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テーマは「爆発と金欠」!?病気を仲間とともに研究する、べてるの家の「当事者研究」を見学しました

過酷な状況の中でよく生きてるよねー!
本当、がんばったね!

これは北海道浦河町にある、精神障害のある当事者の地域活動拠点「べてるの家」でのとある一コマです。

行われているのはべてるの家の“名物”ともいわれる「当事者研究」。統合失調症の症状のひとつある幻覚や幻聴、妄想などの自身の症状について、研究し、周囲と語り合い、対処法を探していくのです。

私たちの目の前で当事者研究の発表をしてくれたのは、幻聴や幻覚によって自分を見失い、人や物に感情をぶつけてしまう「爆発」をしてしまったというアベマサトさんです。車を壊そうと暴れたり、べてるの家のフェンスを壊したり、アベさんは「爆発」するとたくさんのものを破壊してしまうのだそうです。今回はアベさんの研究発表の様子から、べてるの家ならではの空気感をお伝えしたいと思います!

べてるの家の見学プログラムに参加!

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実はべてるの家はsoar代表の工藤瑞穂が、soarをつくるきっかけになった場所でもあります。soarを設立して3年目の今年、工藤の誕生日に取材費用を寄付してくださった方々のおかげで、ついにべてるの家の取材が実現!soar取材チームで年に1回行われる「べてるまつり」に参加することができました。

「べてるまつり」の翌々日には、べてるまつりで全国から浦河に訪れた人たちに向けた、べてるの家を見学するプログラムに一つとして、当事者研究の見学が行われました。

毎週月曜日の11時から、べてるの家のメンバーは当事者研究の発表をしています。この日も月曜日ということで、いつものようにべてるの家のメンバーが部屋に集まって来ました。

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べてるまつりの参加者とべてるメンバーとが集まり、部屋いっぱいに人が座っています。まずは全員で出席をとりました!名前と体調・気分を伝え合うのが、べてるの家での日課です。

体調・気分はふつうです。
体調はまつりの後なので疲れています。気分も良くないです…。

続いて私たち参加者も今の状況を伝え合います。

昨晩一緒に浦河に来た仲間と飲みすぎてしまったので、体調・気分は良くはないです(笑)。
体調は、実は腰痛があって、どうしても来たくてべてるまつりに来たんですけど、ちょっと疲れてきたかなってところです。でも見学が楽しみで気分は良いです。

一周してみると、体調気分が「良い」以外の人がいかに多いかに気づかされます。「悪い」わけでもないけれど、色々あるんだという“事情”を伝えてくれた人も多かったです。同じ場所にいて同じようにべてるの家を訪れても、それぞれ抱えているもの、考えていること、本当に様々でした。初対面でこんな風にさらけ出せてしまう空気を当たり前のように醸し出しているのが、べてるの家のすごいところ。

こうして私たち参加者もすっかり「べてる流」に片足を踏み入れたところで、当事者研究発表会がスタートです!


テーマは「爆発と金欠」

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ここで冒頭にも紹介をしたアベさんが登場!実はアベさんはべてるまつりのメインコンテンツ「幻覚&妄想大会」でサバイバル賞を受賞しました。受賞内容はこちら。

この16年間、オンラインゲームにはまって金欠に陥り、爆発を引き起こすたびにドアや壁を壊してしまったアベさん(べてるでは、いてもたってもいられず暴れてしまうことを爆発という)。やがて路上生活状態となり食べ物にも困る状況に。
生き延びるための研究を重ねた結果、深夜にのどが渇いただけで警察に110番を通報し、駆け付けたスタッフに「ジュースが飲みたい」と頼むスゴ技を実践されたそう!(笑)
他を寄せ付けないぶっちぎりの“サバイバルぶり”が、厳しい日本社会を生き抜く鏡として表彰です。

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(アベさんが爆発で壊した木の柵)

そう、アベさんのサバイバルっぷりはべてるメンバーの中でもピカイチなのです!でも、爆発してしまうときの心境ってどんなものでしょう?なぜ爆発を繰り返してしまうのか?

研究対象である「アベさん」を紐解いていこうと、スタッフのマコさんがファシリテーターに入り、まずは現状の整理からはじまりました。

アベさん:前に金欠すぎて5日くらい電気止まったんだよね。あの時はべてるで懐中電灯を借りてなんとか過ごしたりして。で、爆発もして。もうずっと、過酷な具合の悪さがある。

ぽつりぽつりと、アベさんがこれまでのことを話してくれます。具合の悪さからだんだんと自分の思うように動けなくなり、幻聴・幻覚も聞こえたり、「爆発」を起こしてしまうことが多いのだそうです。

わかるわかる。
ああ、そうだよね。

べてるメンバーや参加者たちもうなずきながらアベさんの話を聞きます。

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情報を整理していくうちに、引っ越しをしてからアベさんの調子が著しく悪くなったのではないかという話に。アベさんは以前は他のメンバーも住んでいるシェアハウスのような住居に住んでいましたが、老朽化が進んだことから引っ越しをして念願の一人暮らしをスタートしたのです。

アベさん:最初は一人暮らしになって嬉しかったんだけど…でも人とのつながりが薄めというか。友達との距離が遠くなった。

気づいたら洗濯機を壊してしまったり、自動車屋で高級車を試乗をして購入しようとしたり、自分でも制御が効かない行動に出てしまったのだと話します。

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マツバラさん:アベさんそれさ、私と一緒だよ。寂しいんだと思うんだ。

そう話すのはべてるメンバーのマツバラさん実はマツバラさんはつい先ほどまで宇宙人の幻覚が見えていて、部屋を行ったり来たりしながら大声で叫んで宇宙人を説得していました。今はすっかり落ち着いたようで、あっという間に切り替えて、アベさんに意見を伝えています。

