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第三話 楽園


 スポットライトが消えて、暗闇に戻る、黒より黒い場所。
 伊吹は瞼を閉じた。
 すると、音と風が流れ始め、伊吹はそれを感じた。
 
 鼻で息を吸うと、花の甘い香りを、
肌に触れる優しい風には温もりを、伊吹はそれぞれ感じた。
 ゆっくりと瞼を開く伊吹。

 目に映る光景に、伊吹も流石に動揺をした。
 
 綺麗な景色全てを並べた様な光景。

 色とりどりの花木、
透き通る程に綺麗な水が流れる小川、
果てしなく続く緑の草原、
空にはエメラルドブルーとオレンジが不鮮明な境界線を隔てて広がる。
 そして、鮮やかな青さに、白い雲間すらくっきりと見える程に近い惑星が、空をまた彩る。
 
 「これが、楽園、ユートピア。」伊吹は、
言葉に出さずにはいられなかった。
 
 流石に見惚れ、立ち尽くしてしまう伊吹。
 伊吹の目は、潤みを増して、涙を垂らすまで、景色達を見つめていた。
 
 どこからか聞こえる、笑い声達。

 誰かいる、そう思って、伊吹は声達の方へ向かった。
 木々の合間から、少しずつ見え始める人々の姿。
 伊吹の歩く速度も徐々に早くなり、人々の方へとやがて駆け出した。

 開ける視野。そこには、先程の景色達に加え、
歌を歌い合う人々、踊りを踊り合う人々、
誰かの話を熱心に聞いている人々、話をして笑い合う人々、
それらの老若男女、沢山の人々が居た。
  
 人々を見つめる伊吹に、
近くにいた人が声をかけた。
 
 「やあ、いらっしゃい!ようこそ、楽園へ。」
 その声に気づいた人々から、伊吹への挨拶のリレーが始まった。
 緩やかに、人々に囲まれる伊吹戸。惑いながら、伊吹も挨拶の対応をした。
 
 しばらくそんな事を続けていると、人々の中から一人の少女が割って入ってきた。
 
 「今日はこの辺で終わりにしよう!全員相手にしてたら疲れちゃうよ。」
 その少女は皆を見渡しながら、そう言った。
 そして、伊吹の方を向き、伊吹に手を差し出して言った。

 「私は煌(キラ)、宜しくね。」

煌(キラ)


 蒼く澄んだ瞳に、ロングの赤い髪、その相対的な色合いが蒼赤共に際立たせる。
 良く通る声に、人々を惹きつける何らかの雰囲気を纏う少女、煌。
 伊吹は、その強い印象に、少し苦手さを覚えながら、握手した。
 「俺は、伊吹、宜しく。」




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