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大切な人の自死とグリーフをめぐる語り合い――wish you were hereの対話を通して|第4回 自死の話をしにくい社会で、大切な人を亡くした人たちが出会い、語り合えるように。

0歳のときに自死で母親を亡くした筆者が、小学生のときに母を自死で亡くした友人とともに、自死遺族や大切な存在を自死で失った人たちとSNS等で繫がって対話をする活動と、それぞれの率直な思いを話し、受け止め合う音声配信を、約2年間続けてきました。10人のゲストの人たちとの、自死にまつわるテーマでの話しあいや、聞いてくれた方からのメッセージからの気づきと、筆者自身の身近な人の自死の捉え方や心境の変化、グリーフについての学び、大切な人を亡くした人たちへのメッセージを綴ります。
※この連載では、遺族の立場から、自死・自殺についての話をします。それに関連するトラウマ的な体験をしたことがある人や、死にまつわる話が苦手な方などは、読んで辛くなることもあるかもしれませんので、お気をつけください。
※月1回更新

自死の話を不特定の人に向けて話すこと

stand.fmで配信を始めるにあたって、初回は、自分たちがそれぞれの母親を自死で失った経験や、そのことについて感じてきたこと、考えてきたことを話すことにした。実際の経験や素直な思いを開示することで、同じように大切な人を自死で亡くした人に、僕たちのことを身近に感じてもらえると思ったからだ。

よだかさんに僕の家に来てもらい、ダイニングのテーブルにiPhoneを置いて収録をした。よだかさんも僕も、ブログやnoteなどに母親の自死のことを書いた経験はあったけれど、それでも、声で配信するというのは緊張するものだった。収録前には、それぞれがどこまで公開していいと思っているのか、相手の話をどこまで掘り下げて大丈夫なのか、丁寧に打ち合わせをして、ゆっくりと言葉を選びながら話した。一方で、普段僕たちが居酒屋で話しているようなカジュアルな雰囲気も届けたかったから、たまたま家にあった柿や菓子パンをテーブルに置いて、ときどきそれをつまみながら話した。できるだけ緊張をほぐして、普段の何気ない会話に近づけることも意識していた。

収録ボタンを押して、僕たちが母を自死で亡くした経験を順番に話したあと、この活動をはじめた理由や、wish you were hereという活動名の由来についてもよだかさんが話してくれた。こんな風に、話す内容をある程度決めて、収録という枠のなかで自死というテーマに丁寧に向き合うのは、話している僕らにとっても新鮮で、大きな意味を持つ時間だった。初回の配信を終えたあとは、緊張感が残りつつも、どこか満たされたような不思議な感覚があった。この経験を話して、インターネットで公開するということはつまり、自分がまだ知らない人たちにも、自分たちの過去を受け止めてもらおうとするということだ。その覚悟ができたような気がした。

また、その後のゲストを招いての収録についても言えることだけど、収録の中で相手からこのような大切な話を聞くのは、自分たちだけの閉ざされた空間で話を聞くのとは大きく違う。あとで聞いてくれる人がきっと他にもいて、その人たちに、よだかさんやゲストとして出てくれた人の語りを大切に受けとってほしいから、まずは自分たちが、相手の話を丁寧に聞いて受けとめたい。たとえ社会規範のようなものから少し外れたような語りがあったとしても、その人の感覚として、尊重しながら聞いていきたいと思っていた。

自死の話がタブーな社会では、遺族どうしはなかなか出会えないから。

よだかさんと2人で配信を続けていてしばらくたった頃、10年ほど前に弟を自死で亡くしたというYUKOさんという人から連絡があった。大学生の頃に、当時高校生の弟を亡くされたらしい。

活動について書いたよだかさんのnoteを見つけ、stand.fmの配信も聞いてくれて、一度話をしたいと連絡をくれたのだった。最初にYUKOさんとZOOMで3人で話をして、そのなかで共感して盛り上がっていたのが、家族の自死のことを人に言えないことの辛さだった。なかなかオープンにできる空気ではないから、苦しくなっても助けを求めるのが難しく、そのことで余計に辛くなってしまう。そんな空気を少しでも変えたいと思って、YUKOさんはその頃、自身の経験をnoteで発信していたのだった。

YUKOさんはstand.fmのゲストにも出てくれた(対話その4|ゲストYUKOさん|家族の自死を話すことについて)。”wish you were hereの対話”の初めてのゲストだった。収録では、弟を自死で亡くしたときの状況や、その後に自責感を強く感じて生きて来たこと、トラウマを抱えていたものの周囲の友人にはなかなか話せなかったために、メンタル不調の理由を周りの人に理解してもらえず苦しんできたこと、10年たって自分自身が鬱になった経験を経て、少しずつ気持ちも変化してきたという話もしてくれた。

