、「既存の枠組みを破壊する」というパンクの精神性は引き継ぎながら、ポストパンクのような音楽的拡散ではなく、過剰なまでの極化を目指しました。極端なスピード、過激なシャウトやディストーションサウンド、親しみやすさとは真逆の希薄なメロディに、その特徴が表れています。Discharge、G.B.H.、Chaos UKらが、当時のUKハードコアを代表するバンドとして存在しました。

このようなイギリスのパンク/ハードコアシーンの発展と歩を合わせるように、アメリカでも多くのハードコアバンドが誕生します。

特にロサンゼルス(Black Flag等)、サンフランシスコ(Dead Kennedys等)、ワシントンD.C.(Bad Brains、Minor Threat等)、ボストン(Jerry's Kids、Gang Green等)、ニューヨーク(Beastie Boys、Agnostic Front、Misfits等)はその中心的な都市となり、商業的な成功とは無縁ながらも、ハードコアの歴史に名を刻む重要なバンドを多く輩出しました。

ニューコア前史②ポストハードコアとスクリーモ

80年代になって独自の発展を遂げていったUSハードコアですが、80年代後半になると、「既存の枠組みを破壊する」というパンクの精神性によって、既存のハードコアの枠組みを破壊する創造的なハードコアが誕生しました。これがハードコアの後継ジャンルであるポストハードコアです。

特にワシントンD.C.を拠点とする、元Minor Threatのイアン・マッケイが立ち上げたインディレーベルDischord Recordsはポストハードコア誕生の中心的な役割を果たします。

同レーベルに所属するFugaziや、Rites of Spring、Dag Nasty、Embraceといったバンドたちは、初期のポストハードコアシーンを牽引。そして90年代になると、Drive Like Jehuなどの個性的なバンドを多く輩出したカリフォルニア州サンディエゴも参戦し、ポストハードコアの発展に重要な役割を果たすようになりました。

また、ポストハードコアが誕生したほぼ同時期に、エモーショナル・ハードコア=エモという言葉も誕生します。さらに90年代に入ると、スクリームするタイプのエモの一部は、スクリーモと呼ばれるようになりました。

当時のポストハードコア/エモ/スクリーモの区別はかなり曖昧で、明確な定義があったわけではありません。そもそも、既存のハードコアの枠組みには収まらない「創造的なハードコア」「個性的なハードコア」「自由なハードコア」だったからこそ、ポストハードコア/エモ/スクリーモと呼ばれていたわけで、そこに決まった型がある方がおかしいともいえます。

そしてこの80年代~90年代における初期のポストハードコア/エモ/スクリーモは、現在広く浸透しているポストハードコア/エモ/スクリーモと、そのサウンド形態はかなり異なっています。

というのも、現在の一般的なポストハードコア/エモ/スクリーモは、2000年以降に再定義されたものだからです。そしてこの再定義に間接的な影響を与えたのが、2000年代初頭のJimmy Eat Worldです。

90年代末期のエモシーンの代表的なバンドとして一定の人気を誇っていたJimmy Eat Worldは、2001年に『Bleed American』というアルバムをリリースします。本作は、それまでの「自由に解釈されたハードコアの一種」としてのエモではなく、パワーポップやポップパンクの要素を多分に含んだ、大衆性の高いオルタナティブ・ロックでした。

これが爆発的にヒットし、エモの定義が塗り替えられます。エモとは、『Bleed American』に似た、やや哀愁を帯びたポップパンク風のオルタナティブ・ロックを指すようになり、この新型エモが2000年代のロックシーンを席巻していきました。(2000年代型のエモは、オリジナル・エモと区別するために「エモポップ」と呼ばれることもあります)

このJimmy Eat World主導のエモの再定義とともに、スクリーモの定義も「スクリームする2000年代型のエモ」という定義に変質します。

当時の代表的なバンドであり、スクリーモシーンを一躍売れるジャンルに押し上げたThe Used、Finch、Thursday、Thrice、Grassjawといったバンドたちは、オリジナルのスクリーモとは大きく異なり、クリーンヴォーカルや大衆的なメロディを兼ね備えたハードコアでした。

彼らのサウンドは、従来のポストハードコアやエモよりもむしろ、90年代のオルタナティブ・ロックやニューメタル、北欧メロディックデスメタル、あるいはスウェーデンのRefusedのような新しいタイプのポストハードコアに強く影響を受けています。

この新型スクリーモは、エモの興隆とともに2000年代中盤に勢力を大きく拡げ、My Chemical Romance、Senses Fail、Alexisonfire、Taking Back Sunday、Silverstein、Underoath、Red Jumpsuits Apparatus、Saosin、Story Of The Year、AFI、Hawthorne Heights、Funeral for a Friend、Hundred Reasonsといった新興勢力が世界中から続々と登場しました。

そしてスクリーモシーンは拡大とともに、スクリーモではなく、ポストハードコアという呼び方に集約されていきます。

そんな2000年代の新型ポストハードコアと、それ以前のポストハードコアとの一番の相違点は、音楽性ではなくその精神性です。

従来のポストハードコアには「既存の枠組みを破壊する」というパンクの精神が宿っていました。この精神性こそ最重要であり、音楽性は二の次であるからこそ、同じポストハードコアでも音楽性には一定の幅がありました。

しかし2000年代の新型ポストハードコアは、音楽性としてはハードコアを踏襲しながらも、パンクの精神性は放棄しています。

彼らは、静寂パートとラウドパート、スクリームヴォーカルとクリーンヴォーカル、ディストーションギターとクリーンギター、メロディックパートと非メロディパートといったコントラストを際立たせる手法を型化させて、発展していきました。

音楽性が固定化したこのような発展の仕方は、パンクというより、音楽スタイルや様式を重視するヘヴィメタルに近いものといえます。そしてこの保守性こそが、従来のポストハードコアと2000年代の新型ポストハードコアの、最大の違いと言っていいでしょう。

それはさておき、記事の冒頭で「ニューコアとは端的にいえばポップなポストハードコアである」といったような説明をしましたが、実はポップなポストハードコア自体は、2000年代中盤のスクリーモ/ポストハードコアブームの段階でも数多く登場しています。中でも最大規模の成功を収めたのが、My Chemical Romanceです。

2000年代のスクリーモシーンの立役者でもあるThursdayのフロントマン、ジェフ・リックリーのプロデュースでデビューしたMy Chemical Romanceは、当初はThe UsedやThursdayのフォロワーのようなバンドでしたが、メジャーデビュー作となった2nd『Three Cheers for Sweet Revenge』でダークかつメロディックな独自の世界観を強く打ち出し、死をテーマにしたロックオペラ的なコンセプトアルバムである3rd『The Black Parade』で、ビルボードチャートの2位に輝き、ジャンルを超越した世界的な人気を獲得しました。

従来のポストハードコアやエモを好むリスナーからすれば、My Chemical Romanceは断じてエモやポストハードコアではありませんが、2000年代にメインストリーム化したスクリーモ/ポストハードコアの文脈から出てきて成功を収めたバンドであることは、間違いない事実といえるでしょう。

このMy Chemical Romanceと同じく、Taking Back Sunday、Red Jumpsuits Apparatus、Saosin、Story Of The Year、Hawthorne Heightsなどもまた、「ポップなハードコア」の系譜にあるバンドといえます。

My Chemical Romanceは2013年に解散してしまいますが、ポップなポストハードコアの系譜は途絶えず、2010年代にも、Sleeping With Sirens、Pierce the Veil、Issuesといった、メインストリームで成功を収めるポップなバンドが登場しました。この流れがニューコアの形成に大きな影響を与えているのは、言うまでもありません。

ニューコア前史③ハードロックとヘヴィメタル

ニューコアを聴くと、ポップさの一方で、分厚くヘヴィなギターリフ、手数の多い激しいドラミング、獣のようなデスヴォイスも耳にしますが、これらは主にメタルコアから引き継がれたものです。

メタルコアとはその名の通り、ヘヴィメタル+ハードコアを意味するロックのサブジャンルです。1980年代には言葉として既に存在していたポストハードコアと比べると、90年末に生まれ、2000年代に本格的に浸透したメタルコアは、比較的新しいジャンルといえるでしょう。

ただ、メタルコアは新しくとも「ヘヴィメタルとハードコアを融合する」という試み自体は、実はそれほど新しいものでもありません。

ヘヴィメタルの起源は諸説ありますが、70年代のオジー・オズボーン在籍時のBlack Sabbathであるという見方が有力です。とはいえ70年代にはヘヴィメタルというジャンル名は浸透しておらず、Black Sabbathなどのヘヴィなロックバンドは主にハードロックと呼ばれていました。

ハードロックを遡ると、60年代末のブルースロックに辿り着きます。60年代末には音響技術の革新によって大音量でロックを演奏することが可能になり、そこから大音量でブルースを演奏するブルースロックが誕生しました。この系譜には、ジミ・ヘンドリクスやCreamが存在し、Led Zeppelinもその流れにあります。

パンクは「既存の枠組みを破壊する」という精神性にアイデンティティがあると説明しましたが、そもそも50年代のロックンロール自体が「既存の枠組みを破壊する」という精神性から誕生したものでした。つまりパンクとは、原初的なロックが持っていた精神性を継承しながら、時代に合わせてアップデートさせるための活動と捉えることができます。

一方、50年代ロックンロールの表層的な音楽スタイルの特徴は「できるだけやかましく」でした。それを受け継ぐのが、ブルースロックであり、ハードロックであり、ヘヴィメタルです。つまりヘヴィメタルとは、原初的なロックが持っていたラウドネス(やかましさ)を継承しながら、その時代の音響技術や表現手法に合わせてアップデートさせるための活動と捉えることができます。

パンクとメタルはこのような関係であるからこそ、少なくとも80年代までは対立的な存在であったわけです。そしてこの対立が一気に顕在化したのが、1977年に起こったロンドンパンクの台頭でした。

