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わらしべ長者物語〜いつかはフェラーリ〜 その2【東京タワーの下で】

 東京タワーが好きだ。

 初めて行ったのは家族旅行で行った小学生の頃だと思う。三丁目の夕日的な戦後日本の当時の生活に、テレビの電波を届けるべく作られたという背景を知らなくとも、エッフェル塔に倣って作られた朱い鉄骨トラスの外観と、333mという圧倒的な高さに幼い子供の頃の自分はイチコロだった。

 昨年(2019)の12月。浜松町駅を降り、背広姿の人混みをかき分けて増上寺へ向かう。冬枯れ始めた木立には似合うものの、あきらかに周囲のOLやサラリーマンからは浮いているアウトドアスタイルの僕は、冷たい風の中、暖かい陽射しの差す東京タワーを頭上に眺めながらのんびりと歩いていた。
 学生時代の友人がこの近辺に勤めていて、久しぶりに会って飯でも食べよう、という約束の時間にはまだ随分とあった。
 東京タワーの麓を通り過ぎ、飯倉の交差点でどちらに行くか迷っていると、マリオカートに乗った外国人達が爆音とともに通り過ぎる。色々とヒンシュクも買っているのだとしても、こんなに愉快なことはない。憧れのテレビゲームの画面そのままに、旅先のトーキョーの街を走り回れるのだ。
 ルイージの服に包まれた大柄なアングロサクソン女性が、子供のようにはしゃいでいる。僕はしばらくそれを眺めていた。そうしているだけでも楽しかった。が、食事出来そうなところを探しに国道1号桜田通りを右に折れ、キョロキョロしながらしばらく歩いた。

 東京の街の移ろいは速い。消費者としての立場なら、商品も店舗のデザインもいつ訪れても刺激的で飽きない。住まうにしても豊かさに包まれている。一方で、同じく商売人としての立場で見ると、厳しい競争の中でまた高額の地代に苦しみながら経営をして行く苦労に想いを馳せ、気持ちが疲れてくる。
 蕎麦宗みたいな《のんき》な店は伊豆は三島の田舎だから成り立つのであって、大都会のこの地にあったら木枯らしに吹き飛ばされて一瞬に木の葉のように舞い散るだろう。

 しばらく歩いたものの、これといって心奪われた飲食店も少なかったので、きびすを返してもといた交差点へと戻ることにした。確かインド料理屋があったな、カレーならばハズレないし今日はナンが食べたい気分。
 そうして件の交差点を通り越して、もう少し歩いたけれど見当たらない。畳んでしまったのだろうか?やはり東京は厳しい所なのだなぁと、カレー屋があったはずの店舗のショーウィンドウを見ると、そのガラスに薄っすらと何台もの高級外車が映っている。
 振り向くと国道1号の広い通りを挟んだそこには中古高級外車店があった。ちょうど歩行者信号のついた横断歩道があり、その前のビルの一階のガラス張りの小さなテナントの中に隙間なく超高級車達が並んでいる。
 メルチェデスベンツSLR・マクラーレンP1・ポルシェGT・ランボルギーニ・ガヤルド、そして一番右端にフェラーリ458イタリアと連なっている。どれもキラ星、スポーツカーの上にスーパーがつくクルマ達だ。
 きっと六本木界隈のセレブ達が買うのだろう。それもローンでなく現金一括で。同級生の一人が輸入代理店のコーンズに勤めていたが、ランボルギーニ・アヴェンタドールを買いに来たお客さんが

『うん、ちょっと衝動買い』

と言っていた話を聞いたことがある。
 3000万円を気まぐれで買う、すごい人達は世の中には沢山いるもので、まあ自分には縁のない世界だなと思いながらも、そのキラ星な車達を遠巻きに眺めていた。

 先に挙げたどのブランドのどのクルマも美しく、そして男心をくすぐる格好良さに溢れている。でも、やっぱりフェラーリは別格だな、あの何とも艶かしいスタイルにはどのクルマも敵わない。エロスと品格が同居した佇まいは、世界広しといえどイタリアにしか作れない。
 そう思ってクルマ達を眺めながら右端に停まる赤い458イタリアに視線を合わせたその瞬間、

