高校ラグビーは頭脳が9割

高校ラグビーは頭脳が9割

今回は本のレビューを書きます。これを書こうと思った理由は、今の自分の立場を俯瞰して考えた時に、自分の原点はどこになるんだろう。とふと思い出した本だからです。

スポーツライターの斎藤健仁さんが書かれた本書について、このnoteで書かせていただくことも快諾していただきました。
本当にありがとうございます。

【高校ラグビーは頭脳が9割】というこの本は高校ラグビーの原点にして頂点だと僕自身は感じます。
なぜ僕がそう思うのかは読んだいただければすぐにわかっていただけると思います。

なので興味のある方は実際に購入してみてください!!

少し探してみるとこのようなレビューメーターもあったので、のぞいてみると面白いと思います。


本書は、高校ラグビーの全国大会にあたる花園で輝かしい結果を残している全国の強豪校の監督へのインタビューを綴ったものとなっています。

〇京都成章高校(京都)の湯浅泰正監督
〇東福岡高校(福岡)の藤田雄一郎監督
〇桐蔭学園高校(神奈川)の藤原秀之監督
〇奈良県立御所実業高校(奈良)の竹田寛行監督
〇東海大学付属仰星高校(大阪)の湯浅大智監督

上記の5名に斉藤さんがインタビューをされているのですが、それぞれの監督がラグビーに魅了されたきっかけや、教員を目指した理由、強豪校にまでチームを成長させた話などが書かれています。
僕自身はこの本を読んで感じたことをまとめていきます。
一度読んでいただきたいのですが、本当に学びの多い1冊となっています。


〇京都成章高校(京都)の湯浅泰正監督

京都といえば今では京都成章の名前がでてくると思いますが、京都には伏見工業高校などの強豪がそろっていました。
その中で、いかに「打倒・伏見工業」を達成するのかを考えていたそうです。
伏見工業を倒し、全国大会に出場するも全国の壁に立ちふさがれました。

激戦区京都府を勝ち抜き全国でも強豪と評されるまでにはたくさんの壁を乗り越えてこられています。
そんな湯浅監督のコーチングスタイルは「教えすぎず、与えすぎず」です。

「ノウハウは昔よりもたまってきている感じですが、あまり教えすぎず、与えすぎず、が肝心です。すべてを与えていたら、子供たちは欲してこない。欲した時に、「もう少しこうしたらいい」と与える。何もないところに、昔みたいにたくさん与えても、子供たちの身になりません。やる気をくすぐっている感じです。

と、湯浅監督はおっしゃっています。
僕自身も、5月に母校の東海大学付属仰星高校に教育実習に行かせていただき、そこでは数学という学問を教えさせていただいたのですが、すべてを教えることの簡単さ、逆に生徒の興味、関心を引き出す難しさを痛感しました。
ラグビーにも同じことが言え、人の成長を考えるといきつく答えはこの「教えすぎず、与えすぎず」というスタイルになるような気がします。

全てが勝つためで、「勝て!勝て!」で余裕がなかった。今は勝つことはうれしいですが、子供たちが、やる気を出して自ら取り組んだり、自分でチームメイトが片付けをしているのを手伝ったり、そういったのを見るのがうれしいですね。プレーでなく、個々の子供が成長してくれるのが嬉しいし、僕もそういうふうに思えるようになれたのが嬉しいんです。

と過去の自分を振り返られています。
ラグビー面の成長ももちろん気にかけているとは思いますが、個人として、人間としての成長の話ばかりな気がします
この、人としての成長がラグビーのプレーの成長にもつながると知っていての発言だと感じます。


〇東福岡高校(福岡)の藤田雄一郎監督

東福岡といえば高校ラグビーの王者というイメージもあります(僕の偏見です)。こう感じるのは結果が作り出したイメージでしょう。
東=強い。これは現在の高校ラグビーで覆ることのない事実だと思います。
これほどまでにチームを育てたのは、前監督の谷崎重幸監督の力もあったと思います。

「自主性」vs「スパルタ」そう調べるとでてきますが、僕自身もこれを見たときは心を動かされたのを覚えています。
福岡県はそうとう熾烈な戦いを繰り広げているんだな。と感じます。
今では東福岡一強かと思ってる方も多いとは思いますが、そうではなく福岡高校、修猷館高校、筑紫高校、筑紫丘高校、東筑高校、小倉高校など強豪ぞろいの県がこの福岡県なのです。
この激戦区を勝ち進んでいる東福岡高校には強さの秘密があります。
それは前監督の谷崎監督が作り上げたものでしょう。
そのバトンを受け継いだ藤田監督は、弱くすることなくさらに東を強くしたのです。

