格安航空会社からテック企業へと進化する|AirAsia本社でCEOに会ってきた
世界各地にある魅力的な企業や仕事を、現地での取材に基づいて紹介する「明日の仕事|ソーシャル&ビジネス」の第2回は、1993年にマレーシアで創業し、現在はさまざまなグループ会社を抱える世界屈指の格安航空会社(LCC)のAirAsiaです。
2023年8月にクアラルンプール国際空港に隣接する同社のRedQ(ヘッドオフィス)を訪問し、日本を管轄するAirAsiaXのCEOと面会するとともに、格安航空会社からツーリズムの総合テック企業へと進化を続ける同社の取り組みを学んできました。
本記事では、潰れかけの航空会社の買収からはじまり、ツーリズムの総合テック企業へと進化し続ける同社の成長プロセスを、最新の取り組みとともに紹介します。
1. 32円で買収された瀕死の航空会社
いまや世界屈指の格安航空会社(LCC)として知られ、世界63都市に就航しているAirAsiaですが、そのはじまりは順風満帆ではありませんでした。
AirAsiaはマレーシアの政府系企業によりフルサービスの航空会社として1993年に設立され、1996年に運行を開始しました。しかし経営不振に苦しみ、一時は4,000万リンギット(13億円)の負債を抱える潰れかけの会社でした。
そこに目をつけたトニー・フェルナンデスとカマルーディン・メラヌン(共同設立者の二人)が、2001年に2機の航空機と200人のスタッフを抱えるAirAsiaを1リンギット(32円)という破格で買収し、経営の立て直しに乗り出します。
わずか2年後の2003年には黒字化を達成し、現在はマレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンをはじめ世界63都市に200機以上の航空機と2万人以上のスタッフを擁する、アジアで第4位の航空会社に成長しました。
2. LCCからツーリズムの総合テック企業へ
格安航空会社としてビジネスを軌道に乗せたAirAsiaは、ワンストップのトラベル・プラットフォームへと事業展開を加速させます。
世界の700社以上の航空会社のフライトや90万軒以上のホテルを提供するOTA(Online Travel Agent)プラットフォームである「Airasia Superapp」を主軸に、UberやGrabのような自動車配車サービスを提供する「AirAsia Ride」や、UberEatsやfoodpandaのようなフードデリバリーサービスを提供する「AirAsia Food」、その他にも免税のオンラインショッピング、保険、バスやフェリーなどの代替交通機関に至るまで、消費者にエンドツーエンドの旅行予約体験を提供しています。
AirAsiaは旅行関連サービスを提供するベンチャーに次々と出資してグループ会社化し、楽天のようなエコシステムを形成しています。また楽天ポイントのように、利用者が各サービスの購買を通してAirAsia Pointを獲得して利用できる強固なロイヤリティプログラムを展開しています。
データとテクノロジーを駆使した「Airasia Superapp」は、5,100万人のユーザーと4,000万ダウンロードのデジタルエコシステムを活用し、パーソナライズされたシームレスな顧客体験を提供しています。
AirAsiaのRedQを訪問すると、エンジニアの数の多さに気がつきます。
世界各国からエンジニアを多数雇用し、すべての関連サービスをインハウスで制作することで、スタートアップの商品開発プロセスのようにスピーディーな開発と実装を実現していました。
グループ会社のなかには、ソーシャルビジネスも存在しています。
例えば、飛行機の救命胴衣は10年ごとに定期交換が必要ですが、交換時に出てくる廃棄品をアップサイクルして、オリジナルの雑貨を企画販売する会社もあります。
3. スタートアップ精神を忘れないRedQ
世界各国でさまざまなビジネスを展開するAirAsiaの新しいヘッドオフィスとして2016年にオープンしたRedQには、オフィスワーカーのほかにパイロットや客室乗務員も含めて約3千人の従業員が働いています。
部署ごとにエリア分けされたフリーアドレスのオフィス空間は、まるで米国シリコンバレーのスタートアップのような活気が溢れています。
例えば、会議室はAirAsiaの就航地の文化やデザインを取り入れ、部屋ごとにインテリアが異なります。また大きな吹き抜け空間では、毎月さまざまな社内イベントが開催されています。筆者の訪問時には、既述のグループ会社による商品サービスの展示即売会が行われていました。
写真の右側に見えるのは、オフィスの4階からつながるすべり台です。
AirAsiaでは新しい役員が就任すると社員へのお披露目を兼ねて、役員がすべり台で登場して挨拶するのが恒例行事。僕も滑らせてもらいましたが、結構な高さとスピードが出て面白かったです。
また24時間営業のカフェテリアでは食事が無料で提供され、オフィスワーカーだけではなくパイロットや客室乗務員も入り混じり、オープンな対話と交流があちこちで見受けられました。各社のCEOもオフィス内を歩き回り、従業員とのフラットな対話から、既存事業の改善や新規事業の開発を進める企業文化が定着していました。
筆者が代表を務めるコレクティブ「フーズフーズ」では、食に特化して日本企業が進むべき未来を示すガイドブックを毎年刊行しています。
2023年のガイドブック「whose foods magazine 2023|Explore the Future of Food」は、2022年の秋に国を越えた移動と観光が再開している世界6カ国12都市を48日間かけて調査したフィールドワークに基づき作成しました。
第一部では最新の食トレンドと消費者インサイトを、第二部では日本の食産業が世界に通用する食体験を届けるためのステップを、国内外の優良事例とあわせて紹介しています。詳しくは下記をご覧ください。
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