Led ZeppelinやBlack Sabbathの活躍によって70年代に市民権を得たハードロックは、イギリスを発信源としながら世界のロックシーンに大きな影響を与えていきました。これに異を唱える存在として登場したのがロンドンパンクです。これによってハードロックは「旧態依然としたロック」のポジションに追いやられ、元々停滞期に差し掛かっていたバンドが多かったことも重なり、多くのハードロックバンドたちがその輝きを失っていきました。

しかしこのロンドンパンクのムーブメントも長くは続きません。そしてパンクの攻撃を受けてハードロックが勢いを失っていたその頃、従来のハードロックとは異なる新型ハードロックが、アンダーグラウンドシーンで胎動していました。

これらのバンドは、NWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)とメディアに称され、Iron MaidenやDef Leppard、Samsonなどはすぐに市民権を得て、NWOBHMは大きなムーブメントとなります。このNWOBHMの成功こそが、「ヘヴィメタル」というジャンル名が浸透するキッカケになりました。

NWOBHMのムーブメントは長くは続きませんでしたが、ヘヴィメタルはアメリカに渡り、MTVの発展とともに「もっとも商売になるロックのサブジャンル」として、かつてない飛躍を遂げます。この時に台頭したのは、NWOBHM直系のバンドではなく、KissやVan Halenなどのアメリカンハードロックの系譜に連なる、煌びやかな衣装とけばけばしい化粧に身を包んだ、グラムメタルと呼ばれるヘヴィメタルでした。

グラムメタルはMotley Crue、Ratt、Bon Jovi、Poison、Guns N' Rosesといった新興勢力を中心としつつ、Van HalenやWhitesnake、Def Leppard、Aerosmith、Kiss、Europe、Scorpionsなど以前から活動していたバンドも飲み込みながら巨大化し、やがて世界で一千万枚を超えるアルバムセールスを頻繁に記録する「もっとも儲かる音楽ジャンル」にまで成長します。

こうしてメタルの産業化が急速に進み、Bon Joviのようにポップバンドとの境界が曖昧なバンドまでメタルの文脈として語られる一方、ラウドネス(やかましさ)の継承という、ヘヴィメタルの原点を守護する立場のバンドも80年代のアメリカには存在しました。その筆頭といえるのが、スラッシュメタルです。このスラッシュメタルこそ、ヘヴィメタルとハードコアの融合を最初に試みた音楽ジャンルなのです。

ニューコア前史④ヘヴィメタルとハードコアの邂逅

80年代のスラッシュメタルの代表といえば、Metallica、Megadeth、Slayer、Anthrax、Exodusなどがあげられます。彼らは華やかで中性的なビジュアルを売りとするグラムメタルと異なり、化粧もせず黒いレザーに身を包んだ男性的な外見をしていました。しかしながら、見た目以上に特徴的だったのはその音楽性です。

グラムメタルがシンプルなリフとシンガロングできるキャッチーなコーラスで女性やドラッグのことを歌った「軟派な曲」が多かったのに対し、スラッシュメタルは、死や戦争などのダークなテーマを扱い、NWOBHMやJudas Priestなどのブリティッシュメタルを下敷きとしながら、銃撃戦のような高速で複雑なリフと手数の多いドラミングで構成された高速ナンバーといった「硬派な曲」を持ち味としていました。そこには明らかに、ハードコアからの影響が見受けられます。

Metallicaはキャリアを通じて多くのカバー音源をレコーディングしていますが、その中にはDiamond HeadやBlitzkrieg、HolocaustといったNWOBHMバンド以外に、Killing Joke、Misfits、Anti-Nowhere Leagueといったパンク/ハードコアバンドも含まれていました。このセレクトこそ、スラッシュメタルの音楽性を象徴しています。

当初はカルト的な扱いを受けていたスラッシュメタルですが、口コミを中心に徐々に話題を集め、1985年頃にはMetallica、Megadeth、Slayer、Anthraxといった主要バンドが代表作と呼べる決定的な作品を次々とリリースし、メジャーレーベルと契約し、チャートでも上位を狙える位置に付けるようになっていきました。

このように、80年代初頭にイギリスでNWOBHMが誕生し、主戦場をアメリカに移して、表のグラムメタルと裏のスラッシュメタルという二本柱で80年代を通じて世界中に戦線を拡大していったヘヴィメタルにも、大きな転機が訪れます。

90年代初頭、シアトルから登場したNirvanaやPearl Jamといったグランジは、産業として巨大化したメタルのカウンターとなり、80年代型のヘヴィメタルは一気に時代遅れの地位に転落しました。1977年にロンドンパンクによってハードロックが衰退したことと全く同じ現象が、1991年にグランジによって起こったわけです。

グランジの台頭によってロックシーンはオルタナティブの時代に突入し、80年代に栄華を極めたグラムメタルバンドの多くは、解散や活動停止、メジャー陥落などの憂き目に合います。

ただ同じメタルでも、オルタナティブ・ロックの一種でもあるハードコアの要素を持っていたスラッシュメタルは、グラムメタルとはやや異なる動きを見せました。

その先陣を切ったのはMetallicaです。グランジによってメインストリームとオルタナティブの転換が起こった1991年、Metallicaは自らのスタイルを刷新したまったく新しいスタイルのスラッシュメタルを提示しました。それが大ヒット作『Metallica』、通称ブラックアルバムです。

80年代のMetallicaといえば、”Battery”に代表されるファストチーンや8分を超える長尺ナンバー、4曲目に”One”のようなメロディアスな曲を配置するのが定番で、80年代にリリースしたアルバムはほぼこのフォーマットで制作されていました。しかしながら『Metallica』はこのフォーマットに従わず、印象的なリフを中心に組み立てたミドルチューンをメインとし、楽曲もよりコンパクトになっています。

この大きな方向転換は大成功を収め、『Metallica』はこれまでに世界で3000万枚を売り上げ、90年代においてもっとも成功したロックアルバムとなりました。この『Metallica』の大ヒットとグランジの台頭という2つの大きな変化を受け、スラッシュメタルも変質します。

Megadethはよりメロディックになって脱スラッシュメタル化し、Anthraxはヴォーカルを変更してオルタナティブ寄りの音楽性にシフトしました。80年代から活動していたブラジルのSepulturaは、ブラジルの民族音楽を融合した独自のメタルサウンドを追及し、その一方で元々ハードコア色が強かったSlayerはオルタナティブ時代の影響をあまり受けず、その音楽性をあまり変えず1990年代を駆け抜けます。

これらの従来から活動していたバンドだけが、90年代のスラッシュメタルシーンを支えたわけではありません。

PanteraやMachine Headといった新興勢力の台頭も、90年代においてスラッシュメタルが発展し続けた理由の一つです。特にPanteraは、スラッシュメタルにハードコアのような歌唱スタイルとグルーヴを持ち込み、メタルのみならずハードコアシーンにも多大なる影響を与えました。また、Panteraのような90年代スタイルのスラッシュメタルは、グルーヴメタルとも呼ばれることもあります。

90年代においてスラッシュメタルが独自の進化を遂げる一方、ニューメタルという新たなメタルのサブジャンルも登場しましたが、その音楽性は80年代のグラムメタルとは大きく異なる、オルタナティブ・ロック側からメタルに接近したようなものでした。

ニューメタルにも、ハードコアからの影響は見られます。しかしながらそれ以外にもヒップホップ、ダンス、ニューウェーブなど、多彩なジャンルの音楽から複雑に影響を受けてもいました。このような特徴から、日本ではニューメタルのことを「ミクスチャー」とも呼ぶ人もいます。

Rage Against The MachineやFaith No Moreらが下地を作り、Kornが開祖となったニューメタルは、Kornの弟分としてデビューしたLimp Bizkitが1999年に『Significant Other』をアルバムチャートのNo.1に送り込んだ頃にピークを迎えます。

最盛期には、P.O.D、Godsmack、Papa Roach、Sevendust、Incubus、Disturbed、Deftonesらが続々とチャート上位にアルバムをランクインさせ、さらにはMarilyn Mansonのようなインダストリアルメタル、Evanescenceのようなゴシックメタル、Slipknot、System Of A Down、Toolのような個性派も生み出し、MetalicaやPanteraが切り開いた90年代型のスラッシュメタル/グルーヴメタルもその流れに組み込みながら、ニューメタルは90年代ロックのメインストリームにまで上り詰めました。

このニューメタルを象徴する存在でありながら、結果的に終わらせる存在になったのが、2000年にデビューしたLinkin Parkです。彼らが『Hybrid Theory』『Meteora』という完璧なニューメタルアルバムを二作連続でリリースしたことで、ニューメタルの終幕は加速しました。Linkin Park自身が次作『Minutes to Midnight』で脱ニューメタルを図り、2003年頃にはニューメタルはその勢いをほぼ失います。それと入れ替わるように登場したのが、メタルの新興勢力メタルコアです。

このメタルコアの話に入る前に、メタルコアの源流となった、スラッシュメタルやニューメタルとは別の流れについても少し触れておきましょう。

スラッシュメタルやグルーヴメタルは、メタルをベースとしながらハードコアに接近した音楽ジャンルが、それとは逆に、ハードコア側からメタルに接近する動きもありました。

例えば、スラッシュメタルが人気を博し始めた80年代中盤、ハードコアをベースとしてメタルにアプローチしたクロスオーバースラッシュと呼ばれる一群が登場します。Corrosion of Conformity、D.R.I.、Suicidal Tendencies、S.O.D.などは、スラッシュメタルとはまた別の切り口から、メタルとハードコアの融合を試みました。

90年代になると、メタリックハードコア、あるいはニュースクール・ハードコアなどと呼ばれる、ハードコアにメタリックなリフを融合したスタイルのバンドも登場します。Agnostic Front、Vision Of Disorder、Earth Crisis、Converge、Hatebreed、Poison the Wellがその代表ですが、彼らはメタルコアの形成に直接的な影響を与えていきました。

