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犬は人が大切にしているものほど、噛んだり、隠したり、おしっこをかけたりする。そう信じている飼い主も少なくないようだ。 子供の頃に飼っていたマルチーズのルナも、玄関に並べた靴の中にウンチをしては父や母に叱られていた。母は「叱られた腹いせね」とか「あてつけにあんなことするのよ」とか言っていた。反抗期の中学生らしく、自分で叱っておきながら何言ってんだろうと内心思いながらも、当時のボクにはそれ以上、ルナの排泄について考察する術がなかった。 今考えれば、そもそもルナのトイレシーツ
従兄弟のタナカがうちに来てくれたおかげで、はるのお腹の調子が悪そうなときでも心配することなく大学に出勤できるようになった。深夜に起こされることはまだあったが、それでも心身ともにボクはずっと楽になった。 気持ちに余裕ができたので、下痢の原因を本格的に調べ始めた。まずは山本央子先生に相談して、察子さんもお世話になっている獣医さんを紹介していただいた。ボクのうちから車で30分くらいのところにある人気の動物病院だ。院長先生が診察し、丁寧に説明してくださった。 まず、検査結果か
時は戻って2012年4月。はるがうちに来てからそろそろ2か月。春休みが終わり、新学期が始まって、ボクはほぼ毎日、大学へ出勤するようになっていた。 留守番の練習は完了している。7-8時間なら問題ない。webカメラで録画した動画から、留守番中はほぼずっと、お昼寝していることが確認できている。 朝、散歩に行き、昼間は大学へ行って仕事をして、夕方までに帰宅して散歩に行く。これが平日の生活パターンとして安定し、これで安心と思いきや、事件が起こった。 その日、帰宅して居間の扉を
「最近、耳が遠くなって」 「うちもです。段差でつまずいたり、よろけたりするようになっちゃって」 歳をとるにつれて友達との会話には体調や病気の話題が増えるものだが、飼い主同士でもそれは同じだ。 「散歩中、同じ道を行ったり来たりするんですよ」 「ぼーっと遠くを見つめて動かなくなることが増えました」 「電柱に頭ぶつけるんです。もう心配で」などなど。 はるも今年で13歳。犬年齢を人年齢に換算する方法はいくつかあるようだが、だいたい68歳くらいだろうか。いつの間にかボクを追い越し
犬と暮らそうとボクが思ったきっかけは、山本央子先生の愛犬、察子さんとの出会いだった。犬は吠える。当時のボクはそう信じていた。というか、吠えない犬がいるなんて、想像すらしていなかった。犬は人懐っこく、四六時中かまってもらいたがる。ボクはそう信じてもいた。人と距離を置いて静かに佇む察子さんは、これもボクの思い込みだったことを教えてくれた。 吠えなくてもいいときに吠えることを、犬業界では「無駄吠え」という。ご飯が欲しいと吠えるのは「無駄」である。なぜなら吠えなくてもご飯はもら
はるがうちに来てから、ボクが外食や会食に出かける回数はめっきり減った。仕事が終われば寄り道せず、すぐに帰宅する。行きに比べて帰りの歩く速度は1.5倍。かつて人並みに恋愛し、同棲していたときにも帰途は足早になったが、2週間と続かなかった。1か月もしたら我が家なのに足が遠のいて、飲み屋に寄り道していた。はるとの生活は今年で12年になるが、今でも帰りは早歩きだ。ボクにとっては人との暮らしより、犬との暮らしの方があっていたということなのだろう。 そんなわけでほぼ毎晩、ボクは自宅
ボクが部屋からいなくなっても、家を数時間留守にしても、吠えずに一人で寝て過ごせるようになったはるだったが、それでもまだ吠えることがあった。はるの食事のとき、ボクが食事をしているとき、家に誰かがやって来たとき、クレートに入れられたときである。 食事は朝夕の散歩から帰ってから与えることに決めていた。そうすれば散歩中が一日で最もお腹が空いている時間帯になり、リードを引っ張らずに歩く練習や見知らぬ人に近寄る練習におやつを効果的に使えるからだ。 散歩から帰り、お風呂で脚を洗い、
