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アレックス・カー氏にみる「古来」「日本」「歴史性」の欺瞞を斬ってこその景観でしょ?

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アレックス・カー氏の考察に対してジョナサン・ジョースターが放つ波紋のように一点集中したい。彼は、現在(コロナ禍以前)の日本における(国内外からのゲストによる)観光(tourism)について苦言を呈する。カー氏の著作はいくつか拝読させて頂き、講演も拝聴させて頂いた。それを踏まえてボクがまず思ったのが、カー氏は、

①景観についての関心がやたらと高い。

②しかもその景観は彼がしばしば用いるところの「古来の日本」つまり彼が学んだのであろう「歴史的」景観が基盤となっている。

つまり彼が培ってきた専門性を踏まえれば、現代の日本を取り巻く、特に観光地の景観は、彼が信奉する「歴史的」な「景観」から外れているので「毒」されており、文化的な稚拙化現象を辿っているとなる。さらに、

③社寺などの参道を埋め尽くすゲストも「毒」である。

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その理由として挙げられているのが、参道や市場にはゲスト好みの店舗などが増加した結果「本来的」な場所性なるものが失われている、というものだ。ここで彼が指摘する「本来的」という概念が果たしてどの時空を指し示しているのかはわからない。個人的な見方としては「歴史的」という曖昧な用語の使用と共にエキゾチシズム、オリエンタリスト的な見方を幾分か内包しているように感じる。

彼が言う「本来的」には、彼自身の個人的見解に従った末に成立する「日本文化」は、学術的には「本質主義」(essentialism) と「真正性」(authenticity)と無関係ではない。

ここでひとつの基本的な問いかけをしてみよう。

「そもそも「文化」とは本質的なものなのか?」

もっと簡単に言えば、「文化」とは時代の経過や人々との交渉など様々な影響を受けても変容しない純然無垢な存在なのか?

僕の立場は違う。

「文化」(社会もまた)は絶えず時代的背景、他者、異文化との相互的な近接や折衝を繰り返した結果、変容し続けるものだ。これは食文化、服飾文化など、西へ向かうケバブの変遷とかわざわざ論じなくても、麺類は人類とか言わなくても、言い出せばキリがないほどすべての生活様式に通底する現実だ。

「未開人」相手に現代のブルーノ・タウトを目指しているつもりか?

実際、カー氏自身も徳島県で古民家をわざわざ修復してゲストハウスとして経営し、以下のように語っている。

「深い谷間から湧き上がる霧は、幻想的で、心が弾みます。日常から離れて煩悩から開放されます」

されねーよ。構築してるじゃねーか。創ってんじゃねーか。そこわかんねー奴が毒だよ。もちろんされる人もいるだろうけど、それと「本来的」な「文化」とか「歴史性」は無関係だから。ちなみに僕としては隣に赤提灯の焼き鳥屋と健全な吉原でもつくってくれたら行くかも。大炎上だろうけど51点、それが正解だよ。

ちなみに現代観光におけるひとつの真実とは、実際に情報収集した後にその場所に足を運んでみると、

「うーん、あはは、思っていたイメージとちょっと違うな~」

ってのが情報化社会における観光形態の事実であり「まなざし」ですよ。その言葉が喉の奥まで出かけつつ、それでもホスト/ゲスト間で共犯関係的に幻想を構築していく人たちはエライと思うね。これは観光が社会的・文化的営為であると共に高度消費社会における経済的要素が大きいことを意味している。

カー氏の言う「満足感」さえもが創り上げられる虚構性。自己を納得させようとするゲストの努力。そこに酒、薬、料理、あるいは巡礼にみられるような社会的立場などを吹っ飛ばした水平的な人間関係があれば申し分ない。

修復 ≒ (再)構築の違いをご教示願いたい。そのノスタルジックな古民家など俺の(いきなりボクから俺に変わるが)、絶えず変化する時代の中でも「これが良い!」と施主も施工者も含めた多くの人々が考えた俺の実家こそが文化だ。それを貶すカー氏がチープ極まりないじゃねーか。

「文化」が変容するものである以上(難しく言えば構築主義に基づく以上)、安易に「日本古来」とか「歴史的」を前景化して説教するのはこれぐらいにしてくれ。少なくとも、毒にも薬にもなる話を毒化一辺倒化する権利はカー氏にはない。

しかも最後に地域住民に大風呂敷を投げるところが勇ましく心強い(笑)。

・・・・・・・。

大丈夫、それが文化的にというよりも経済的な恩恵が大きい場合、資金力のある人ならカー氏の言うとおり「日本古来」の「歴史的」な「真正性」など無関係に、せめて外観だけでも修景するから。それがグローバル・フォースとしての「中間層」の増加による「観光」ですよ。

ただし、その理論でいくと、いずれは今は滅失しかけの陳列でさえも、ポスト・アレックス・カー氏が西洋主義的な視点から評価する時代がくるというのが正当な見方になるってことだ。

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