さらに、ヘヴィメタルとハードコアの融合をより過激に推し進めたサブジャンルとしては、デスメタルやグラインドコアが存在します。

80年代終盤から90年代初頭、よりエクストリームに進化したスラッシュメタルとして、デスメタルは誕生しました。Death、Obituary、Morbid Angel、Cannibal Corpse、Deicideなどが当時の代表的なバンドで、彼らの多くを輩出したフロリダはこの頃デスメタルの聖地となっていました。

デスメタルは、Slayerなどのハードコア色の強いスラッシュメタルをベースにしながら、メロディをより希薄にしてデスヴォイスやブラストビートを取り入れて先鋭化したヘヴィメタルです。ある程度の大衆性があったスラッシュメタルやニューメタルと異なり、一般的な音楽市場では決して受け入れられない過激な音楽スタイルが特徴です。

このデスメタルと近い位置にいるのが、グラインドコアです。デスメタルのデスヴォイスやブラストビートはグラインドコアからの影響ともいわれています。ハードコアのさらに上をいく過激さを追及していったグラインドコアには、ほとんどノイズのような曲や1秒未満の曲など、音楽とは言い難いものも存在します。代表的なバンドといえばNapalm DeathやAnal Cuntなどがあげられますが、グラインドコアとデスメタルの境界は曖昧で、Carcassのように、グライドコアからデスメタルに移行したようなバンドも存在します。

このように、メタルとハードコアは本来対立するハードロックとパンクから発展しながら、過激さを求めるという一点において意気投合し、スラッシュメタル、ニューメタル、メタリックハードコア/ニュースクール・ハードコア、デスメタル、グラインドコアなどの多くのサブジャンルがこれまで生まれてきました。

このようなメタルとハードコアを融合させる活動の集大成といえるのが、メタルコアです。

ニューコア前史⑤メタルコア

メタルコアを一躍有名にしたのは、Hatebreed、Kinllswitch Engage、Shadows Fallといったバンドたちです。彼らは元々ニュースクール・ハードコアに属するバンドでしたが、特にマサチューセッツを拠点としたKillswitch Engage、Shadows Fallは北欧メロディックデスメタルの要素を取り入れて人気を博し、典型的なメタルコアのスタイルを確立しました。

北欧メロディックデスメタルとはその名の通り、北欧で独自に進化したメロディの強いデスメタルです。スラッシュメタルにグラインドコアの要素を取り入れた激烈な音楽こそがデスメタルの真髄ですが、93年にイギリスのCarcassがアルバム『Heartwork』で整合感のあるリフや流麗なツインリードといったクラシカルなメタルの要素を取り入れた、いわゆるメロディックデスメタルを発明します。

そしてほぼ同時期に活動を開始したスウェーデンのAt the GatesやIn Flames、Dark Tranquillityも似た音楽性を追求してシーンを形成し、後を追うようにChildren Of Bodom、Soilwork、Arch Enemyなどといったバンドが登場、1990年代末期の北欧はメロディックデスメタルの一大産地となりました。スウェーデン・ヨーテボリはその重要な拠点になり、北欧メロディックデスメタルはヨーテボリサウンドと呼ばれることもあります。

この北欧メロディックデスメタルは、メタルコアのブームと共鳴し、パイオニアであるIn Flamesを筆頭に続々とアメリカ進出を果たし、やがてアメリカのチャートで上位にランクインするようになりました。

極めてカルト的な存在としてアメリカで誕生したデスメタルは、北欧で独自の進化を遂げ、やがてアメリカに逆輸入されてメタルコアを生み出し、遂にはメタルのメインストリームといえる地位まで上り詰めたわけです。

メタルコアが登場するまでのヘヴィメタルは、イギリスとアメリカが共振することで歴史が作られてきました。しかしながら80年代初頭のNWOBHMを最後にイギリスは覇権を失い、アメリカ中心の時代が長く続きます。そこにイギリスではなく北欧が登場し、2000年代のアメリカのメタルに影響を与えました。文化地理学的にメタルを見ると、このことはとても興味深い現象に思えます。

それはさておき、メタルコアに見られるツインリードや美旋律は紛れもなく北欧メロディックデスメタルからの影響で、Killswitch EngageやShadows Fallだけでなく、同時期に活躍したAtreyu、All That Remains、As I Lay Dyingも似たようなサウンド形態でした。さらにBlack Dahlia Murderのように、これは北欧メロディックデスメタルそのものだろう、といえるアメリカのバンドも存在しました。

ただ、メタルコアのすべてが北欧メロディックデスメタルの影響下にあったわけではありません。例えばLamb Of God、Trivium、Avenged Sevenfold、Bullet for My Valentine、Five Finger Death Punchといったバンドからは、90年代のスラッシュメタルの影響を強く感じます。

つまり、メタルコアは必ずしもニュースクール・ハードコア×北欧メロディックデスメタルな音楽性のバンドだけで構成されていたわけでもなく、2000年代に登場した新世代メタルバンドの多くをメタルコアとして扱える懐の深さも持ち合わせており、だからこそ2000年代におけるメタルのメインストリームとして発展しえたわけです。

そしてこのメタルコアは、スラッシュメタルの再浮上も促しました。名盤『Metallica』以降、90年代を通じては迷走していた感もあるMetallicaが、2007年には原点回帰ともいえる『Death Magnetic』というアルバムをリリースします。

また、解散や活動停止をしていたMegadeth、Exodus、Death Angelらは再始動し、Anthraxはオリジナル・ヴォーカリストのジョーイ・ベラドナ、Slayerはオリジナルドラマーのデイヴ・ロンバートを呼び戻し、Testamentはオリジナルラインナップで再結成、ニューメタルの影響を受けて迷走していたMachine Headは『Through the Ashes of Empires』と『The Blackening』の2作で完全復活を遂げました。

ニューメタル期にデビューしながらも、ニューメタルから離脱したバンドたちの活躍も2000年代には目立ちます。SlipknotやSystem Of A Down、Disturbedらは全盛期を謳歌し、ToolやMastodon、Dream Theaterが中心となってプログレッシブ・メタルが人気となり、北欧からはMeshuggahのような新星も現れ、ジェントのようなプログレッシブ・メタルの派生ジャンルも登場しました。

他にも、フェス文化の浸透とともに欧州や南米ではIron Maidenを祖とするパワーメタルが根強く人気を博し、英米ではThe DarknessやSteel Pantherのような80年代型のハードロックもそれなりに成功を収めます。また、70~80年代に黄金時代を築いたアーティストのリユニオンも、2000年代には活発に行われました。

2000年代のメタルシーンは、新旧入り混じりながら、80年代に続く第二の黄金期といっていいほどに活況を呈したといえます。その中心にあったのが、メタルコアでした。

このようにメタルコアを中心に幸先良くスタートしたかに見える21世紀のヘヴィメタルですが、変化の足音は徐々に忍び寄ります。デジタルネイティブの成長、ダンスミュージックの台頭、YouTubeの浸透、ストリーミング配信の登場など、音楽ビジネスを大きく変える流れに逆らえるはずもなく、メタルシーンは混迷の2010年代に突入していきます。

ニューコアの誕生

2000年代に大きく躍進したポストハードコアとメタルコアですが、その境界はかなり曖昧です。2000年代中盤にはAtreyuのようなポストハードコアともメタルコアともいえるアーティストも登場するようになり、やがてポストハードコア/メタルコアと併記されることが増えていきました。

ポストハードコア/メタルコアの2010年代前半は、ポストハードコア勢ではSleeping With Sirens、Of Mice And Men、Escape The Fate、Pierce the Veil、Issues、メタルコア勢ではThe Devil Wears Prada、August Burns Red、Miss May I、境界にいるバンドでいえばMemphis May Fire、Blessthefall、Asking Alexandriaらが全米チャートのTOP20圏内にアルバムを送り込むなど、順調な滑り出しを見せました。

しかしながらこうした勢いも、2010年代後半には失われていきます。

これはポストハードコア/メタルコアに限った話ではありません。2010年代はロック全体が低調で、特にアメリカでは、2010年代後半になるとロックアルバムが上位にチャートインするのは困難を極めました。

2010年代は、アデルやテイラー・スウィフト、エド・シーランのようなメガヒット級のポップアーティストを中心に、前半をEDM、後半をヒップホップが支配した10年間であり、ロックは蚊帳の外に追いやられた10年でもありました。

EDMとはElectronic Dance Musicの略称で、厳密には幅広い音楽スタイルを包括するジャンル名ですが、2010年代にEDMといえば、デヴィッド・ゲッタやアヴィーチー、カルビン・ハリス、ゼッド、スクリレックスといったDJたちに代表されるエレクトロハウスを指すのが一般的です。

EDMが世界的な大ブレイクを果たした2010年代前半、多くのポップアーティストがEDM的なサウンドにシフトし、ギターの音はどんどん消えていきました。この時期においても、Coldplay、Maroon5、Fall Out Boy、Panic! At The Discoといったロックバンドたちは大きな成功を収めましたが、彼らのサウンドにも例外なく、EDMの影響が見て取れます。

このように2010年代前半を席巻したEDMですが、2015年頃には衰退をはじめ、ゆったりとしたテンポのトロピカルハウスがEDMの主流となりながら、徐々に失速していきます。それと入れ替わるように台頭してきたのがヒップホップです。

2010年代後半になると、ケンドリック・ラマー、ドレイク、ポスト・マローンらの作品がチャート上位を独占し、新しいヒップホップアーティストが続々と登場してきました。ここに手堅く人気があるR&Bも加わり、2010年代後半はブラックミュージックが圧倒的な力を持つようになります。

このEDMとヒップホップの台頭とロックの衰退に歩を合わせるかのように、2010年代後半になるとポストハードコア/メタルコアバンドもアルバムチャートの最高位を更新できなくなり、在位期間も短くなっていきました。

しかしながら、向かい風の中でポストハードコア/メタルコアバンドたちがじっと身を縮めていたわけではありません。トレンドをキャッチアップした新しいポストハードコア/メタルコアを生み出そうとする動きも活発になりました。この2010年代の音楽トレンドに合わせてアップデートされた新型ポストハードコア/メタルコアこそが、ここで紹介したいニューコアです。

