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耳栓が刺さっているかと思ったら突発性難聴だった話

左耳が聞こえない

土曜の朝、目覚めたら、左耳がツンとしていた。

気圧がおかしくなった時のように、耳の奥に圧迫感を感じた。つばを飲み込むが、一向に良くならない。

どうやら右耳はおかしくない。左耳に何かが詰まっているのだろうと感じた。とりあえず、耳を引っ張ってみたり、耳かきをしてみたりした。だが、良くなる気配がないので、ちょっと置いておくことにした。中耳炎や内耳炎なら、あまり触るのは良くないと思ったからだ。朝早く仕事に出かけた夫に、「耳垢が詰まってるかもしれないから帰ってきたら見てほしい」と(今から思えばのんびりした内容の)LINEを送った。

小さい頃はずっと中耳炎と副鼻腔炎に悩まされた。もともと耳鼻科系の疾患が多い子だった。音にも弱くて、いまだにゲームやテレビの電子音がめちゃくちゃ苦手だ。我が家の子どもたちがリビングでピコピコ遊んでいるのも相当苦痛である。BGMも好きではないので、一人でいるときはできるだけ無音に過ごしてきた。

新型コロナの影響で、家に1人でいられる時間が極端に減り、確かに耳のストレスは増大していた。リビングにいるのがつらいとはいえ、キッチンもリビングの近くにあるため、どうしても音のある部屋で過ごす時間が増してしまう。

それでもなんとかやってきたが、この朝は違った。圧迫感のせいか、耳栓を刺しているように音が小さく聞こえるのだ。気のせいかも?と思い、午前中は子どもを習い事に連れて行ったが、帰ってきてやはり「聞こえていない」ことに気づいた。

なんじゃこれは。

突発性難聴って?

聞こえていないことに気づいてFacebookでつぶやくと、先輩が「突発性難聴では?」と書き込んでくれた。あれか、あの芸能人のみなさまが休養を取るあれか。あれなのか。

急いで症状を調べてみると、

突発性難聴について(厚生労働省HPより)

突発性難聴は、突然、左右の耳の一方(ごくまれに両方)の聞こえが悪くなる疾患です。音をうまく感じ取れない難聴(感音難聴)のうち原因がはっきりしないものの総称で、幅広い年代に起こりますが、特に働き盛りの40~60歳代に多くみられます。
前日は問題なかったにもかかわらず、朝起きてテレビをつけたら音が聞こえにくい、あるいは電話の音が急に聞こえなくなるなど、前触れなく突然に起こることがあります。
聞こえにくさは人によって異なり、まったく聞こえなくなる人もいれば、高音だけが聞こえなくなる人もいます。後者では、日常会話に必要な音は聞こえているため、難聴に気づくのが遅れてしまいがちです。
聴力が改善したり、悪化したりを繰り返すといった症状の波はありません。
また、難聴の発生と前後して、耳閉感(耳が詰まった感じ)や耳鳴り、めまい、吐き気などを伴うケースも多く、耳鳴りで受診したら突発性難聴だったという人もいます。難聴やめまいが起こるのは1度だけで、メニエール病のように繰り返すことはありません。
突発性難聴は、以上のような症状を問診で確認したり、さまざまな聴力検査や画像診断を行って診断されます。発症後すぐ治療を受けないと、難聴や頑固な耳鳴りが残ったり、聴力を失うこともあるため、早めの受診と治療開始が大切です。

ひええ、めっちゃ当てはまる。しかも、早めの受診が大切!?急がねば!

そのころ、時間は12時ちょうどだった。

さっそく近所の耳鼻科の受付時間を調べてみると、土曜の午後は診療をやっていない。仕方がないので、午後に空いている病院を急いで調べると、何とか夕方に予約枠が取れた。不幸中の幸い。

予約までの時間に、右耳をふさいでどの程度聞こえているのかを試してみる。全体の半分くらいの音量しか聞こえていない気がした。ただ、右耳が聞こえるので不便はない。たまにツーンという、耳鳴りと言うかノイズのような音が聞こえるが、これは以前からあったようにも思う。予兆だったのか?