ニュージーランド留学の経験があったことから、「コンタクトも大事だけど、ラグビーフットボールなので球技がしたい」、「高校生は前後半60分しかないから、モールやラックで停滞してしまうと時間がもったいない。縦横無尽に、スペースを使ってトライを狙うラグビーがしたい」

という強い信念が、藤田監督の中にはあったそうです。
まさしく、東のラグビーを言語化しています。
自分たちはどういうラグビーをして、何を目指すのか。が本当に明確に立てられていました。言語化することはある種簡単かもしれませんが、チームとして体現できていることがなにより東福岡というチームの強みでしょう。

・小事大事
監督に就任して以来、藤田監督が大事にしている言葉だそうです。
今の僕にはとても響く言葉でした。
常に小さいことに徹底的にこだわること。細かいことこそ丁寧にすること。
それができなければ人間としての成功がない。
ことは今だからこそ感じます。
ラグビーの試合こそ、基本の勝負なので、日常における当たり前の重要性に気づかされます。

・東福岡の評価は高校を卒業した後に決まる。
この本の中で驚いた事の一つでした。
生徒の将来を一番に考えている証拠です。
高校生たちの人間育成や日本代表で活躍する選手を育成することを目標にしているが、ラグビー選手としての先を見通して、高校時代は一貫してベーシックスキルを植え付けることを徹底されています。


〇桐蔭学園高校(神奈川)の藤原秀之監督

東の横綱こと神奈川の桐蔭学園高校は、2019年度ラグビーワールドカップ日本大会で活躍したFBの松島幸太郎選手の母校です。
過去三年間春の選抜大会で3連覇していて、今年の花園の注目チームです!

毎回のドリル内でのジャッジもそうですが、練習自体もいい練習かどうかジャッジさせます。選手に自分たちでやらせないと、チームにならない。

藤原監督の信念です。
あくまで、プレーするのは選手自身。
練習では監督、コーチが仕切ることができますが、試合ではできません。
声をかけることができるのはせいぜいハーフタイムくらいでしょう。
試合では当たり前のように選手たちが判断して試合を進めていかなくてはいません。その練習を練習の時から取り入れることはベストな選択だと思います。

「ラグビーという競技自体を発展させていくためには、とにかくラグビーに関わるつながりを作って、ラグビーは『きつい、汚い、危険』ではなく、『見ても、プレーしても、教えても楽しい』と思ってほしいんです」

ラグビーワールドカップ2019日本大会では日本代表がベスト8という結果を残し、日本にラグビーの魅力を届けてくれました。
そのおかげで大学ラグビーも例年とは違う盛り上がりを見せています。
今年は高校ラグビーの聖地、花園での試合も盛り上がることでしょう。
そこで、この桐蔭学園が見せるラグビーには注目したいです。
今年は春の選抜大会と、夏のアシックスカップ(7人制大会)の2つの全国大会で優勝をしているので、優勝候補間違いなしです!

ラグビーで大きなケガをするのは、スクラムやラック、タックルがほとんどであり、藤原監督も「本当にちゃんとやれば安全なスポーツだ」ということは十分に承知している。そのため、危険なプレーをする選手たちには、とくに厳しくあたる。

文中になにげなくあった一文です。
高校時代、湯浅監督の言葉を思い出します。
「一番悪いことは、わかっていないこと。」です。
DFの場面で例を挙げると、自分の内側の選手がチームのDFシステムをわかっていないとします。その選手のせいで、隣の自分は意図しない体勢でタックルにいかなければいけないシチュエーションが生まれます。
そうすると、逆ヘッドなどのけがにつながるプレーになります。
そういうこともあり、理解していないこと、わかっていないことが悪いことだということを教えていただきました。
ここでのわかっていないこととできないことはイコール関係ではありません。一番よくないのは、できるのにわかっていないことです。できないが、わかっている場合であれば、できるために何を練習すればよいのかが明確なのでそういう選手は伸びます。
理解度というものがラグビーにおいてどれほど大切なのかは高校時代に教わりました。

桐蔭学園は毎年、比較的小さい選手が多い中、FWとBKが15人一体となって攻めることが印象的ですが、「高校3年間という限られた時間の中で、選手をどのように伸ばしていくのか、ラグビーだけでなくその都度何をすべきか的確な判断をができるような大人になるよう、ラグビーを通じて人間力を高めていきたい」監督は口にする。


〇奈良県立御所実業高校(奈良)の竹田寛行監督

天理高校も属する奈良県は近年、全国大会予選奈良県決勝では、この天理高校vs御所実業高校の試合となることが多い。
竹田監督が監督に就任当時から天理高校は御所実業にとってのライバルとなっている。
全国大会のベスト8、ベスト4には私立高校が多いが公立高校として高校ラグビーを湧かせている。