このような経緯を理解すれば、ニューコアのサウンドはすぐに想像できるでしょう。ポストハードコア/メタルコアをベースに、EDM的なシンセや打ち込み、デジタルエフェクト、アトモスフェリックな空間処理、ピアノやストリングス、ヒップホップの要素を取り入れ、クリーンヴォーカルとメロディを増やして大衆性を増したのが、ニューコアの音楽性の特徴です。

このニューコアの誕生時期を明確に断定するのは難しいですが、2013年にリリースされたIssuesのデビューアルバム『Issues』は、最初のニューコア作品といえるかもしれません。

メタルコアバンドWoe, Is Meのメンバーが中心に結成されたアトランタ州ジョージアのIssuesは、メタルコアやポストハードコアをベースに、EDM、R&B、ヒップホップの要素もミックスしたような音楽性と高い演奏力を兼ね備えた、ポップシーンともクロスオーバーするポストハードコアバンドです。ヴォーカルのタイラー・カーターの歌唱も相まって、その音楽性を「メタルコア版ジャスティン・ビーバー」と表現しても、あながち的外れではないでしょう。

デビューアルバム『Issues』はビルボードチャートで最高位9位を記録する大ヒットとなり、Issues の名前は一躍知れ渡ることになりました。

ただ、その勢いも長くは続きません。2016年の2ndアルバムは20位、2019年の3rdアルバムは180位と、チャート上の成績は下降していきます。音楽そのものは衰えていないにも関わらず、商業的には苦戦を強いられます。このIssuesのチャート上での推移こそ、現在のポストハードコア/メタルコアが置かれた状況の難しさを象徴しているように思います。

さて、このIssuesが登場した2013年にニューコアを語るうえで欠かせないもう一つの重要な作品が発表されました。それがイギリス・シェフィールドのBring Me The Horizonが放った4枚目のアルバム『Sempiternal』です。

2005年にデビューし、メタルコアをより激烈にしたサブジャンル、デスコアの新星として着実に人気を高めていたBring Me The Horizonは、キーボーディスト、ジョーダン・フィッシュの加入とともに、その音楽性を大きく変化させました。

『Sempiternal』で聴けるのは、悲しげなメロディとデジタル的なサウンドエフェクトを駆使して近未来的な世界観を作り出した、ドラマティックなポストハードコア/メタルコアです。

大胆かつ挑戦的な音楽性の変化が功を奏し、本作はアメリカのチャートで11位、イギリスのチャートでは3位まで上昇しました。

この方向性に勝機を見出したメンバーは、さらに音楽性を変化させます。より大衆的なオルタナティブ・ロックに接近した2015年の『That's the Spirit』は、アメリカ・イギリスの両国のチャートで2位まで上昇する大ヒット作となりました。

Bring Me The Horizonは、続く2019年『Amo』でもさらなる音楽性の変化を見せます。ダンサブルなエレクトロニカやトロピカルハウス風ポップバラードなど、もはやハードコアともメタルともいえない楽曲までもが、このアルバムの中に多く収録されています。この意欲的な作品は、ロック不況のアメリカのチャートでは14位に留まりましたが、イギリスではついにNo.1を獲得。世界中の大規模なフェスにも頻繁に登場するようになり、2020年度のグラミー賞にノミネートされたのは、既に書いたとおりです。

Bring Me The Horizonの人気はここ日本でも急速に高まっています。2019年は、Babymetalの国内ツアーに帯同し、単独公演は即座にソールドアウトさせました。また、SONYのスマートフォンXperiaのTVCMに楽曲”Medicine”が用いられ、世界的なゲームプロデューサー小島秀夫が手掛けた話題作『デス・ストランディング』のサントラに楽曲”Ludens”を提供しました。彼らの活躍の場は既にハードコアやメタルのシーンを超えており、その名前は一般層にまで浸透しつつあります。

このBring Me The Horizonの成功こそが、現在世界中に広がっているニューコアの原点であり、最大の影響要因なのは、間違いありません。

3種類のニューコア

Bring Me The Horizonは音楽性を変化させることで自らの影響力を高め、活動するフィールドを拡げてきましたが、実は彼らの音楽的変遷は、ニューコアの音楽性の幅も表してもいます。

これまで誕生したあらゆる音楽ジャンルと同様に、ニューコアにも音楽的な幅があります。それは大きく3つのタイプに分類できますが、これはそのまま、Bring Me The Horizonの近作に当てはめることができます。

■タイプ1=コア型
従来のポストハードコア/メタルコアに近いタイプ。サウンドはヘヴィで、スクリームやデスヴォイスも多用していますが、シンセやデジタル処理が随所に施され、所々でクリーンヴォーカルを活かしたメロディアスなパートが登場します。Bring Me The Horizonでは『Sempiternal』がこのタイプに当てはまります。従来のポストハードコア/メタルコアファンには好まれますが、一般のロックファンにとっては少しラウドすぎるかもしれません。

■タイプ2=オルタナ型
ポストハードコア/メタルコアからはやや離脱した、ラウドなオルタナティブ・ロックとでもいえるタイプです。ヘヴィさは若干残しつつ、スクリームやデスヴォイスは控えめで、ヴォーカルもクリーンが大半を占めます。デジタル的な装飾やシンセを使った空間処理も多用されます。Bring Me The Horizonでいえば『That's the Spirit』がこれに当たります。従来のポストハードコア/メタルコアファンも一般のロックファンも楽しめる、バランスが取れたタイプといえます。

■タイプ3=ポップ型
ポストハードコア/メタルコアからほぼ離脱したタイプ。スクリームは使わず、ヘヴィなギターリフやドラミングもほとんど登場しません。デジタルテイストが強いエモポップやポップパンクに近い印象も受けます。Bring Me The Horizonでいえば『amo』の多くの楽曲がこれに当たります。一般のロックファンを広くターゲットにできる反面、従来のポストハードコア/メタルコアファンは物足りなく感じるかもしれません。

後述するアルバム紹介では、この3つのタイプのどれに当てはまるかも合わせて紹介しています。好みのアーティストや作品を見つける上での参考になれば幸いです。

ニューコアとニューメタルの関係

ニューコアのアルバムや楽曲を聴くと、90年代のニューメタルに似た印象を持つ方は多いのではないでしょうか。

それは当然です。ポストハードコア/メタルコアにデジタルテイストとヒップホップを加えれば、自然とニューメタルに近いサウンドにります。さらにはニューコア発生の直前、2010年代前半に「ニューメタル・リバイバル」が起こっており、これもニューコアに少なからず影響を与えています。

すでに説明したとおり、ニューメタルのブームは2003年ごろに一旦終息しました。しかしながら、2010年代になるとニューメタルの全盛期を彩ったKorn、Limp Bizkit、Staind、Papa Roach、Linkin Parkらが続々と原点回帰を思わせる作品をリリースします。加えて、Sylar、Emmure、From Ashes to New、Dangerkids、Islandar、My Ticket Home、Stray from the Path、DEDといった、メタルコアにニューメタル的なサウンドを掛け合わせたような新世代バンドが次々と登場しました。

このような動きは一部のメディアで「ニューメタル・リバイバル」と称されました。実はIssuesやBring Me The Horizonも、ニューメタル・リバイバルの一種と捉える考えもあります。

結局ニューメタル・リバイバルは大きなブームにはなりませんでしたが、メタルコアバンドの中でもラップを多用したバンドは、ニューメタル・リバイバルの流れをくむニューコアという捉え方ができるでしょう。

さて、往年のニューメタルバンドの中で、現在のニューコアに最も影響を与えたバンドは?と聞かれれば、私は真っ先にLinkin Parkをあげます。

世界中で1億枚以上を売り上げ、今では誰もが認める世界的なロックバンドとなっているLinkin Parkは、ニューメタル最盛期に、その流れに乗って出てきたフォロワー型のバンドでした。音楽業界でこれといった実績のないメンバーで構成された新人グループのデビュー作『Hybrid Theory』が最高位2位まで上昇したのも、ニューメタルの機運をうまく捉えたからといえます。

実は、2000年のデビュー当時、Linkin Parkをはじめて聞いた時の私の印象は「またこの手のバンドか」というものでした。個性はあまり感じず、ニューメタルの美味しいところ取りをしたような印象を受けました。

ただ、完成度の高さが尋常ではないことはすぐに伝わってきました。破綻しているところがまったくなく、それまでに登場したどのニューメタルよりもメロディが豊かで、一般受けする要素で満たされていました。この絶妙なバランス感覚こそ、Linkin Parkを唯一無二の存在にする最大の要因だと、その時は気づきませんでした。

ラップを担当するメンバーとDJをメンバーに抱えるLinkin Parkサウンドの最大の魅力は、その近未来的なサウンドスケープとドラマティックな楽曲、そして今は亡きチェスター・ベニントンのエモーショナルなヴォーカルでしょう。彼らのスケールの大きなサウンドは非常に映画的でもあり、映画『トランスフォーマー』の主題歌に二度選ばれていることも納得できます。

Linkin Parkの代表作といえば、前述の『Hybrid Theory』と続く2003年リリースの2nd『Meteora』ということに、異論の余地はないでしょう。

この2枚があまりにも完璧なニューメタルであったが故に、ニューメタルの寿命が縮まり、ニューメタルの衰退が早まったと私は解釈しています。彼ら自身もその次作『Minutes To Midnight』でニューメタルから離脱し、彼らの個性の一つであったラップをほぼ封印し、チェスターのヴォーカルを活かした音楽性に移行していきました。

そんな彼らの作品の中で、ニューコアに似た作品といえば当然『Hybrid Theory』と『Meteora』ということになりますが、あえてここでは、2012年の『Living Things』も取り上げたいです。

ニューメタル・リバイバルの機運を感じ取ったかのように、『Living Things』ではラップやシンプルな楽曲構成、ラウドなサウンドが復活しています。一方、脱ニューメタル後の彼らが得意としていたデジタル的な空間処理も豊富に施されており、これがニューコアに近い印象を生んでいます。