「はるちゃん、はるちゃん!」散歩していると近所の犬友さんが声をかけてくれる。はるも尻尾を振って近寄っていく。「はるちゃん、ほんとにかわいいですね」なんて言われると嬉しくてたまらないのだが、表情に出すのは恥ずかしく、あえて平静を保とうとしたりする。定年退職したオジサンの地域デビューは難しいというが、きっとこういうところなんだろうな。 犬同士の相性と人との相性は別らしく、犬には近づいていって匂いをかぐのに飼い主さんには無関心なこともあれば、飼い主さんに近づいていってわんちゃ
ようやくボクのうちにやって来たはるは、シェルターで保護されていたときとは打って変わって、がんがん吠える犬に変貌していた。うちに誰か来ると吠える。フードを用意していると吠える。おやつをあげようとして袋から出すのに手間取ると吠える。パソコンに向かって仕事をしていてかまってあげないと吠える。 何より困ったのは、ボクが玄関から出るとすぐに吠えだすことだった。4月から授業が始まる。そうなれば毎日のように、はるは一人で留守番することになる。それまでにはなんとか落ち着いてもらわないとな
てんちゃんは次の日から「はる」になった。ボクは結婚していないし、子どももいない。だから想像でしかないのだけれど、犬の受け入れ準備をしていた2か月間は、まるで出産を待つ初親のような気持ちで、名づけ辞典をめくったりネットで赤ちゃんの名前ランキングを眺めては、ノートに候補を書き出してた。 那須塩原へ向かう車の中、まだ2月中旬だったがその日は陽射しが暖かで、「もうすぐ春だな」とぼんやり思った。BGMでキャンディーズの「春一番」が流れていたからかもしれない。名前は「はる」にしよう
東京から東北自動車道を約2時間半。アニマルファンスィアーズクラブ(AFC)に到着すると、佐良先生、秋元先生、山本先生、杉山先生が揃って出迎えてくださった。待ちきれない想いを察して、すぐに案内してくれる。10畳ほどの部屋の奥にクレートが一つだけ置いてあり、その中に犬が寝そべっていた。何十頭もいる他の犬とは別の部屋をあてがってくれていたのだ。ボクたちが入ると立ち上がり、こちらの様子をうかがっている。写真の印象より小さく、幼く見えた。 「ここにいてください」秋元先生に言われ、
犬は飼いたいけれど一人暮らしのボクに飼えるだろうか。飼うならどんな犬がいいだろうと思案していたが、決まるときは一瞬だった。本やインターネットの情報を元にしていた空想や妄想がいっぺんに現実になった。 犬用の食器を買わなくちゃ。フードはどうすればいいんだろう。トイレは? そもそも家の中のどこで犬を飼えばいいのだろう。疑問は次から次へと湧いてくる。 山本先生に相談すると、何を準備すればいいかとても丁寧に教えてくださった。まずは「クレート」である。家の中で犬が安心して過ご
「犬とのめぐり逢いは運と縁だから急がず気長に待っているといいですよ」山本先生からはそう助言されていた。 それでも何もしないではいられないボクは杉山先生にお願いして、佐良先生が主宰するアニマルファンスィアーズクラブ(AFC)を見学させてもらった。AFCは那須塩原の広大な敷地に屋外・屋内のドッグランがいくつもある会員制の施設だ。こういう施設の広さを説明するには東京ドームを単位に数えるのが慣例みたいだが、ドーム30個は簡単に入りそうだ。あくまでボク個人の印象ですけど。 AF
犬を飼うには準備が必要だ。もう中学生ではないのだから、しっかり勉強しよう。最初にそう決めた。 昔と違ってインターネットという便利な道具がある。本を大人買いする経済力も幸いある。行動分析学の知識もあるし、山本先生という心強い味方も得た。 Amazonで買った本を何冊も読んでいくうちに、30年で犬の飼い方が大きく変わっていたことがわかった。番犬ではなく愛玩犬として屋内で飼う家庭が増えたことで、犬を家族の一員とみなす人が多くなったようだ。食事は「ごはん」ではなく「フード」、「