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お探し物は図書室まで(レビュー/読書感想文)

 お探し物は図書室まで(青山美智子)
 を読みました。
 2021年本屋大賞2位の作品。

「お探し物は、本ですか?  仕事ですか?  人生ですか?」。仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。自分が本当に「探している物」に気がつき、明日への活力と希望が満ちていく物語。

ポプラ社「お探し物は図書室まで」紹介ページより

 五編の連作短編集です。人生の岐路や決断に迷いを抱える老若男女の語り手がひょんなことから町の図書室を訪れ、そこで出会った個性的な司書から「オススメ本」と「フェルト地の小さなぬいぐるみ」を受け取ります。そこから、語り手はどんな気付きを得て、どんな行動をするのか――といったお話。

 司書の小町さんは非常に大柄な女性なのですが、その容姿のことを各章の語り手がマシュマロマンやらベイマックスやらに例える様が楽しいです。私はマツコ・デラックスさんをイメージしながら読んでいました。そうすると、四章に登場する漫画好きの語り手が、「らんま1/2」のパンダ(早乙女玄馬)と言い始めて、これには絵面を想像させられて笑ってしまいました。

 ちなみの司書の小町さんは語り手を導く、いわゆる狂言回しです。常に物語の中心に居座るわけではありません。また、本作はロンド形式になっていて、ある章のチョイ役が次の章で重要な役割を演じるといった展開があります。

 以下、内容に言及しますので、多少、ネタバラシにもなります。読書前に先入観を持ちたくないという人はお気をつけください。

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 小町さんは「お探しのものは?」と問いかけ、それに対し各章の語り手は応じるのですが、その際、小町さんは表面的なニーズ(たとえばパソコンの指南書など)だけでなく深淵の悩みを読み取っているように思わされます。

 そして、オススメされる本と、手渡されるぬいぐるみ。一見、お悩みとの関連性が無いというのがこの物語の面白さなのでしょう。

 小町さんの思わせ振りな示唆はきっかけのひとつに過ぎず、その小さなきっかけから一歩を踏み出す語り手が、状況が好転したのちに、ススメられた本の中から悩みに対するヒントや答えのようなものを各自勝手に見出しているようです。

 例えば、一章の語り手が周囲の同僚らに触発されて、目の前の仕事に真摯に取り組もう、ちゃんとした生活もしよう、まずは料理くらいと思ったとき、手元にあった「ぐりとぐら」からカステラを作ろうと思い至ったように。

 例えば、二章の語り手がパラレルキャリア(サラリーマンと自営)の先輩を図書室の宣伝リーフレットで認識したのち、「植物の不思議」内の樹と根の解説からそのパラレルキャリアの実践を具体的に意識したように。

 これは因果関係の話ですが、最初に本から重要なヒントを得て行動する、では必ずしもないのです。

 だからこそ、小町さんからすれば「私は何もしていない。適当な本をススメただけ。良いことがあったとすればあなたの決断と行動の結果よ」と言えるわけですね。

 うーん。深いです。小町さんは魔法使いでしょうか。

 自分が変われば行動が変わると言うのではなく、ちょっとした行動の積み重ねがグラデーションのように自分の姿や位置をゆっくり変えていく、そんなふうな作者のメッセージを私は一冊を通じて受け止めました。

 最後に。物語がロンド形式になっているということは上述しました。そのためというのもありますが、一章から五章まで、ある人物の決断や行動が章をまたいで別の人物のそれに好ましい影響を及ぼしている描写があります。

 バタフライエフェクトではありませんが、実際、こういうことはあるのでしょうね。たとえ当人同士は気付いていなくても。縁は繋がると言いますので自分もひとつひとつの決断や行動を大事にしたいと思いました。

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 追記。

 5月26日(日)、本書を題材にした課題本読書会に参加してきました。彩ふ読書会さん主催。

 やはり同じ本を読んでもその人によって見るべきポイントが違いますね。私は孤独な読書も好きですし、否定するものではないですが、多様な視点を知れることが読書会の魅力です。

 それにしても、小町さんがフェルトぬいぐるみを作る様子――針を指す様子のオノマトペが、各章の語り手によって異なるとは。まるで気付きませんでした。ざくざく、ぶすぶす、ちくちく、など。確かに一人称一視点の小説ですからきっと主観人物のキャラクター付けなど意味があって使い分けているのだろうなと思いました。


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