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マコさん:じゃあ寂しいときにどうしたら良いだろう?
メンバーA:友達に会いにいくのはどうかな。
メンバーB:アベさんうちの猫のハナのこと好きだよね。ハナいるとニコニコ元気になるから。家に連れて遊びに行くね。

メンバーからの意見を聞いてアベさんからも、「爆発しないためにはどんなことができるのか」が語られました。

アベさん:たぶん、具合悪いとか、爆発しそうとかを自己申告すること。今なら言えるんだけど、幻聴に囚われてるときは、具合悪いとか言えなくて…。

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マコさん:みんなからどう思われているんだろうとかって不安になるよね。アベさんはモノを破壊しちゃうから、怖がっているメンバーもいるんだけど、本当はアベさんが悪い人なわけじゃない。アベさんはいい人なんだけど、アベさんのもってるこのテーマ、爆発とか金欠について悪く言われちゃうんだよね。でもどうしてもアベさんの評判が落ちてる気がして、おっかなくていられない…。
アベさん:爆発して誤解を生んでるところはあると思う。でも危険な人物じゃないんだけど…。ここしばらく、忘れてるだけで俺何かひどいことしてたんじゃないかなとか、思うこともあって。

力強く言い放たれた「悪いのはアベさんじゃない」というこの言葉は、“人と起こった事象を分ける”という、べてるで実践している考えのひとつ。

マコさん:アベさんは爆発したとき、周りにどうしてほしい?
アベさん:一斉に騒がれるとイライラに拍車がかかるから…わかんないけど、放置されてる方が治りやすいかな。「大丈夫?がんばってね」って。信頼している人だったら声かけられてもいいかな。
マコさん:ああ、そうだったんだ。スタッフもアベさんとの付き合いを練習してて。どう助けたらいいかなって考えてたんだけど、今の情報を私たちも取り入れたいと思います。

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ここで話を聞いていた参加者からも質問が。

参加者A:爆発して、こわしちゃったあとは、すっきりするもんなんですか?
アベさん:がっかりしますね。
参加者B:破壊するとき私だったら怪我するかなって怖い気持ちがあるけど、アベさんにはないですか?
アベさん:怪我はこっちの骨だけで5こヒビ入ったり。骨折もしていますから。

質問の回答を聞きながら、理解をさらに深めていった様子の参加者たち。最後にアベさんが今の思いを口にしました。

アベさん:べてるに来て15年くらいだけれど、この3ヶ月が1番調子が悪いんだよね。今が最悪の時期。これで最後にしたいです…

こんなに大勢の前で、初対面の私たちの前で、躊躇することなく弱さをさらけ出すアベさん。「モノを破壊する」行動だけを見ると怖さを感じたり、理解できない気持ちも少なからず持ってしまうこともあります。でも当事者研究を聞いた後には行動の理由がわかり、アベさんのことが、そして統合失調症の症状のことが、ぐっと身近に感じられるようになっていました。

マコさんによると、いつもこんな風にスムーズなわけではなく、アベさんの場合はこの日初めて、爆発の背景にある「さみしさ」の話までたどり着くことができたのだとか。

アベさんが自分を開いていく様子ももちろんですが、べてるメンバーが自由に発言をしながらも、お互いに思いやりをもった意見を伝える姿も印象的でした。

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「相変わらず悪い」と素直に伝えること

この話には続きがあります。取材が終わり東京に帰ってきて、すっかり日常に戻って生活を送っていたある日。べてるの家のスタッフと電話で話をしていたら、電話の先からなんとアベさんの声が聞こえてきたんです!どうやら何かあったらしく、イライラしていた様子のアベさん。電話を代わってもらい、少しだけお話させてもらいました。

松本:アベさん、以前当事者研究の発表聞いて本当に感動しました!あの時はありがとうございました。最近はどうですか?
アベさん:相変わらず悪いですよ…(笑)爆発もしちゃったし。いやあ、もうほんと…。

久々のアベさんの声に興奮気味の私とは裏腹に、アベさんは元気がありません。さらに「今目の前に綺麗な女の人がいる」と、まさに今見えている幻覚の話もしてくれました。

調子が悪いというアベさんを心配しつつも、「相変わらず悪い」と当たり前に素直な気持ちを伝えてくれる姿にホッとした気持ちになりました。

元気にしてなきゃ。
期待された振る舞いをしなければ。

人にどう思われるかが気になってしまうあまり、自分の気持ちを置き去りにしてしまうことがあるかもしれません。私も身に覚えがありますが、心から湧き上がる言葉を話していないときの自分は、どこか他人事のように言葉を発していました。するともちろん感情は伴わなくて、心はついていくことができません。さらに「本当の自分を理解してもらえない」という感情に繋がり、苦しい連鎖が生まれてしまうのです。

病気の症状だけでなく、自分の性格のこと、苦手なことなど、「弱さ」と捉えられるような、あまり人に触れられたくないことは、誰にでもあると思います。でもそれを一人で抱え込んでしまうあまり、すり減ってしまったり…その加減はなんとも難しいです。でもべてるの家には、「弱さ」でつながり合っている関係性がありました。

抱え込んだ弱さを、人に見せる勇気を持つこと。誰かの弱さを、当たり前に受け入れる姿勢を示すこと。べてるの家のメンバーからの学びを、まずは日常の中で実践していこうと思っています。

Written by 松本綾香/soar編集部
Photo by 田島寛久
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“困りごと”を周囲と一緒に研究し語り合う。べてるの家の「当事者研究」体験プログラムに参加してきました!

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