もし今、まったく未知のバンドが『Living Things』をリリースしたら、私は「圧倒的なクオリティのニューコア作品である」と紹介するでしょう。『Hybrid Theory』と『Meteora』でLinkin Parkの印象が止まっている方にも、『Living Things』は是非一度は聞いてみてほしい作品です。

Linkin Parkは、2017年にトロピカルハウスの影響を受けて大胆に音楽性を変更させた『One More Light』をリリースした後、チェスター・ベニントンが亡くなり、現在の活動は宙に浮いた状態となっています。

チェスターの後任を見つけることは容易ではないでしょうが、彼らは解散を表明していません。2020年代のどこかで、彼らが新しいサウンドを作り上げてシーンに戻ってくる日がきっと来ることでしょう。

イギリスの復権

ハードコアやメタルを歴史的な視点から見ると、ニューコアにイギリスのバンドが多いのは、興味深い現象です。

ニューコアの中心的存在であるBring Me The Horizonはイギリス・シェフィールド出身です。同郷には同じくニューコアの重要バンドであるWhile She Sleepsが存在します。

さらにBring Me The Horizonの影響を受けてニューコアに変異したAsking AlexandriaやBullet For My Valentineもイギリスのバンドです。また、Bring Me The Horizonのブレイク以前から活躍していたYou Me At Six、おすすめアルバムの中にリストアップしているYONAKA、Dream State、Captive、AS IT ISもすべてイギリス出身です。

全体数で見ればまだアメリカのバンドの方が多いですが、イギリスのバンドが中心となりシーンを牽引しているというのは、メタルやハードコアを含むラウドロックの歴史においては、近年は見られなかったことです。

The BeatlesやThe Rolling Stonesらによる60年代のブリティッシュ・インヴェイジョン以降、イギリスは常にロックの中心でした。70年代から80年代にかけて、ハードロック、プログレッシブロック、グラムロック、パンク、メタル、ニューウェーブ、ハードコアといったサブジャンルを生み、90年代にオルタナティブの時代になって以降も、OasisやRadioheadやColdplay、Arctic Monkeysといった世界的なアーティストを多数輩出しています。

2012年のロンドンオリンピックの閉会式においてロックバンドが多数登場しましたが、このことは、21世紀においてもロックがイギリスの主要産業であることを物語っています。

しかしながらラウドロックに限っていえば、イギリス中心の歴史観はある時期から当てはまりません。

70年代においては、ハードロックとパンクを牽引したイギリスは、確かにラウドロックのリーダーでした。しかしその地位は、80年代初頭のNWOBHMを最後に失われます。

80年代中盤のグラムメタル以降、ラウドロックの主導権はアメリカに渡り、イギリスから登場するバンドはフォロワーばかりになりました。グランジやニューメタル、メタルコア、スクリーモ/ポストハードコアの時代になっても、その構図はほとんど変わっていません。

もちろん、局所的に見れば例外はあります。グラインドコアを牽引したNapalm Death、ドゥームメタルを牽引したCathedral、ゴシックメタルを牽引したParadise LostやAnathemaは、いずれもイギリスのバンドです。しかしながらこういったカルト的なジャンルではなく、メインストリームと接続するような位置にあるラウドロックにおいては、イギリスの不在は80年代以降、ずっと続いています。

北欧メロディックデスメタルのように、アメリカのシーンに影響を与え、アメリカのシーンを変えるような役割をイギリスが果たすことは、80年代以降は見られなくなっていたわけです。

しかしニューコアにおいては、イギリスは中心的な役割を果たしているように思えます。例えばアメリカにはBad OmenというBring Me The Horizonと瓜二つの音を奏でるバンドが存在しますが、これに限らず、イギリス勢が中心となって引っ張り、アメリカを始めとする世界中のシーンでフォロワーを生んでいる面が、ニューコアにおいては見受けられます。

もしニューコアが本当に2020年にラウドロックのメインストリームとなり、その存在が一般化するようであれば、80年代初頭のNWOBHM以来、実に約30年ぶりにイギリスがラウドロックの覇権を握る、ということになるかもしれません。

ニューコアはジャンルなのか?

本記事においては一貫して、ニューコアを「ジャンル」ではなく「スタイル」と呼んでいます。それは私が、ニューコアは厳密には音楽ジャンルではなく、音楽スタイルだと考えているためです。

例えば、NWOBHMも、グラムメタルも、グランジも、ニューメタルも、メタルコアも、スクリーモ/ポストハードコアも、新しく勃興したジャンルの中心になるのは、その時に新たに登場する若いバンド群でした。従来のバンドが新しいジャンルに似たサウンドに変貌しても、厳密にはそのジャンルにカテゴライズされません。

具体的にいえば、Judas PriestやBlack SabbathがNWOBHM的なサウンドに変化しても、厳密には彼らはNWOBHMバンドではありませんし、KISSやVan Halenがグラムメタル風にシフトしても、厳密には彼らはグラムメタルではありません。Machine Headがラップを導入しても厳密にはニューメタルではないし、In Flamesがメタルコア寄りの音楽性にシフトしても、それは厳密にはメタルコアではありません。

新しいジャンルを構成するのは、ジャンルとともに浮上してきた新しいバンドたちであり、その影響を受けた従来から存在するバンドは、あくまで影響を受けたバンドである、というのが「ジャンル」の厳密な定義ではないかと思います。

この考えに従えば、今のニューコアはジャンルの定義からはやや外れます。

ニューコアの中心になっているのは、従来から存在するポストハードコア/メタルコアバンドで、ある時期を境にニューコア的なサウンドに変化したバンドが多くを占めています。2018年頃からはデビュー時点からニューコアという新しいバンドも登場していますが、彼らがシーンを引っ張っている状況には、現在はまだなっていません。

だからニューコアは、あくまで2010年代後半から2020年代の音楽トレンドに最適化されたポストハードコア/メタルコアの新しい音楽スタイルであって、厳密にはジャンルではないと思うわけです。

そしてニューコアが飽和状態になって新鮮さを失った時、ニューコアに移行したポストハードコア/メタルコアバンドたちが元の音楽性に戻っていくということも、これから十分に起こりえるのではないかと思います。

ニューコアのおすすめアルバム53選

ここまで読んでいただいたら、あとは具体的に音を聴いてもらった方が良いでしょう。ということで最後におすすめのアルバムをまとめました。

Spotifyのリンクも張っておきましたので、興味のある作品から是非聴いてみてください。

■Bring Me The Horizon『That's The Spirit』(2015年)【タイプ2】

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解説の中でも大きく取り上げた、Bring Me The Horizonの代表作でありニューコアの金字塔といえる作品。デスコア時代から受け継がれたヘヴィネスを心地よく感じられる範囲で残しながら、全体的には叙情的なメロディが支配しているアルバムです。シンセやデジタルエフェクトを多用した近未来的な空間処理、静と動のコントラストがハッキリした楽曲展開、悲哀を感じさせるマイナー調のメロディによって、まるで終末系映画のようなドラマティックさに溢れています。なんといっても楽曲そのものが圧倒的に素晴らしく、名曲の宝庫で捨て曲なし。言うまでもなく、ニューコアの名盤として真っ先におすすめしたいアルバムです。

■Bring Me The Horizon『amo』(2019年)【タイプ3】

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Bring Me The Horizonの現時点最新作。さらにポップ化が進み、ソフトなバラードも増え、序盤にはエレクトロユニットGrimesをフィーチャーしたエレクトロナンバー"nihilist blues"を配置するなど、ポストハードコア/メタルコアと完全決別した作品といっていいでしょう。楽曲の方向性が拡散しているために全体的にまとまりなくも思えますが、そこがまた一貫性を重視しないEDM/ヒップホップ時代のアルバムらしい構成のように思えます。ポップ化が進んだとはいってもハードな曲はきちんと存在しており、相変わらず楽曲のクオリティも粒ぞろいで、2020年における最先端のハードロックアルバムとして、素晴らしい仕上がりとなっています。

■Bring Me The Horizon『Sempiternal』(2013年)【タイプ1】

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アメリカのチャートで13位まで上昇し、Bring Me The Horizonの名前を世界中のロックファンに一躍知らしめた代表作の一つ。激しいスクリームや疾走ナンバーなど、デスコア時代の名残も残ってはいますが、ヘヴィネス一辺倒で押すようなことはなく、叙情的なメロディや浮遊感のあるシンセ、近未来的なデジタルエフェクトも積極的に取り入れた、それまでのポストハードコア/メタルコアとは明らかに一線を画す作品となっています。初めて聞いた時は「Deftonesっぽい」とも思いました。『That's The Spirit』よりもさらにハードな作品が聴きたい人は是非。

■Asking Alexandria『Asking Alexandria』(2017年)【タイプ2】

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イギリス・ヨークのポストハードコア/メタルコアバンドによる5枚目。2013年リリースの『From Death to Destiny』でビルボードチャートの5位を記録するなど、シーンでは一定の地位を築いていた彼らがエモーショナルでクリーンなヴォーカル、抒情的でドラマティックなメロディ、デジタル的なサウンドエフェクト、さらにはラップに至るまで、大々的な変化を試みた意欲作です。タイミング的にBring Me The Horizon『That's The Spirit』の影響も感じますが、唐突に路線変更した印象はなく、よく練り込まれた完成度の高い作品に仕上がっています。ニューコアの傑作といっていいでしょう。

■While She Sleeps『So What?』(2019年) 【タイプ1】

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Bring Me The Horizonと同郷で交流もあるイギリス・シェフィールドのメタルコアバンドの4枚目。元々持っていたシンガロングできるコーラスとキャッチーなメロディ、静と動を行き来するドラマティックな展開をより強く打ち出した、彼らのキャリア史上もっともコマーシャルな作品といえます。とはいえ、Bring Me The Horizonの近作ほどポップでもなく、ハードな音楽を愛する従来のファンも満足させる適度なラウドさ・ヘヴィさも維持しており、上手にバランスを見極めた作品ともいえます。よりメタルコア的ですが、イギリス・ナショナルチャートで8位を記録した『You Are We』(2017年)もおすすめ。