その収録のなかで、「よだかさんの話をラジオ(stand.fm)で聞いたとき、自分よりももっと小さいときに親の自死を目の当たりにして、ものすごく辛い思いをした10歳の当時のよだかさんを、心の中で抱きしめたいと思った」と話してくれていた。

弟の自死の第一発見者となって、「弟を助けてあげられなかった」と自分を責めて生きて来たというYUKOさんが、他の人のことなら、そんな風に大切に思えるのだ。僕やよだかさんも、YUKOさんが辛い日々を乗り越えて今まで生きて来たことを称えたいと思ったし、自分のことを責めないで、自分の人生を大切にしてほしいと、話を聞きながら感じていた。似た経験をした人、似た苦しみを抱えた人が繫がることで、こんな温かな想いが互いに生まれることもあるのだと、この経験を通じて知った。

よだかさんは、YUKOさんの言葉を振り返って、「それまで辛いことがあるとずっと母が死んだシーンが心に戻ってきて、『自分はここから抜け出せない』って思っていたけど、YUKOさんにその言葉をもらって、当時の心細かった自分を抱きしめてくれる人が現れたように感じた。今までに感じたことのない感情が押し寄せて、涙が出そうになった。」とふり返っている。いまでもYUKOさんとは、互いの人生を応援し合う仲間になっている。活動を始めるときに、よだかさんが望んでいたような関係性、つまり、自死の話だけでなく、趣味や互いの人生に起きるいろいろな話をシェアしあう仲になっているのだけど、とんでもなく苦しかった日々を知ってくれているからこその安心感があるように感じている。

遺族の統計がないため正確なことはわからないけれど、2万人以上が毎年自死で亡くなるこの国で、自死をした人に平均して4人の家族がいたとすれば、年間8万人以上、30年間で240万人以上の人が新たに自死遺族となる計算になる。

ただ、家族を自死で亡くしたという話はなかなか人に言えないから、たとえば学校の教室、あるいは、職場の同じ部署に、自死遺族がもし他にいたとしても、そのことに互いが気づくことは珍しいと思う。サッカー好きどうしが繫がってワールドカップのときに盛り上がるようには、なかなかいかない。

YUKOさんもよだかさんも僕も、家族の自死を、ほとんど人に話せず、辛さを抱えて、思い悩んできた過去があった。この活動を通して生まれたこの出会いは、それぞれがひとり孤独に地中深くに潜ってさまよっていたころで、偶然仲間に出会えたときのような感動があった。僕がいつかそんな風に話していたのをYUKOさんやよだかさんは覚えてくれていて、もぐらがこの活動のイメージキャラクターになっていった。

YUKOさんはグラフィックデザインが得意で、ありがたいことに、他の人にこの活動を紹介するためのカードを作ってくれた。

カードのなかには、かわいいモグラがいる。

よだかさんと初回の配信をしたあとで、自死の話をタブーのままにしたくないということを、僕も強く感じていた。

もちろん、こうした話がタブーになっていることには、いろいろな理由があるのだろう。自死は、ほとんどの人にとって(もちろん僕にとっても)なるべく起きてほしくないことだし、そのことにひどくショックを受ける人も多い。考えるだけで動揺する人もいるだろうから、公の場で話題にするのを避けるべきだというのは理解できる。

それでもやはり、話せる場所はどこかにあるべきだ。
人と話して受け止めてもらうことで、気持ちが軽くなることもあるし、同じことを何度もぐるぐると考えていたところから、少し違うところに進めることもある。他の人の語りを聞いて、自分の思い込みに気づかされることもある。

カウンセリングや、遺族会もあるけど、ハードルが高いという人もたくさんいる。
そんな人に届けばいいと思って、聞きたいときに聞けて、辛くなったらいつでも聞くのをやめられる音声配信という形で、今でもときどき発信を続けている。「話したくなったときは、僕たちと話しましょう」と、静かに開きながら。

【著者プロフィール】
森本康平
1992年生まれ。0歳のときに母親を自殺で亡くす。京都大学で臨床心理学を専攻後、デンマークに留学し社会福祉を学んだのち、帰国後は奈良県内の社会福祉法人で障害のある人の生活支援に従事。その傍ら、2021年の冬、自死遺族の友人が始めた、大切な人を自死で亡くした人とSNS等で繋がって話をする活動に参加し、自死やグリーフにまつわる話題を扱う番組“wish you were hereの対話”をstand.fmで始める。これまでに家族や親友の自死を経験した人、僧侶の方、精神障害を抱える方の支援者など、約10名のゲストとの対話を配信。一般社団法人リヴオンにて、”大切な人を亡くした若者のつどいば”のスタッフとしても活動。趣味はウクレレと図書館めぐり。
“wish you were hereの対話”
https://lit.link/wishyouwerehere