ショーウィンドウのガラスを突き破って、蕎麦宗の暖簾と同じロイヤルブルーに塗られた458イタリアが、ファファンという爆音とともに僕の脳内に突っ込んで来た。
 機を同じくして歩行者信号は青に変わる。僕は衝動に駆り立てられるままに横断歩道を渡っていた。行くぞ。臆することはない。恥も外聞もない。見るのも聞くのも自由だ。 
 重々しいドアを開けて、《リベラーラ》というその中古高級外車店に入った。

『あのぅ、すいません。お尋ねしても良いですか』

ビシっとした仕立ての良さそうなスーツを着た営業マンに僕は話しかけた。見るからに場違いな小汚いアウトドアルックの僕に対して、ひるむこともなく顔色ひとつ変えずに、にこやかなまま応えてくれる。

『こんな格好のとおり実際買えるお金も全くないのですが、そのフェラーリ欲しい、と思いました。で、実際に幾らくらいして、どのくらい維持費が掛かるのか教えて貰えませんか?!』

 図々しくも勢いで思わず発したその質問にも丁寧に応えてくれた。10年落ちのこのクルマであれば販売価格の相場は1800万円くらい。そして維持費に関しては昔のフェラーリとは違いあまり故障もないので、100万円/年もあれば足りるという。 
 もちろん現実的ではない。どこにそんな金があるのか。でも、年間100万円という維持費は想像していたよりもはるかに安かった。普通の自動車であっても実は税金や保険料、ガソリン代などで随分と維持費が掛かっている。皆、計算したことがないから気がついていないだけ。そこは自営業者、経理は【四則演算しかないから自分でやっ】て(笑)いるので承知している。
 ひょっとしたら手に出来るのでは!もしかしたら、『飽きたから、あげる』なんていう、意味のわからない事を言ってくれるお客さんや友人も出てくるかもしれないではないか。
 そしたら維持費としての100万円だ、遊んでる金が月に10万円弱⁉︎…などと間抜けた事を考えながら、ぼくはすっかり、いつの日かフェラーリ458イタリアのオーナーになる夢を算段していた。

 …約束の時間になった。何軒でもありそうな浜松町駅の近辺の飲食店も、年末近いこの時期だからどの店も人でごった返し、入店さえ出来ない。ようやく空いてる席を見つけて入った餃子専門店で食事をしながら、興奮気味に今日あったその一連の話をすると友人は言ってくれた。

『昔からいつだって話したこと実現してるよね』

と。

 …東京タワーは昭和の子供達にとって夢を語りたくなる場所、あるいは夢そのものだったと思う。不惑をとうに過ぎた僕に、忘れかけていた憧れや心の奥底にしまっていた《夢を抱く》という感覚を呼び戻してくれたのは、きっとこの背高のっぽの朱いトラスに違いない。
 僕はやっぱり東京タワーが好きみたいだ。

 〜いつかはフェラーリ〜。僕のわらしべ長者物語はこうして始まったのです。

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   *読んで下さったあなたへ*
全てのことを自力で手に入れる、ということは立派なことである一方限界もあります。だからと言って簡単に諦めたくもありませんし、他者ひとの助けを借りる他力だって良いではないか!とも思います。
きっと長い長い時間をかけて実現するその時に向けて、自力で一歩づつ歩み、他力でもう一歩づつ進むために、このロードムービー【わらしべ長者物語その2】を有料記事として書きました。
 しかし、伝えたいのは内容で稼ぐ事ではない。いつか本になったときにそれでもいいと思うようになりました。
 だから、有料で読んで下さった方々は感謝しかありません。本当に嬉しく思います。ありがとう。あなたの購入やサポートがいつの日にか紺青あおいフェラーリになる日を一緒に楽しみにしていて下さいね。助手席載せますよ。蕎麦宗

#東京タワー #フェラーリ #夢を叶える  #夢を語る  #かなえたい夢


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