若者支援、メタバースがもたらす選択肢の拡張とは
メタバース導入の難しさ
ここ数年で「メタバース」という言葉は随分と広がりを見せました。実際、メタバースという言葉が使われる際に示されるものはそれぞれだと思いますが、若者支援の文脈では不登校支援やひきこもり支援など、物理的な場に出ていくこと、そこで時間を過ごすことにストレスを感じやすい若者や子どもたちのための空間という利用が多いように感じます。成果や効果もこれから見えてくる段階ではありますが、支援者であれば、一定の若者にとっては有用ではないかと感じていると思います。
育て上げネットでも、メタバース導入を検討していましたが、「これだ」というところまで行かないまま数年が経ちました。若者支援という文脈においての導入はいくつかの難しさがありました。
一つ目は、同時性です。メタバース上の空間に参加してきたとき、誰も利用者がいないとなると不安になります。それを解消するには職員が常時張り付くか、特定の時間に制限をするかなど、メタバース上で孤立しない、寂しい思いをさせない必要があります。コスト面もありますが、同じ時間、サイバー空間にひとがいない(過疎る)と、若者自身が「このような悩みを持つのは自分だけだろうか」と感じてしまう可能性がありました。
二つ目は、意外と疲れるということです。当初は3Dを試してみたのですが、仮想的な自分(キャラクター)を、いろいろ動かしたりはできるのですが、動かし続けたり、発言をタイプしたり、何かしらのアクションボタンを押したりと、結構疲れます。何かそこに目的性や、自分が動かなくても見ていられるといいのですが、それであればメタバースである必要性が失われます。
三つ目は、目的性です。メタバースは手段であることは納得できますが、能動性を過度に求めない(見たり、聞いたりしていればよい)ためには、それを実現できるアクションが誰か(例えば、運営側)に必要になります。利用者がストレスなくメタバース上で過ごすためには、そのためのコンテンツを提供しなければならず、それ自体が目的性を持ちやすく、また、メタバースでなければならない理由も意外と少ないです。
選択肢を拡張することは有用(かもしれない)
その一方で、育て上げネットではいくつかのプラットフォームを検討して「MetaLife(メタライフ)」を選択しました。プラットフォームごとに特徴はあっても、私たちが若者支援で利用するにはそれほど大きな差がないため、最終的には絵柄(雰囲気)で選んでいます。
今回、私たちは「メタ広場」というタイトルでメタバース空間を立ち上げました。
最初の試みとして、動画編集やWEB制作、プログラミングの知識やスキル習得のためのプログラムである「ステップキャンプ」と「メタ広場」をリンクさせてきます。メタバース導入に対して立てた期待仮説は選択肢の拡張です。
ステップキャンプは完全オンライン型のスキル習得プログラムですが、知識やスキルの習得や、ワークサンプルと呼ばれる疑似的な職場を形成して、実際に近い業務をチームでこなしていくことで業務経験の獲得や、働く自信の醸成につなげます。知識やスキルの習得には、個別学習の機会や時間、チームで仕事をするには、全体または特定のメンバーとのコミュニケーション、わからないことを聴くため「質問をする」ことなどが求められます。
これまではMicrosoft Teams / zoomを使い個別面談をしたり、チャットを活用していましたが、それらを不得手とする若者たちがいました。例えば、同じ物理的な空間で仕事をしていれば、ちょっと時間がありそうな同僚に声をかけたり、すれ違うときにコミュニケーションを取れたりします。雑談などもそれに含まれます。また、図書館や塾の自習室のように、周囲も勉強している環境によって、自分も勉強に集中しやすいひともいます。
物理的な空間なら実現しやすいことと、チャットやオンライン会議でやりやすいことの間に、「なんとなく仲間が身近に感じられる」空間という選択肢によって、活動しやすくなる若者がいるのではないかと考え、そこにメタバースを導入してみたということです。もちろん、メタバース空間が苦手なひとは、「使わない」という選択肢も準備されています。
試験的運用をスタッフや若者とともにやってみても、比較的よさそうな声がありました。
利用してみてくれた若者の声
「スタッフの動きが見えるので、Teamsよりも話しかけやすかった」(距離を近く感じる)
「集中して作業したいときは席を選んで移動することができて安心して作業ができた」
「個別で話したいと思った時も個室を用意してくれたのでスムーズに通話することができた」(MTGルームに移動)
「スタッフがうろうろと広場を動き回っているのを見て、クスっと笑ってしまった」
「時間になってたら集合する様子が見えて一体感を感じる」
「作業がやりやすかった。周りの人もやってるんだなと思うと集中できる気がした。」(自習室利用)
「なんとなくみんなそこにいる感が良い」
「自習はTeamsだとすぐにチャットで済ませてしまうけど、メタライフのほうが質問の練習になりそう」
「焚火のBGMがよかった、リラックスできた」(音楽を流しながら夕礼をしていた)
若者たちの声でもポジティブなものがあり、ネガティブな体験があれば利用しない選択肢があり、これまでプログラム参加で何かストレスや、がんばりづらさがあった若者にとって、新しい選択肢(選択肢の拡張)につながるのではないかと期待しています。
支援者の関心は意外と高い
メタ広場を公開して以降、詳しい話を聞きたいということや、実際にどのように運営するのかというご質問をいただいています。また、運用費用はどのくらいかかるのか、担当する職員のスキルや知識はどの程度必要なのか。どれもメタバース導入には関心があるが、実際にやってみるために検討が必要な項目が見えてないということのようです。
その意味で、支援者の関心が意外にも高そうです。他のご質問としては、行政の担当者からメタバースの導入を示唆されたものの、行政も自分たちもメタバースに触れたことがないため、宙に浮いてしまっているという話も聞きました。育て上げネットでは、あくまでも何かのプログラムにおける選択肢の拡張ということからのチャレンジとなりますが、物理的な空間への参加と、これまでのオンラインでの機会とはまた異なったメタバースという世界観に身を置いてみたいという若い方がいらっしゃれば、ぜひ、ステップキャンプに参加してみてください。説明会の動画も公開しております。参加の前のご相談も承っています。
ステップキャンプ第8期の参加者を募集しています
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ステップキャンプのサイトはこちらになります。
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工藤 啓
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