■Fever333『Strength In Numb333rs』(2019年)【タイプ2】

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アメリカ・カリフォルニアのポストハードコアバンドのデビューアルバム。バンドとしては新人ですが、ポストハードコアバンドなどでキャリアを積んできた実績ある実力派のメンバーで構成されています。ラップを多用しており、声質が似ていることもあってLinkin Parkに似た印象もありますが、ハードコアやエレクトロをはじめ多彩な音楽から影響を受けたより雑食感と激しい音楽性が彼らの魅力です。キャッチーなコーラスも印象的で、一般のロックファンをターゲットにできる間口の広さがあります。2018年のフジロックでのパフォーマンスも話題になり、2019年にはグラミー賞のベスト・ロック・パフォーマンス部門にノミネートされました。

■Hands Like Houses『Dissonants』(2016年)【タイプ2.5】

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オーストラリア・キャンベラのポストハードコアバンドによる3枚目。本国オーストラリアではナショナルチャートの7位を記録し、アメリカのビルボードチャートでも67位まで上昇した出世作。ポストハードコア的なスクリームやヘヴィネスはアクセントとして使われている程度、全体的には良質かつ普遍的なオルタナティブ・ロックという印象です。愁いを帯びたメロディが秀逸で、楽曲も非常にキャッチーなため、普段は日本のメジャーなロックしか聴かない人にも自信をもっておすすめできるアルバムです。

■Hands Like Houses『Anon.』(2018年)【タイプ3】

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『Dissonants』からさらにポップ化を推し進めた次作。オーストラリアのチャートでは4位まで上昇し、アメリカのインディーズアルバムチャートでも11位を記録しました。もはやハードコアの要素はほとんどなく、良い意味で「普通のオルタナティブ・ロック」です。ヘヴィネスに頼る必要がない彼らのメロディメイカー、コンポーザーとしての才能が十分に発揮されており、あらゆるロックファンをターゲットにできる作品です。個人的には、名曲”Through Glass”は、2019年に再発された女性ヴォーカルをフィーチャーしたバージョンの方が好きです。

■Emarosa『131』(2016年)【タイプ3】

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アメリカ・ケンタッキーのポストハードコアバンドによる4枚目。元々メロディを活かしたソフトな作風で、一概にポストハードコアとは言いにくいバンドでしたが、本作においてついにハードコア色をほぼ捨て去り、よりメジャー感のある普遍的なオルタナティブ・ロックに変化しました。この前作から加入したヴォーカリストの歌唱も非常にエモーショナルで、じっくりと練りこまれたメロディを力強く歌い上げています。その影響もあって、30 Seconds To Marsに似た印象を感じる瞬間もあります。

■Emarosa『Peach Club』(2019年)【タイプ4】

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『131』で完全なる脱ハードコアを目指したEmarosaですが、その次作にあたる本作ではハードコアからさらに離れ、スクリームは当然のことながらディストーションギターすらほとんど登場しない作品となっています。近いのは80年代のシンセポップやソウルで、もはやニューコアとすら言えない音楽性ですが、彼らの作曲能力がいかんなく発揮されており、内容は非常に素晴らしいです。ニューコアよりさらにポップな作品も好む方には是非おすすめしたい一枚です。

■Dayseeker『Sleeptalk』(2019年)【タイプ2】

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アメリカ・カリフォルニア州、オレンジカウンティのポストハードコアバンドによる4枚目。西海岸のバンドとは思えない、繊細でウェットで狂おしいまでの美メロを聴かせてくれる一枚。元々美しいメロディとハードコアサウンドの対比が印象的なバンドでしたが、本作ではスクリームはほとんど使われなくなり、ポストハードコア的な要素はかなり後退しました。名曲”Sleeptalk”をはじめ、メロディを重視したドラマティックな楽曲は非常に充実しており、ニューコア入門者に自信を持っておすすめできる作品です。

■I Prevail『TRAUMA』(2019年)【タイプ2】

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アメリカ・ミシガンのメタルコアバンドによる2枚目。ビルボードチャートで14位を記録し、2020年グラミー賞のロックアルバム部門にもノミネートされた出世作。メタルコアに通じるヘヴィなサウンドと甘くメロウなメロディとのコントラストが印象的ない一枚。デジタルエフェクトとラップ、甘いバラードと、今の時代に売れる要素をメタルコアに封じ込めたような作風で、これぞまさにニューコアといえる一枚。Linkin Parkをはじめとするニューメタルからの影響も強く感じます。”Hurricane”は特に感動的な一曲。

■You Me At Six『VI』 (2018年)【タイプ3】

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イギリス・ウェイブリッジのオルタナティブ・ロックバンドによる6枚目。イギリス・ナショナルチャートで6位を記録。ポストハードコアやエモを出自としながら、そこに収まらない大衆性を備え、2000年代後半から商業的な成功をおさめているバンドです。2010年代に入ってからはアルバムが常にTOP5入りしている彼らを今さらニューコアとして扱うべきか迷いますが、ポストハードコアのテイストを僅かに残しながら、ダンスやソウルの要素を取り込んでポップさを最大限引き出した本作は、内容の充実度からいっても、優れたニューコア作品といっていいでしょう。

■Issues『Issues』(2014年)【タイプ2】

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解説中でも取り上げた、ニューコアの誕生を告げるアメリカ・アトランタのポストハードコアバンドによるデビューアルバム。メタルコア、EDM的なエレクトロ・ポップ、甘いR&Bが絶妙なバランスでミックスされており、「メタルコア版ジャスティン・ビーバー」とでもいえる一枚。ハードコアの域を完全に超えている歌唱力・演奏力の高さも持ち味で、その比類なき完成度から、いきなりビルボードチャートの9位まで上昇したのも頷けます。

■Issues『Beautiful Oblivion』(2019年)【タイプ3】

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現時点最新作の本作は、知名度こそデビュー作『Issues』に劣りますが、その完成度はまったく劣っていないどころか、むしろ磨きがかかっているとさえ思います。本作のレコーディング前にスクリーム担当のヴォーカルが脱退し、その影響もあってメタルコア要素が希薄になり、ポップスやソウルの影響を受けたミクスチャー感のあるオルタナティブ・ロックという印象が強い作品ですが、高度な歌唱力と作曲能力にはさらに向上し、楽曲の充実度も素晴らしく、ニューコアの名盤といえるできに仕上がっています。

■Crown The Empire『Retrograde』(2016年)【タイプ2】

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アメリカ・テキサスのポストハードコア/メタルコアバンドによる3枚目。元々、シンセやキャッチーなメロディのクリーンヴォーカルが多用されたポストハードコア/メタルコアの範疇に収まらないバンドでしたが、スクリームを大きく減らし、近未来的なデジタルエフェクトや、静と動の緩急がハッキリした曲展開などをより強調することで、リスナーの間口を広げることに成功した一枚です。ビルボードチャートでも15位まで上昇したヒット作になっています。

■Crown The Empire『Sudden Sky』(2019年)【タイプ2.5】

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2019年リリースの最新作。ハードコア的な面を担っていたヴォーカルが抜けたことで、より普遍的なオルタナティブ・ロックに接近。とはいうものの、タイプ3のニューコアほどにポップ方面に振り切った楽曲があるわけでもなく、ポストハードコアならではの心地よいヘヴィネスはギリギリ保ちながら、より一般受けするロックに近づけていった作品という印象です。相変わらずメロディの組み立て方がうまく、チャートアクションこそ芳しくないですが、完成度は高い一枚です。

■blessthefall『Hard Feeling』(2018年)【タイプ2】

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アメリカ・アリゾナのポストハードコアバンドの6枚目。咆哮する激烈なメタルコアサウンドとキャッチーなメロディを活かしたクリーンなサウンドのコントラストで人気を博した彼らも時代の流れに乗り、スクリームは味付け程度でクリーンヴォーカルが主体となり、メロディアスさとドラマティックさ、デジタルな味付けを大幅増強してきました。旧来のファンには賛否ある変化だと思いますが、一般のロックファンからすれば過去最高に聴きやすい作品になっています。楽曲もよく練り込まれていて素晴らしいです。

■The Color Morale『Desolate Divine』(2016年)【タイプ2】

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アメリカ・イリノイのメタルコアバンドによる5枚目。元々メロディアスなメタルコアという作風でしたが、5枚目にして美しいメロディとモダンなアレンジの融合が極まった印象があります。ドラマティックさを加速するシンフォニックなアレンジやキラキラしたギターなど、耳を捉える美しいリフやフレーズが多く、”Perfect Strangers”や”Keep Me In My Body”といった曲ではより顕著です。残念ながら2018年に活動停止を宣言しています。

■I See Stars『Treehouse』 (2016年)【タイプ2】

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アメリカ・ミシガンのポストハードコアバンドによる5枚目。シンセの印象が強く、EDM的なダンスの要素を積極的に取り入れた音楽性から一部では「エレクトロ二コア」とも呼ばれていますが、デジタル的なサウンドとメロウでキャッチーなメロディは典型的なニューコアです。2018年には本作収録曲の一部をピックアップしたアコースティックアルバムがリリースされましたが、装飾をはぎ取ってもなお楽曲の魅力は失われておらず、そもそも曲が良いバンドであることがよく分かる企画でした。悲哀と激情が交錯する”Running With Scissors”は至極のナンバーです。

■Silverstein『A Beautiful Place to Drown』(2020年)【タイプ2】

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カナダ・オンタリオのポストハードコアバンドによる10枚目。2000年代のスクリーモ黎明期から活動するベテランで、多くのバンドが脱スクリーモ/ポストハードコア化する中、20年近く初期のスタイルを堅持してきた彼らですが、2020年リリースの本作はかつてなくメロディックでポップな一枚を打ち出してきました。ヘヴィなギターサウンドへのこだわりも捨て、デジタル的な空間処理からサックスまで飛び出す、ニューコア時代にふさわしいカラフルな変化を遂げています。良質なメロディと完成度の高い楽曲が揃った充実作で、デビュー17年目、10枚目にして過去最高を更新する傑作アルバムではないかと個人的には思います。

