(メモ)課税すべきは利益剰余金か金融資産か?

社会民主党や日本共産党は、経済政策において、企業の「内部留保」への課税を表明している。この「内部留保」という言葉は、会計用語として正確ではなく、損益計算書においては、配当支払い後の純利益を指す場合もあるし、貸借対照表において、利益剰余金を指す場合もあるようだ。両党はこの後者の利益剰余金を課税対象と考えているようである。企業がこれまでに溜め込んだ利益に対して課税しようという趣旨であると理解している。

なぜ課税対象として利益剰余金なのだろうか?利益剰余金は企業創設以来の配当支払い後の純利益の蓄積であるが、実体のある資産ではなく、貸借対照表上の貸方の項目であり企業の純資産(株主資本)の一部分である。これまで、法人減税が行われた結果、大きくなったと看做すことも可能だが、2つの問題点でスジのよくない政策であると考えている。まず第1点は、利益剰余金への課税を減らすために企業は比較的簡単な財務上の対抗策ができることである。無償増資を行なって既存株主に対して株式を交付すれば利益剰余金を崩して資本金に組み入れることができる。例えば資本金1000億円、利益剰余金1000億円の企業が1株に対し1株の無償増資を行うと、利益剰余金はゼロとなり資本金が2000億円になる。(ただし、登記が必要になるので7億円の費用がかかる。)利益剰余金にかけようとする税率が高ければ企業は無償増資による課税回避にはしるのではないだろうか?第2点は、前記のような課税回避の財務行動を取らない場合、現金配当を増やすことで利益剰余金を増やさないようになる。企業によっては企業は設備投資を抑制するかもしれない。企業に配当を増やさせようという意図を持った政策であるのならいいが、そうではなかろう。

では本来の企業がお金を溜め込んでいることに対して課税しようという目的であれば、企業の貸借対照表上の資産の部の金融資産の一部を対象とすべきである。具体的には現預金、有価証券、投資有価証券の合計額またはこの合計額から負債の一定割合を控除(金融機関に限ってもよい)するのが適切であると思われる。企業が課税対象額を減らそうと考えれば、配当を増やすか、設備投資を増やすかという選択となるが、単純な財務操作で行うことはできない。同水準の利益準備金があっても金融資産は溜め込まずに積極的に設備投資している企業には課税が小さく、設備投資はやらずに金融資産ばかり増加させている企業への課税は大きくなる。この方が社会民主党や日本共産党が意図した目的にかなう税制となるのではないだろうか。

(2021年10月13日記)

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