鼓膜は正常、しかし……

16時にようやく受診。医師に症状を話し、耳の中を確認したうえで検査室へ移った。

まずは聴力検査。音が聞こえている間はボタンを押してね、と言われてその通りにやってみる。初めは正常な右耳側、そのあと左耳側から音が流れる。

右耳が終わり、左耳になってすぐに分かった。きっと同じ長さで音が出ているはずなのだが、明らかに聞こえている時間が短い。小さい音が聞こえていないのか、一部の音が聞こえていないのか、いずれかだろうと思った。

検査が終わり、看護士がすぐに「左耳が聞こえにくいのですかね?」と聞いた。結果に出ているのだろう。次に、鼓膜の検査をした。これは、左右ほぼ同じ結果が出た。

検査を終え、結果を見て医師が診断。

「鼓膜には問題がないですが、左耳の中高音の聞こえが悪いようです。聞こえてないところは、60デシベルくらい。これは突発性難聴と言えるでしょう。ステロイドで治療していきます。ただ、高音を感じる細胞は繊細なので、心配なら入院したほうがいい。安静にしなくてはいけません。大きい病院を紹介することもできます。どうしますか?」

おお、入院。考えても見なかった。

どうしますか、と言われ、頭の中を今週の取材リストと子供たちの世話という日々のスケジュールが駆けていった。

「入院は……難しいです」と、仕方なく答えた。

医師はうなずき、「では、ステロイド薬とビタミン剤などをお出しします。3日後は来られますか?必ず来てください。薬を飲んで様子を見てみますが、その状況に応じて大きな病院を紹介しますね」

……あれ、これ結構ヤバいんじゃないのか?

診療が終わり、ようやく自分が”かなり良くない状況”であることを悟る。全く聞こえないわけじゃないけれど、早めに治療しないとこの状況が固定されてしまうのだそうだ。一生左耳では一部の音が聞こえなくなるというわけだ。どの音が聞こえていないのかもわからないままに。

とりあえず、ベタメタゾン錠というステロイド剤と、メコバラメン錠、アデホスコーワ顆粒を3日分もらって帰る。

後から調べたら、突発性難聴は、音を感じ取って脳に伝える役割をしている有毛細胞が傷ついて壊れることから起こる「感音性」の異常なのだそうだ。鼓膜や中耳に問題が出る「伝音声」の異常と違い、回復が難しいという。

聞こえていないのは一部の音だった。耳栓をしているのではなく、聞く機能がなくなっていることを、脳は「耳栓」と認識するのだ、と学んだ。

(一部)聞こえない生活

これからどうなるんだろう。ずっと耳栓が入った感じが続くのだろうか。もしかしたら、全く聞こえなくなることもあるのかもしれない。

入院より育児や仕事を取ったことを一生後悔しないだろうか?

そんな思いもよぎったが、選んだものは仕方がない。3日後のこともわからないのに、先のことを考えても詮ない。

なお、厚生労働省のHPの文末には、このような説明書きがある。

発症後1週間以内に、それらによる適切な治療法を受けることで、約40%の人は完治し、50%の人にはなんらかの改善がみられます。ただし、治療開始が遅れれば遅れるほど治療効果が下がり、完治が難しくなってしまうので、注意が必要です。

治療しても治らないかもしれない。覚悟する。

家に帰ってみて思ったのだが、「安静に」と言われてもこれがなかなか難しい。聞こえないのに刺激はかんじるのか、やはり電子音がつらい。子どもたちにいくら音量を下げてくれと伝えても、テレビとゲームを取り上げたらさらに私に話しかけてくるに違いない。余計休まらない。

また、金属の食器のぶつかる高い音なども堪える。聞こえているというより、痛みに近い。

ふと、息子が集中するために買っていたイヤーマフがあることを思い出す。

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耳栓ほどの圧迫感なく、音を減らすことができるのでたまに借りることがあったのだ。
イヤーマフをつけると、聞こえないぶん、気持ちは楽になった。

一方、辛かったこともある。料理を作っていると、フライパンで野菜を炒めるジュージューという音がどうも小さく聞こえる。ハッとして右耳を閉じると、音は聞こえていなかった。
もう、野菜をいためている音は聞こえないんだろうか。とても悲しくなった。

さらにつらいことに、投薬中は禁酒である。ううううううう。

とりあえず、早く寝る。

◆ ◆ ◆

Facebookに突発性難聴だったことを書き込むと、本当に様々な知人友人からコメントをいただいた。中には、友人やご自身が突発性難聴になったことのある人もいて、「気づかずに放置していたら聞こえにくくなった」というメッセージもいただいた。そんなに身近な病気だとは全く思わなかった。

これから治るのか治らないのかさっぱりわからない。とはいえ、こんなに唐突に降ってきた災難も、書き残しておけば誰かのためになるかもしれない。

突発性難聴の治療期間は短期決戦だという。1カ月もすれば聴力は固定されてしまうからだ。
次の診察は3日後。さてどうなるか。




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