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こども相手は鍛えられる

NHKのラジオ番組に「こども科学電話相談」という番組がある。

子供の素朴な質問に専門家の先生が、その場で答えてあげる。これがさ、すっごくタフなコミュニケーションなの。ホント、先生方、すごいよ。

生放送なのかな? 番組進行の方が質問者の子供に「●●時●●分まで待っててくださいね-」と時々待たせる場面も。ニュースの時間を挟むこともあるけど、時々音楽を流してる。裏で作戦会議してたりしてね。

この番組を聞くと、先生への同情と、自己反省モードに陥るのよ。

先日の質問が「オーブンでプリンを作っていたら、卵液がくるくる回っていたけど、それはどうして?」ってものでね、先生が質問者に状況を詳しく訊いていたんだけど、その時点で大変。(リンク先の39'40"以降)

「どう、くるくる回っていたの?」

「普通にくるくる回っていた!」

「くるくるって…、
 私たちが普通、液体をかき混ぜるようにまわってました?」

「ん~ん…」

「あの、容器に沿って上から見てぐるぐるじゃなくて…」

「ん~ん…」

「じゃ、じゃぁ、上から見てぐるぐる回ってた?」

「回ってた!」

「ん~ん…」
「それはゆっくり回っていたんですか?」

「ちょっと…ゆっくりどころか…少し…早くまわってた」

「少し早くまわってた…なかなか難しいですね」

先生は「対流」が発生していると想定して質問していたんだけど、質問者の情報では現象が想像しきれない。映像もないから身振り手振りで補完することもできず、最後まで現象がはっきりしない。そして違う角度で質問。

「熱って聞いたことありますよね?」

「ん~ん」

「え…ね、熱…き、聞いたことあります?」

「ちょっと…聞いたことあるか…無いか…わかりません」

もう、大変。くるくる回る原理以前に、熱の説明が必要になった。先生は困って、熱の説明ではなく、熱の伝わり方を説明し始めた。伝導と対流と放射。きっと先生は、熱の伝わり方を伝えたら、何が「熱」かわかるかと期待したのだろうね。ここからどう展開するか、耳を澄ませて聴いてみた。

「熱って、伝わり方が3つあるんですよ。…
 例えば…フライパンを火にかけますよね」

「はーい」

「そうすると、
 フライパンの火にあたってないところも熱くなりますよね?」

「ん~ん、それはちょっと聞いたことないです」

がくーん。そう来たか!

もちろんね、子供が大人に意地悪してるわけではなくて、素直に聞いているし、素直に答えているんだと思うだけど、これは、この状況は大変すぎる!子供に伝わらない答えをして科学への関心を削ぐわけには絶対行かないし、適当なことを話して取り繕うわけにもいかない。子供はわかるから。だけど番組時間の制限も在るし、次の質問者も待っている。まさに窮地!子供には気づかれなかっただろうけど、きっと先生も進行役も脳内フル回転で疲れたことでしょう。教育ってホント大変な仕事。教職の皆様を尊敬します。

教育、Educationは引き出すって意味がある、と聞いたことがある。引き出すものには意欲はもちろんだけど、既知の情報もあって、それと知りたい意欲を統合させることも含まれると理解している。経験とか知識がある程度あると、統合に相応しい情報を持ち合わせているから、比喩を使ったりして、理解を促すことは簡単。問題は経験が未熟な時、ね。

わかってもらうためには、わかっている人が腐心する。情報を口に入れやすいように細かく切り刻む、それでも飲み込めないなら、もっと細かく切り刻む。それでもダメなら離乳食さながらスープ状にしたり、お湯もなければ噛み砕いて口移し(いや、そこまでしませんけど)。

幼少時に負った傷は大人になっても残る。大人に幻滅すると、年上の話を効かなくなる、誰かさんみたいに(笑)。だから子供には優しく優しく接して”あげる”。そして”もらって”当たり前の子供は容赦なく求め続ける。
「なんで?なんで?」って。

子供相手は忍耐力が試される。精神を鍛えられる。たまには良いかも。

仕事の場面、成人した大人同士、だけど話が通じない。
そういう時、こども科学電話相談を思い出す。

自分はどっちだ?
答えてあげる大人なのか?
教えてもらう子供なのか?

正直、異業種に飛び込んで間もない頃の俺は、子供だったかもしれない。
わかってないくせに、わかった気になって、あれこれ物を申していた。
失礼だったと今ならわかる。

最近、仕事の場で、かつての俺のような人と対峙することが多い。相手がわかるように分かりやすく伝えようとしているつもりだが、平行線が続くことも頻繁にある。子どもは経験無いから知らなくて当たり前。大人でも培った知識と経験が異なるから、それでも知らなくて当たり前。

だから知っている側は相手が分かるように伝えて”あげる”。でもそれも子供相手ほど頑張れない。教えて”もらって”当たり前な態度にはがっかりする。大人?って。知らなかったことに反省して、教えてもらうことは確実に吸収するくらいの気迫くらいほしいところ。教えてもらったことを身につけることが相手に対する礼儀。大人はそうだと思う。

教えて”もらって”当たり前、知らなくて何が悪い?
それは…子どもたちに見せられない態度、だと思うよ。


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