指導方法は最初からそんなに変えていません。生徒達には自分で考えさせるようにしています。スパルタや決め事を重視してやらせるラグビーは嫌い。やらせるのではなく、選手が自分でやる。理にかなっていて、相手を封じ込ませるラグビーが好きです。

竹田監督のラグビー論です。
高校時代、御所実業とは練習試合をさせていただくことが多く、いやな思い出ばかりです。
「ラグビーは詰め将棋」と耳にしたことがありますが、実際に御所実業のラグビーはこの詰め将棋のようです。

自分たちのしたいことがばれている。そうかんじることもありました。
試合の中で、自分たちがすることはすべてつぶされる。相手のすることはすべてはまる。そういった記憶があります。
ラグビーは頭を使ってするスポーツだと3年間仰星では教わりましたが、御所実業と試合をすることで、考えるラグビーとはなにか、を考えさせられます。

「ラグビーだけしかやらないで、『ラグビーで勝ったら変わる』と思っていたら変わらなかった。高校でコミュニケーション能力が低かったら、将来、その子は伸びない。人間の生きる力において、どの分野でも、今一番足りないのはコミュニケーションだと思っています。社会人と同じです。僕がすごく引っ張っていますが、自由教育の中で、親や先生に言われないとできない生徒が多い。考えて行動する人間が抜本的にたらないと思っています。

人間教育の本を読んでいるかと思いました。
あくまでラグビーというツールを活かし、高校生に対して人間教育を行っているということなのでしょうか。
そもそも人間教育はどうおこなうべきなのか。そこにも正解はないと思います。
だからこそ、ラグビーというスポーツは適していたのかもしれません。
そこに竹田監督も魅力を感じたと僕は思います。

・高校生が駆け引きを覚えたら一生使えます。
「駆け引き」。僕自身が得意とする分野でもあります。
この駆け引きは正直今でもわかりません。
正解なんてないのですから。それを日々追い求め自分なりの正解像を作り上げていく。それが僕の練習です。
ラグビーにおいて、ずるがしこいことは武器になります。
相手を騙せといいつつも、味方は信じろ。と、真反対なことをいうスポーツがラグビーです。
この正解のない駆け引きを追い求めラグビーを竹田監督はやっていると僕は感じます。


〇東海大学付属仰星高校(大阪)の湯浅大智監督

僕自身の母校でもある仰星高校。
高校ラグビーの強豪校の中では比較的歴史が浅いこともこの仰星高校の特徴です。
1983年創立で、学校もまだ40年もたっていません。僕が31期です。
土井崇司前監督が仰星ラグビーを造り上げ、そこに今は湯浅先生のエッセンスが加わている。

湯浅先生の紹介をすこしすると、1999年仰星の初優勝をキャプテンとして成し遂げ、2006年コーチとして2度目の優勝を経験し、監督になって初めて挑んだ2013年度、そして2015年度も仰星を優勝に導いている。
湯浅先生は東海大学付属仰星高校の4度の花園優勝をすべて経験しています。
いわば、高校ラグビー界で最も花園で勝つ術を知っている人物の一人ともいえる。

・ラグビーを科学する。
高校3年間言われ続けたことです。
初め聞いたときは正気か、と感じたほどです。
本当になにを言っているのかわかりませんでした。
土井先生の頃から仰星の文化としてあるものです。
「科学する」と難しいように考えずに、ようは「考えろ」と解釈することができたとき、このラグビーを科学するということの本当の意味合いがわかったような気がします。

仰星高校は全国的にも考えてラグビーをしています。
その基盤にあることがこのラグビーを科学するということでした。
ただ、考えるのではなく、科学する。
原理・原則に則り、理にかなった方法から戦略・戦術を作り出す。
どこか御所実業とにかよったものがあると僕は思います。
土井前監督と竹田監督の仲の良さが関係しているのかもしれません。

「こちらは、10段階中6段階くらいまでは自分自身で来なさいという指導をしています。」と説明してくれた。「結局は人。チームの核は、それを形成する人の総和なので、人格を磨くしかない。」と人間形成にも重きを置いている。

と、具体的な指導論を述べています。
仰星高校はよく、小中学生を招き、スクーリングを行っています。
規模が大きい時だと500~600人も集まります。
高校生も100名程度いますが、練習は各グリッド15~20名程度なので、単純計算でも小中学生15人に対し高校性は3~4人程度の中で指導をしていきます。
高校1年生も仰星も生徒として小中学生に指導しなければいけないので、先輩の陰に隠れている暇などありません。
スクーリングの内容は選手自身で決めます。
その日のテーマを決め、そのテーマを達成できるストーリーを描いた内容で練習を組み立てます。
そういったところからも人間教育を行っていたのだと今になって気づくことがあります。

