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雪と出会った時の話。

沖縄で生まれ育った私は、上京するまで雪が降るのを見た事がありませんでした。
ただ、歌を聞いたりしてどこかロマンチックなイメージだけは持っていました。SMAPの初期の名曲『雪が降ってきた』には、こんなフレーズがあります。

ごらん 空から天使が夢を振りまいてる
僕の心に降る雪 いつか溶けるけれど
あんなに恋した 君の笑顔忘れない

雪をきっかけにかつての恋人を思い出すという失恋ソングなのですが、小中学生時代の私に恋愛と雪への憧れを掻き立ててくれた曲には違いありません。
まあ、毎年のように大雪に見舞われる地域の方からすれば「そんな甘いもんじゃない!!」という反応だとは思いますが。

「雪だるまのプレゼント」への疑問

小学校2年生くらいの頃でしょうか、東北の学校から「雪だるま」が届いた事があります。
発泡スチロールの型に入った雪だるまを、皆珍しがって触っていました。もちろん私もそうでしたが、その感触から感じた事は今でも憶えています。

「これ、かき氷を固めて作ったんじゃないよね?」

せっかく贈ってくださった方々にはとても言えない感想ですが、恐らく梱包してから時間が経っていたため固くなっていたのでしょう。船便で届いたのかも知れませんし。
絵本などで想像を膨らませ、もっとふわふわした手触りを予測していた私には、少しばかり期待外れだっただけなのです。

初めて見た、空から降る雪

それから25年近くも経った冬、東京の天気予報で大雪が降ると知った私はわくわくしていました。
暖かく滑りにくいブーツを買ったりして備えてはいましたが、「大雪」レベルでは外出など出来ません。部屋にこもって雪を待ちました。

降って来た雪は、想像通りに綺麗でした。
細かく削られてふわふわと積み上がるかき氷のように、マンションのベランダの手すりに積もって。ちょっと触るとすぐ溶けて。
マンションの小さな庭に植えられた木も白く彩られていて、新鮮な風景にスマホのカメラのシャッターを何回も切りました。

良いなあ、雪は。
東京に定住して、こんな冬を毎年過ごすのも悪くないなあ。

そんな呑気な事を思えたのは、雪掻きなどの後始末を考えずにいられる身だったからだと今なら思えます。例えるなら雪見しながらの温泉を楽しむ観光客のような心境でした。

雪は降った後が大変

実はこの大雪の日、私は沖縄へ帰る飛行機のチケットを取ってあったのです。もちろん飛行機など飛ばなかったため、翌日の朝早くに羽田空港まで行く事にしていました。

まだ暗い時間、半分溶けて固まってしまった雪を注意深く踏みながら歩く。しかもスニーカーで。今思うと本当に無茶な事をしたものです。
近くの公園では大学生くらいの男女が雪遊びをしていて、寒いのに元気だなあと感じました。
空港への高速バスが止まっていたため、始発電車を使い乗り換えながら到着したのですが、国内線ターミナル内はとんでもない事になっていたのです。

前日の雪で飛行機に乗れなかった人々が、チケットの払い戻しや交換をしてくれるカウンターに長い長い列を作っていました。最後尾がどこかわからない程で、しばらくうろちょろしていた憶えがあります。
一向に列が進まない中、スマホやタブレットで何かをチェックしながら並んでいる方がいるのに気付きました。どうやら航空会社のサイトを見て空席を探しているようでした。

私も真似をして見てみたところ、ちょうど空席のある沖縄行きの便を見つけました。
これは本当に幸運でした。お守り替わりのように財布に入れていたクレジットカードで即座に購入し、電子チケットで何とか沖縄に帰れたのでした。

夢と現実のギャップ

私が雪に抱いていたロマンチックな気持ちは、さすがに少々減りました。想像の中であったり見るだけであったりすれば良いものの、生活の中ではやはり大変なのだと知ってしまったからです。

これはもしかすると、日本から沖縄へ移住したがる人々と同じなのかな、とも思います。
「青い海、青い空!マリンスポーツに美味しい料理!ああ帰りたくない、ずっとここで暮らしていたい!」
などと言う観光客気分で沖縄へ移り住んだヤマトゥンチューは「沖縄の言葉がわからない!どうして盆休みが旧暦なんだ!エイサーの練習がうるさい!こんなはずじゃなかった!」と不満を爆発させて帰ってしまうケースが多いと聞きました。

さすがに自分の身長(150センチ以下)より高く積もる地域に冬の旅をするのは躊躇ってしまいますが、私と「雪」の距離感はたまに見るくらいで良いのかな、と思ったのです。


※画像は「みんなのフォトギャラリー」からお借りいたしました。ありがとうございました。

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