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僕たちの失敗(インボイス反対運動について)

 反対派が大騒ぎをしていましたが、インボイス施行まであと四日となりました。 
 この反対運動は失敗したと言っていいでしょう。延期にもなりませんでしたし、廃止にもなりませんでした。

 このインボイス反対運動について、二つの立場から考えてみます。

①フリーランスの立場から

 反対運動の中核を形成したアニメーター、漫画家、声優、フリーランスの人たち。
 この人たちは多分本気でインボイスを廃止……とまでは言いませんが延期か、それともフリーランスは免税措置継続を目指していたでしょう。

https://twitter.com/daaaaaai/status/1703924999009243183より引用)

https://twitter.com/shields_pikes/status/1703590874175983853より引用)

 というのは免税事業者にとっては登録すれば課税負担が増えます。これはどうしようもないです。
 事務負担も流布されているほどではないと思いますが、一定は増えます。

 それに、登録しないと仕事に影響が出るかもしれません。
 僕はクリエイター界隈の専門性や特殊性を考えれば余り出ないと思ってますが、それはあくまで第三者視点ですからね。
 それを生業としている人の肌で感じる危機感は僕には共有できない。

 既に自分が課税事業者であっても、アシスタントやアニメーター、声優が登録しないと自分の消費税負担が増えます。
 ともあれ、どう転んでも導入で得することはないわけです。

 

その点で反対する気持ちは分かります。


 彼らが失敗したのは

 

自分達を被害者に位置付けた


 ことが理由だと僕は思っています。

 自分達は可哀そうな被害者ぴえんぴえんと言って同情してもらいたいだけなら兎も角、本気で制度を動かそうとするならば、少しでも多くの人の賛同を得なくてはいけません。

 この場合だと、自分達の業界以外の人、免税事業者以外の人を巻き込まないといけなかった。
 具体的には年商1500万円くらいで自分で経理して申告している個人事業者や経理を生業にしている人を「事務負担が増えますよ!!他人事じゃないですよ!」と巻き込まないといけなかったと思います。

 でもそれをしなかった。

 少し考えて見てくださいよ。
 年商1500万くらいで自分で経理して自分で申告して消費税払っている人が

「私たちは過大な事務負担と不当な納税負荷を負わされようとしている!被害者だ!」


 と言ってる人をどう見ると思いますか?

 「自分達は被害者」という文脈ではなく、「貴方たちも貴方たちのために戦列に加わってくれ」という文脈で運動すべきでした。

 「益税」に対する言い方も問題ありでした。
 消費税が預り金か、担税者は誰かという法的性質は議論の中心ではないので置いておきますが、「免税」である以上免除による利益はあったんですよ。

 利益というワードは適切ではないかもしれませんし、制度的免除なので脱税ではありません。
 でも納付を免除されたことにより手元に残った分はあるはずです。そこは認めた方が良かった。

 それに、アニメーターや声優、出版系の業界は相当に特殊です。
 僕は知人に元アニメーターと兼業作家がいますが、本が完成して出版の2日前に出版契約書が贈られてきて押印するのは普通じゃないです。
 契約書って書き始める前に締結するでしょ、普通。

 それにアニメーターは個人事業主扱いらしいですが、あれの実態は完全に雇用です。外注にするのは無理がある。
 税務署がなぜスルーしてるかは知りませんけど。

 あれだけ特殊な業界だと、業界慣行をアピールして被害者ぶるのは無理です。
 おかしいのはインボイスじゃなくてお前らの業界だーってなっちゃう。

②共産党その他活動家の立場から

 一方、共産党とかにとっては別にこれは失敗ではありません。

 

https://twitter.com/miyamototooru/status/1706240569633382763より引用)

https://twitter.com/Light_o_River/status/1706243502869446755より引用)



 彼等は

 

クリエイターのためにインボイスを廃止に追い込まねば、なんて全く考えていません。



 むしろ漫画やアニメなんて低俗と見下してそう。

 彼らからすれば50万筆の署名モドキを集め、それを政府が無視した、という体裁が整えばいい。
 要は国葬、東京五輪、反原発、モリカケサクラ、処理水と同じです。
 
 だって本気でインボイスを廃止……は無理でも、当面の延期か、それとも一部業界への特例を設定させたいなら、もっと早く政府に直接言わなければいけません。
 日本は独裁国家ではないので、何を作るにも手続が必要なんですから。

 この実施間際の時期に署名なんて渡されても、課税事業者が準備万端にしているところで延期だって無理ですし、撤回なんて絶対できない。
 ていうか出来たらそれこそヤバいでしょ。

 勿論そんなことは活動家連中もわかっています。
 50万筆の署名を拒絶するにせよ、受け取っても対応を変えないにせよ、どっちに転んでも「民衆の声を無視する邪悪な政府」という構図を作れたのですから、彼らは目的を達成しました。

 ……ちなみにあの手の活動家さん、野党共闘とか言ってますけど、まあまず無理だと思います。
 あの手の人達、それぞれ似たような神=正義を奉ずる一神教信者みたいなものなんですよね。
 例えていうならL教R派とL教C派みたいな感じ。

 彼らからすれば保守とか自民党や維新は異教徒なので、異教徒と戦っている内は教義の解釈の差異を横に置いて団結できるかもしれません。
 でも、異教徒との戦いが終わったあとに、妥協したり利害調整したりできるとは思えません。
 ……でも、L教内で選挙区調整すらできてなさそうだし、戦ってるうちでもダメかな。

 ……こう考えると、クリエイター界隈の最大の失着は

 

組む相手を間違ったこと


 といえるかもしれません。

 インボイス反対運動が自分達の業界防衛であり政治性が無いならば、優秀な経理関連の人間とかコンサルをブレーンに据えてインフルエンサーを使って反対論を展開した方が良かった。

 共産党とかの活動家勢力と組んだのはミステイクでした。


 あの連中と組むと運動の政治性が強くなりますし、そうなると距離を置く人も出ますからね。

 それに上記した通り、彼らの目的はインボイス廃止ではなく反対運動そのものです。

 目的が違う集団が組めば、より強い集団が目的を達成し弱い集団は利用される。


  
 彼らの手管からすれば、創作に打ち込んできたクリエイターを「虐げられた被害者」「邪悪な権力と対峙する正義のヒーロー」に洗脳して、自分達の尖兵に仕立て上げるなんて容易いことだったでしょうね。
 
 とはいうものの、政治に訴えるならまあああいうのと組むしかないんでしょうけど。
 この辺は悩ましい所です。

 でも、それでもなお……こういうことを言ってのける連中と組むべきでは無かった。 

 ともあれ、クリエイター界隈の方には、扇動的な意見に振り回されず、誠実な税理士や専門家にきちんと話を聞き、どうするかを判断してほしいと思います。
 過激な反対派の言う「事務負担ブルシットジョブ激増!」「切り捨てられるフリーランス!」「クリエイター活動の終焉!」というのは多分に嘘が混ざってます。

 あと、その手の界隈の特に上の方にいる人たちは、この機会に特殊な業界慣習を見直してほしいと思います。
 どの業界にもそれぞれの個性や慣習はありますが、程度というものがあるので。

 

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