■YONAKA『Don't Wait 'Til Tomorrow』 (2019年)【タイプ3】

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Bring Me The Horizonの最新EPにゲスト参加している、イギリス・ブライトンのオルタナティブ・ロックバンドによるデビューアルバム。ヴォーカルは女性で、ハードコア要素はほとんどありません。エレクトロ・ポップ風のサウンドにキラキラとしたギターが絡むエモっぽい音楽性です。Paramoreの近作に似た雰囲気もあり、ニューコアとポップロックの境界線上にいるといえます。”Rockstar”が出色ですが、他にも高品質な曲が並んでおり、イギリスのチャートでは38位まで上昇、Kerrang誌ではBest British Newcomerにノミネートされるなど、今後の活躍が期待されています。

■PVRIS『All We Know of Heaven, All We Need of Hell』(2017年)【タイプ3】

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アメリカ・マサチューセッツのオルタナティブ・ロックバンドによる2枚目。こちらも女性ヴォーカルです。ビルボードチャートでは41位、イギリスのチャートでは4位を記録しています。活動初期はポストハードコアだったそうですが、本作においてハードコア要素はかなり後退しており、エモをベースにダンスやエレクトロ・ポップの要素をミックスしたようなサウンドになっています。空間的な広がりを感じさせるメロディはより美しく、ロックにとどまらず幅広くポップフィールドまで視野に入れることができる音楽性といえます。ニューコアの中でも極めてポップな作品といえるでしょう。

■Dream State『Promrose Path』(2019年) 【タイプ2.5】

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イギリス・ウェールズの4人組によるデビュー作。こちらも女性ヴォーカルで、スクリームも一応含まれますがそれほど激しくはなく、シンフォニックでメロディアスな聴きやすいポストハードコアを展開しています。繊細さのある叙情的なメロディが秀逸で、メロディを重視する日本のロックファンには受けやすい作品といえるでしょう。活動歴自体は長く、EPなどは2015年ごろからリリースされています。それ故、楽曲の作りなどもこなれている印象です。今後リリースされる作品にも期待が持てます。

■Captive『Ghost Like You』(2019年)【タイプ2】

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イギリス・リーズ出身のポストハードコアバンドのデビューEP。アルバムデビュー前ですが、新人とは思えない完成度の高いシングルを次々とリリースし、ポストハードコアシーンでは早くも注目されているバンドです。狂おしくも美しいメロディ、歌い上げるクリーンヴォーカル、キラキラとしたクリーンギター、疾走パートと静寂パートのコントラスト、巧みに使い分けられたサウンドエフェクトと、美メロ系ニューコアとでもいえる曲が詰まっています。メロディの質がヨーロッパ的で、サウンドには繊細さを感じさせる部分もあり、日本人好みのバンドだと思います。

■Slaves『Beautiful Death』(2018年)【タイプ2】

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アメリカ・カリフォルニアのポストハードコアバンドによる3枚目。Emarosa、Dance Gavin Danceといった著名バンドを渡り歩いた実力派ヴォーカリストが結成したというだけあり、エモーショナルなヴォーカルを中心とした質が高いポストハードコアを楽しめます。疾走感やヘヴィネスで押すような瞬間は少なく、スケール感のあるサウンドスケープと狂おしいまでの美しいメロディが存分に堪能できる、こちらもまた美メロ系ニューコアとでもいえる素晴らしい作品です。

■Ice Nine Kills『The Silver Scream』(2018年)【タイプ1】

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アメリカ・ボストンのメタルコアバンドによる5枚目。ビルボードチャートで29位を記録。ニューコアはラウドなパートとクリーンなパートを明確に使い分けてコントラストを付けることが多いですが、ラウドさとメロディを混然一体とさせて、カオティックだけどキャッチーという絶妙なバランス感覚を持っているのが、彼らの独特な魅力だと思います。ニューコアとしてはかなり激しい部類に入りますが、シンフォニックなサウンドやオペラティックなメロディも多く、全体的にシアトリカル・オペラティックな印象もあり、不思議と聞きやすく仕上がっています。

■Bullet For My Valentine『Gravity』(2018年)【タイプ2】

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イギリス・ウェールズのメタルコアバンドによる6枚目。ビルボードチャートでは17位、イギリスのチャートでは13位を記録。クラシカルなヘヴィメタルメタルコア時代に合わせてアップデートさせたような作風で、メタルファンの間では人気を確立していたバンドですが、本作ではBring Me The HorizonやAsking Alexandriaの近作を意識したかのようなメロディックな作風に変貌しいています。旧来のファンからは批判が多い作品ですが、コンポーザーとしての彼らの力を見せてくれる、素晴らしいニューコア作品です。

■coldrain『The Side Effect』(2019年) 【タイプ2】

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日本・名古屋のポストハードコアバンドの6枚目。デビュー以来、全編英詩のグローバル水準の作品に拘ってきたバンドですが、近年は、持ち前のパワフルさを活かしながらも、よりメロディックに、よりキャッチーに、より凝ったサウンドに変異しており、ニューコア的なスタイルに徐々に移行しているように感じます。複雑で凝ったメロディ展開や演奏の組み立て方に、日本のバンドらしさがうかがえます。ニューコアとしては本作が彼らの最高傑作と思いますが、前作『Fateless』(2017年)もなかなかの良作です。

■Falling In Reverse 『Coming Home』(2017年) 【タイプ2】

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アメリカ・ラスベガスのポストハードコアバンドの4枚目。アメリカ・ビルボードチャートで34位を記録。人気を博したポストハードコアバンドEscape The Fateの元ヴォーカリストが結成したバンドです。スクリームはほとんどなくクリーンヴォーカル主体で、ポップパンクのような明るいメロディや開放感もあり、ポストハードコア特有のダークさが希薄なのが特徴です。ダンスミュージックを思わせるエレクトリックな処理やストリングスアレンジなどの取り込みも積極的で、全体的にポップで聴きやすい作品です。

■Written By Wolves『Secrets』 (2019年)【タイプ2.5】

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ニュージーランド・オークランドのオルタナティブ・ロックバンドによるデビュー作。ニュージーランドのロックシーンでは10年以上のキャリアがあるメンバーが結成したバンドということもあり、デビュー作ながら非常に質の高い作品に仕上がっています。Hands Like Housesもそうであるように、ポストハードコア由来のラウドさよりも聴きやすさが勝っているような音楽性で、英米のアーティストにはない親しみやすさも感じます。かつてのONE OK ROCKに近い印象もあり、日本のロックを好んで聞いているリスナーにも比較的受け入れられやすい作品といえます。

■AS IT IS『The Great Depression』(2018年)【タイプ3】

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イギリス・ブライトンのポストハードコアバンドによる3枚目。2015年にスマッシュヒットした"Dial Tones"でも顕著なように、ポストハードコアというよりはポップパンクに近いバンドですが、スピードに頼らずしっかりと聴かせる作風や重厚で複雑なサウンドを取り入れており、ポップパンクからニューコア的なポストハードコアに移行してきた珍しいタイプといえます。とはいえ、やはりメタルコアのような激しさはまったくなく、ニューコアの中でもポップな印象が強いタイプといえるでしょう。

■Wage War『Pressure』(2019年)

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アメリカ・フロリダのメタルコアバンドの3枚目。スクリーム主体のヘヴィなパートと、美しいメロディを聴かせるクリーンなパートとの落差がかなり大きいのが特徴です。ヘヴィなパートだけを聴けば、従来のメタルコア/ポストハードコアに近いサウンドに思えますが、各曲に必ず登場するエモーショナルなクリーンヴォーカルを活かしたメロディが非常に美しくキャッチーで、デジタル的な効果音なども積極的に使われており、まぎれもなく近年のニューコアの流れにある作品といえるでしょう。

■Palisades『Erase The Pain』(2018年)【タイプ2】

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アメリカ・ニュージャーニーのポストハードコアバンドによる4枚目。デビュー当時からメロディアスなバンドでしたが、作品を重ねるごとにメロディが強化されていき、最新アルバムとなる本作では、シンセなどのアレンジもあり、典型的なニューコア作品となっています。ヴォーカルの声質が似ていることもあり、どことなくLinkin Parkに近付いてきたようにも思います。タイトでヘヴィな演奏は顕在で、ハードさとソフトさのバランスが取れた良質な作品です。

■Architects『Holy Hell』(2018年)【タイプ1】

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イギリス・ブライトンのメタルコアバンドによる8枚目。活動歴は長いながら、はじめてイギリスのチャートで15位まで上昇し、Kerrang!誌を始め世界中のラウド系メディアから絶賛され、彼らを一躍有名にした作品です。スクリームを主体としたメタルコアに近い作風で、ニューコアの中ではかなりヘヴィですが、近未来風のデジタル処理やシンフォニックなアレンジ、静と動のコントラスト、ドラマティックなメロディに、近年のニューコアに近いテイストを感じます。名曲”Doomsday”が特に素晴らしいです。

■The Plot In You『Dispose』 (2018年)【タイプ2】

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アメリカ・オハイオのメタルコアバンドによる4枚目。元々はソロアーティストでしたが、本作でフルバンド編成となるとともに、それまでのメタルコア路線から離脱、R&Bやエレクトリックミュージックの要素を取り込むなど大きく変化した作品です。咆哮するヴォーカルもほぼなくなり、クリーンに歌い上げる楽曲が大半を占めています。スローな楽曲が多く、狂おしいメロディとダークな叙情性を堪能できる良質なオルタナティブ・ロック作品で、声質が似ていることもあり、30 Seconds To Mars『This Is War』をロック方向に進化させた作品という印象も受けます。

■Dead By April『Worlds Collide』【タイプ2】

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スウェーデン・ヨーテボリのメタルコアバンドによる4枚目。スウェーデンのチャートでは8位を記録。2000年代末から活動していて、その頃からダンスミュージックとメタルコアと北欧らしいキャッチーなメロディをミックスしたサウンドスタイルを確立していました。つまり、2010年代のEDM/ヒップホップの興隆とはあまり関係なく、結果的にニューコアと近い存在になっていったバンドです。音楽性の変化は比較的少なく、本作以外もニューコアっぽい、デジタル色の強いポストハードコア/メタルコアを楽しめます。

