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青木とスクールドッグの物語②

 2017年、私の勤務する中学校に一匹のラブラドールレトリーバーがやってきた。盲導犬候補生からのキャリアチェンジ犬だ。まだまだ遊びたい盛りの1歳の女の子。名前はパピーウォーカーさんに「スー」と命名されていた。キャンディーズのメンバー「スーちゃん」こと田中好子さんのように、みんなから愛される存在になって欲しいとの思いが込められていた。その願い通り、スーはみんなから愛される「スクールドッグ」として活躍することとなった。

 スーの活動する場所は、学内にあるサポートルーム(学校に行きにくい生徒やクラスに入りにくい生徒が集う空間)だ。そこに来る生徒の中に雄太(仮名)がいた。雄太は友人とも楽しく過ごすことができる生徒だったが、朝が苦手で登校直前に行き渋るといった不登校傾向があった。

学校へ行くモチベーション 

 お昼前、気だるそうに登校する雄太に、スーは一生懸命シッポを振ってお出迎えした。雄太にとって、自分を心待ちにしてくれている存在ができた。うれしかった。スーは大事な親友となったのだ。辛い時にはそばに寄り添い、チャレンジする時には元気よく送り出してくれる。時には大切な話し相手にもなってくれた。そんな彼も無事に中学校を卒業し、今では高校の演劇部部長を勤め、なんと全国大会出場まで果たしたのだった。

心が求めるもの

  また、友人とトラブルになりサポートルームに飛び込んできた愛美(仮名)も、スーに救われた1人だった。周りの生徒に合わせ、自分らしさを押し殺しながら過ごしていた愛美にとって、学校という場はとても息苦しい空間だった。先生にも友人にも相談できない彼女にスーはピタリと寄り添った。後に「愛美にはスーが『ここでゆっくりしたらいいんだよ』と言ってくれているようだった」と話してくれた。彼女も中学校を卒業し、自分の将来の夢に向かって高校生活を謳歌している。

 愛美はこんなことも私に話してくれた。「先生や大人は、しんどい私にアドバイスや解決方法など色々言ってくれた。でも私はただ居場所が欲しかっただけ。スーが何も言わずに寄り添ってくれたことが本当にうれしかった……」

 この彼女からの告白に、私は後ろめたさを感じながらも、隣にいるスーに目をやった。しかし、スーは何も言わずに優しい眼差しで私の顔を見つめるだけだった。

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https://www.social-animal-bond.jp/

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