ラグビーの技術、ノウハウを高校3年間でたくさん学ぶことが出来ましたが、一番はなんのためにラグビーをするのか、自分自身がラグビー通じてなにをしたいのかが明確になりました。
学生なのでもちろん勉学にも励みましたし、文化祭などの学校行事にも真剣に取り組んだことも思い出です。

かなり衝撃的だったことは、音楽鑑賞会での湯浅先生からの一言でした。
「明日の音楽鑑賞会では感性を磨いてこい」でした。
感性を磨く。ラガーマンにはかなり理解しがたい言葉だったこと覚えています。
こんな悩まされる3年間が今の僕をつくているのでしょう。


■5人の共通点

・「挑戦者」であること。
・根っからのラグビー好きであること。
・初めから名将ではないこと。
・プロの指導者ではなく、学校の先生であること。
・選手(生徒)の自主性、主体性の尊重。
・人間教育に重きを置いていること。

などなど、共通点を挙げればきりがないのですが、一番気になる「人間教育、人間形成」の部分について触れていきます。


〇競技力=人間力

先日書いた内容に、ラグビーの上達の秘訣は人間的成長である。と書いていたので、内容が重複しているところがあるかもしれません。
5名の監督はそれぞれ何年もトライ&エラーを繰り返し、現在のような強いチームの文化を造り上げてきました。
もちろん、良い人材があつまるようになったことも強い理由にあるかもしれませんが、そういった人間にとって魅力あふれるチームであることに間違いありません。

5人全員が口をそろえて言う事があります。
「大学やその先もラグビーを続け、将来の日本代表のような選手になってほしいが、なにより良い人生を送る礎に高校3年間がなってほしい。」
その子の将来を考え、人間としての成長を一番に考えています。
ラグビーはグラウンド外がグラウンド内に影響するといいます。
ラグビーを経験した人は一度は言われたことがあると思いますし、だれしもが心当たりがあると思います。
勉強を疎かにする選手は最後しっかりと2対1でパスをすればトライという場面で適当に投げてしまいます。
あくまで、一例であり、そんなことないと思う人が多いと思いますが、小事は大事です。
ラグビーはすべては直結していると僕は考えています。
そのことを改めてこの本は教えてくれました。


■まとめ

高校ラグビーは高校生が人格形成をしていく中でとても大切な時期になります。
ラグビー界の「ゴールデンエイジ」と呼ばれる選手の育成だけでなく、あくまで本当の目的は人生を豊かにしてほしい
その基礎作りがこの高校ラグビーで学ぶことができるのではないでしょうか。
その取り組みを率先してこられたのがこの5校であり、その監督は名将といて評価されていると感じます。

その取り組みをはじめ、競技力にも反映することが出来ているチームが花園常連校に共通することだと思います。
高校ラグビーを語るうえで、そのチームにはどのような文化があり、どういった選手がいるのかでチームは変わります。
毎年選手が入れ替わる中で、戦術も変化していくはずです。
その柔軟性にも注目です。
なにより、監督の想いや、背景を知りながら試合を観るとまた違った楽しみ方ができるでしょう!


■最後に

3年生は夏を過ぎたら、たとえメンバー外だったとしてもAチームと一緒に練習させている。選手の保護者には、「ある時期を過ぎたら、同じくらいの実力で迷ったら1~2年生ではなく3年生を使う。」ということも明言している。

と、ある監督は言い切っています。
これを読み僕は驚きました。逆じゃない?と。
同じくらいの実力で迷ったら学年が低いほうを使う。当たり前だと思っていました。経験を積ませてあげたい。それ以外思い浮かびませんでした。
そうではなく、3年生を使う理由が明確であり、考えさせられました。

僕のところに高校、大学はどのように選んだらいいですか?という質問が時折来ます。
一番良いのは自分の目で確かめること。
ですが、物理的問題からなかなか難しいこともあると思いますが、そういった子にこそこの本を読んでほしい。そう強く思います。
自分が高校、大学でなにをしたいのか、何を学びたいのか。はっきりするでしょう。
僕に応えられる範囲であればいくらでも相談に乗ります。


〇引用元
斉藤健仁 (2017), 『高校ラグビーは9割が頭脳』 東方出版

いつも読んでいただきありがとうございます。 一人でも多くの方に読んでいただき、ラグビーをより楽しんでいただけるようこれから頑張っていきます。 コメントお待ちしています!! よければスキもお願いします。