■Siamese『Super Human』(2019年)【タイプ3】

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デンマークでは2011年頃から活動しており、現地ではかなりの人気を誇るポストハードコアバンドの5枚目。2度来日し、アメリカデビューもしています。バイオリンを担当するメンバーが在籍するのが編成上の大きな特徴ですが、特別シンフォニックな印象が強いわけでもなく、全体的にはポストハードコアをベースとしたメロディックなオルタナティブ・ロックといえます。デジタルやラップの使いどころもうまく、洗練された印象のある、完成度の高いニューコアといえます。

■Too Close To Touch『I'm Hard To Love, But So Are Vo.1~Vol.3』 (2019年)【タイプ3】

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アメリカ・ケンタッキーのポストハードコアバンドが2019年にリリースしたEP連作。 日本のポストハードコアンファンの間でも話題になった『Haven't Been Myself 』(2016年)では、メロディを重視した叙情的ポストハードコアを聞かせていましたが、近年のトレンドに引き寄せられるように、この連作ではメロディをさらに強化し、透明感のあるヴォーカルはよりクリーンになり、シンセや打ち込みも積極的に導入するなど、非常にポップに仕上がっています。

■From Ashes To New『The Future』 (2018年)【タイプ3】

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アメリカ・ペンシルバニアのオルタナティブ・ロックバンドによる2枚目。いわゆるニューメタル・リバイバルを代表するアーティストです。ラップを積極的に導入し、デジタル的な装飾を施しながらコーラスでは美しいメロディを聴かせるスタイルはまさにLinkin Parkに代表されるニューメタルそのものです。メタルコアのような激烈さはほとんどありませんが、ラウドなオルタナティブ・ロックにダンスとヒップホップを取り入れたことで、結果的にニューコアに近いサウンドになっています。

■Dangerkids『Blacklist_』 (2017年)【タイプ2】

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アメリカ・オハイオのポストハードコアバンドによる2枚目。こちらもいわゆるニューメタル・リバイバルに属するバンドですが、本作は特にLinkin Parkに酷似しており、Linkin Park『Hybrid Thoery』にメタルコア的なニュアンスを加味して2010年代に仕上げたサウンドといえます。EDM的なデジタル処理、全編にフィーチャーされたラップと、全体的にニューコアのトレンドを抑えた作品になっています。楽曲のクオリティは高く、Linkin Parkが好きなら楽しめる一枚でしょう。

■SHVPES『Greater Than』(2018年)

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イギリス・バーミンガムのメタルコアバンドの2枚目。ヘヴィメタルの大御所Iron Maidenの息子が率いるバンドとしても有名ですが、そのサウンドは当然のようにIron Maidenのようなクラシックメタルとは大きく異なり、ラップを多用したニューメタルに近いメタルコアになっています。近年のニューメタル風バンドはLinkin Parkっぽいことも多いですが、彼らからはむしろPapa Roachからの影響を強く感じます。楽曲の質は高く、よくプロデュースされたニューコア作品です。

■Sylar『Seasons』(2018年)

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アメリカ・ニューヨークのポストハードコアバンドの3枚目。ニューメタル・リバイバルとして名前があがることが多いバンドですが、ラップ、時々挟み込まれるスクラッチ、浮遊感のあるシンセ、キャッチーなコーラス、リズムを重視したミドルテンポ中心の楽曲構成など、かつてのニューメタルの魅力のすべてを集約したような音楽性です。「これは90年代にリリースされた作品だ」といわれても、多くの人が疑問に思うことなく信じてしまうでしょう。ニューメタル寄りのニューコアが好きな人には間違いなくおすすめできる作品です。

■Darke Complex『Point Oblivion』 (2016年)【タイプ3】

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アメリカ・テキサスのメタルコアバンドによるデビューアルバム。元々はWidowというバンドでしたが、バンド名を改名するとともに、ラップやシンセの要素を強めて、ニューメタルにかなり近い音を出すようになりました。ダークさやエキセントリックさはどことなくKornに似ており、そこにキャッチーなメロディ、浮遊感のあるシンセ、メタルコア的なヘヴィネスといった現代的な要素が加わった作品です。非常にクオリティの高い作品ですが、残念ながら今は活動していない模様。

■Thousand Below『Glow In Your Wake』(2019年)【タイプ2】

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アメリカ・カリフォルニアのポストハードコアバンドによる2枚目。スクリームとクリーンヴォーカルが交錯する典型的なスタイルの作品で、デジタル的な処理も控えめで、従来のポストハードコア、あるいは2000年代のスクリーモに比較的近い音楽性といえますが、デビュー作と比べると叙情的でメロディアスな楽曲も増え、クリーンヴォーカルがより際立つ楽曲構成に移行しており、やはりニューコアへの歩み寄りを感じさせます。

■Sleeping With Sirens『How It Feels To Be Last』(2019年)

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アメリカ・フロリダのポストハードコアバンドによる6枚目。ポストハードコアの新星として2010年にデビューし、2013年の『Feel』をビルボードチャートの3位に送り込んだ実績のある彼らを、今さらニューコアとして扱うのも少々気が引けますが、現時点最新作である本作もまた、近年のニューコアの影響を受け、デジタル的なテイストをやや強めた作風にシフトしています。スピードを落とし、じっくり聴かせる作風に変わっていることも、ニューコア的な変化と言えるかもしれません。

■Starset『Divisions』(2019年)【タイプ3】

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アメリカ・オハイオのポストハードコアバンドによる2枚目。アメリカ・ビルボードチャートで37位を記録。しばしば差し込まれるスクリームなどにポストハードコア的な要素を感じさせるものの、ラウドさを感じる瞬間はほとんどなく、ダンスの影響を受けたエレクトリックなオルタナティブ・ロックという印象を強く与えます。そういった意味でもニューコアの王道といえるでしょう。ビルボードチャートで11位まで記録した『Vessels』(2017年)もほぼ似たような音楽性で、本作が好きな人はこちらも楽しめるはず。

■Solence『Brothers』(2019年)【タイプ3】

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スウェーデン・ストックホルムのポストハードコアバンドのデビューアルバム。全体的にシンセが強く、ダンスミュージックからの影響が大きいという点では、同じスウェーデンのDead By Aprilに近いとも言えますが、彼らほどのメタルコア感はなく、スクリームも少なく、ポストハードコアとしてはかなりソフトなタイプといえます。スウェーデンのバンドらしい愁いを帯びた親しみやすいメロディも特徴的で、ポストハードコアにとどまらず、一般的なロックファンもターゲットにできる作品といえるでしょう。

■The Word Alive『MONOMANIA』(2020年)【タイプ3】

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アメリカ・アリゾナのメタルコアバンドによる6枚目。2010年の活動初期から、メロディが比較的強いタイプのメタルコアでしたが、作品を重ねるごとにメロディの比重を高めてポップになり、ついに本作ではメタルコア/ポストハードコアと決別するような作品に到達しています。ヘヴィネスよりもクリーンさ、ロックバンドの肉体性よりもシンセと打ち込みといったデジタルの印象の方が上回っており、もはやポップなオルタナティブ・ロックと表現したほうがいいかもしれません。よりハードな前作『Why Am I Like This?』(2018年)もニューコア的な作品でおすすめです。

■Awaken I Am『Blind Love』(2017年)【タイプ2】

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オーストラリア・ゴールドコーストのポストハードコアバンドによるEP。2010年ごろから活動しており、このEP以前にも3枚のアルバムをリリースしています。活動初期より、同じオーストラリアのHands Like Housesに似た、クリーンヴォーカルとメロディを中心にした聴きやすいポストハードコアを一貫して展開しています。プログレと思わせるやや複雑な展開と入トーンヴォーカルが彼らの持ち味でしたが、本作から楽曲がややシンプルになり、ハイトーンも控えめに、シンセやアトモスフェリックな空間処理も強くなって、よりニューコア的な作風に変化したといえます。現時点最新EP『The Beauty In Tragedy』(2019年)も同じような方向性でおすすめです。

■Bilmuri『Rich Sips』(2019年)【タイプ3】

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アメリカ・オハイオのポストハードコアバンドによる8枚目。2000年代に活動していたAttack!Attack!のクリーンヴォーカル担当であったジョニー・フランクが一人でやっているバンドです。デビューは2016年ですが、既に8枚のアルバムをリリースしており、その多作さに驚かされますが、楽曲の質にブレがないことにも驚かされます。シンセや打ち込みなどのエレクトロ要素が強いのが特徴で、ポストハードコア色は希薄ですが、良質なニューコアを確実に聴かせてくれる要注目アーティストです。

■Dream On Dreamer『It Comes And Goes』(2018年)【タイプ2】

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オーストラリア・メルボルンのポストハードコアバンドによる4枚目。オーストラリアのチャートでは34位を記録。デビュー当時は典型的なポストハードコア/メタルコアでしたが、徐々にメロディの比重を高めていき、本作ではクリーンヴォーカル主体のメロディックなポストハードコアになっています。目立った個性こそないものの、オーストラリアのバンドらしい親しみやすさや分かりやすさがあり、全体的にソツなくまとまった完成度の高い作品といえます。

■Bad Omens『Finding God Befor God Find』(2019年)【タイプ1】

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アメリカ・リッチモンドの4人組による2枚目。ポストハードコアをベースとしながらシンセやデジタル的な空間表現を多用したメロディアスな音楽性で、ヴォーカルの声質も含めてBring Me The Horizonの『Sempiternal』と酷似している、といっていいくらいに似ていますが、本人たちはそのような比較は不本意であると否定しています。オリジナリティにやや欠けるとはいえ、楽曲の質は非常に高く、Bring Me The Horizonが別の音楽性に変貌してしまった現在、『Sempiternal』的な音楽を求めるファンの期待には十分に応えうる作品といえます。

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