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#4 これでも隔離期間です

2021/08/27 11:30
 馬鹿だから、雨の予報なのはわかっていたのに傘を忘れてしまった。そしてのこのこ来たことないリガのちょっとした繁華街まで来て、雨で動けなくなってしまった。もう本当にどうしようもない、傘は部屋にあるのに。リガのレストランやカフェにはEUのデジタルワクチン接種証明書が必要だから、ちょっと店に入って休憩ということもできない。何故か周りにコンビニやスーパーのようなものが見当たらないし、4Gなのにネットが繋がらないので近場の店を検索することすらできない。帰り道も検索できない。小雨なら傘もささずに歩くラトビアの人々も、流石に傘をさしたりフードを被ったりして歩いているから、フード付きの服を着ていない私は建物の陰でひっそりと雨を眺めているだけなのだ。しかももうお昼時でお腹がペコペコだ。リュックに忍ばせておいた、クッキーアンドクリーム味のMilkaを二切れ口に放り込んだ。

 今日は溜まった下着をコインランドリーに出しに行くために、ホテルのフロントの人に教えてもらった大きいショッピングセンターに行く予定だったのだ。そのセンターのどこかにコインランドリーがあるそうなのだが、ホテルから歩いて42分かかる。なぜそんな遠いところを紹介するんだと憤慨した私は、前日に自分で調べたコインランドリーに行って、店があるはずの場所に完全なる廃墟を見つけ(コロナで潰れたのかな…)、以降フロントの方の話をきちんと信じることにしたのだ。しかし、大学が渡してくれたクソクソSIMカードは文字通りクソクソで一歩ホテルを出るとネットに繋がらなくなるので、今日は行く前に順路のスクリーンショットを色々と準備して出かけた。が、ダメだった。道順が全くわからなくなってしまった。道順がわからなくなれば、すなわち迷子だ。迷子になった。

 少しずつ場所を移動しているけれど、視界にはまだ雨宿りできそうな店が入ってこない。やっと知っている店を見つけ、しかし帰り道を思い出せないままうろうろとしていたらまたすぐにどこいけばいいのかわからなくなってしまった。歩けど歩けどウェディングドレスがショーケースに並んでいるのだけど、この通りはなんなんだ、若干ディズニーランドにでもいるような気分だ。雨は全然降り止まず、ウィンドウのドレスを眺める自分の髪はぐっしょりとヘタっている。わーん何をやっているんだー。と、急に軽井沢のショッピングモールのような建物群が目に入った。これはあれだ、南町田のグランベリーモール(建て直し前の方)みたいなところだ。店と店を繋ぐ通りで雨宿りができそうだと思い入ってみると、思ったよりも店がしまっていた。潰れていたのだろうか。わからない、リガに来てから、しまっているように見える店が営業していたり、ガラスが割れて居て人が住んでいなさそうなところに家族が住んでいたりして見当がつかないのだ。なかなかお洒落なモールのようだが、ほとんどの店が閉じていて、二階部分には上がることすらできなくなっている。店にしてもレストランにしても、リガの店がどういう基準で店を閉めたり休業したりテイクアウトのみの営業にしたり店内飲食もOKにしているのか、全くわからない。ただ、営業していてもそうでなくても、ひっそりとしていることに変わりはなくて、やっぱり悲しい。モール内の天井のある通りをしばらく歩いていると、突き当たりに大通りが見えてきた。その一歩手前には座るのにちょうど良さそうな平たい石が置いてあり、人もいないからいいだろうと思って疲れた腰を下ろした。休憩……。困ったな、雨が止まないのに帰り方もわからない。溜息を吐きながら大通りに向かってうんと足を伸ばし、その拍子で頭も通りの方に突き出してみると……ショッピングセンター!!!最初の目的地ーー!!!本当にビックリした、リガって結構狭いのか、もしかして。地理がわからない人間にはどこだって広いが、それでも不意に目的地が視界に飛び込んでくるくらいには、リガは良い広さの土地によくまとまった世界遺産の旧市街なのかもしれない。さらに、ショッピングモールへ向かう途中でさらにずっと行きたいと思っていたラトビアのマクドナルドまで見つけた。日本のマックとどう違うのか食べてみたいと思って居たのだが、思ったよりなくて面白くないなーと思っていたのだ。帰るときにバーガーを買って帰ろう、と誓ってセンターに向かった。

 ショッピングセンターは大通りを挟んだところにあったので、地下通りを少し迷いながら向こう岸へ渡った。その途中、イヤホンをしている耳の穴に捻じ入ってくる自由なテナーサックスの音に少し驚いて、右耳のイヤホンを外した。通りの右側にいたのは、町田のOIOIの前によく居たようなサックスの路上ライブだった。そういえば下北沢には弾き語りや不思議な太鼓を叩いている人や歌っているひとがよくいたが、町田駅のOIOIの前には何故かサックス奏者がいた。町田のサックス奏者もリガの地下通りのサックス奏者も、通行人に会話をさせないくらいの音量でのびのびと演奏をしているので、彼らは生き別れた兄弟なのかもしれない。そんなこんなでショッピングセンターに到着したのだが、ざんねーーん。私よ、君には積極性が足りない。2階のコインランドリーに着くとまず、ちょっとしたマダムが洗濯物を洗うようなランドリーでまず一歩気が引けてしまった。この回にはBOSSやら何らかブランドの服が売っているし、高島屋の2階のランドリーに自分の下着を洗いにきたような感じだ。ちゃんとしたメニューがあり、メニューも、当たり前かもしれないけれどダウンジャケットやジーンズなどだけで下着などない。そして第二の関門は、カウンターのマダムが喋る英語があまりにも訛りすぎていて一言も理解できなかった、アンダーウェアを洗いたいのですが、と入った瞬間、相手の口調と雰囲気から真っ直ぐと却下が伝わってきた。「Yes, this is laundry but ;@“$#$%$&##=>*%~」……どうダメなのか全く説明を理解できなかったけれど、「そうね、ここはコインランドリーだけど、あなた自分の下着をまさかここで洗いたいの?」と言われた気がする。聞き返したら状況がどんどん悪化しそうな空気に、「Sorry」と言って逃げると「Okay」と背中越しにマダムの呆れ声が聞こえた。ううう、もっと聞けばよかったかもしれない、、でももう発音がわからない。仕方なく、下着をリュックから取り出すことなく地下通りとサックス奏者の前を通って道を戻り、気持ちを切り替えるようにマックへ向かうことにした。

 ラトビアに来て初めてのマック。驚いた、椅子が全て机の上に仕舞い込まれて、テーブルごと黄色いテープでくるりと纏め上げられている。マック店内飲食禁止なんだ……近くのカフェはいいのに……わからないが、そうみたいだ。ぼんやり店内を見渡しながら大きい液晶画面のメニューの前に立った。知ってる、このメニューは日本を出る前に地元のマックで初めて見つけて、やり方をマスターした、したはしたけどロシア語ではしてない。言語の切り替え方がわからない。ぽちぽちとボタンを押して回ったけれど、もうわからないので直感でオーダーすることにした。TMIだが、ロシア語とラトビア語はみて区別がつくようになったので、それがロシア語なのは分かった。ラトビアには基本的にロシア語とラトビア語の説明が用意されていて、二つ用意するなら三つでも変わらんか、みたいな感じで英語が用意されていることもしばしばある。ショッピングセンターのエレベーター脇にある各階にある店を一覧にしてある表もそうだ、ロシアとラトビアとイギリスの国旗の下に、三つの表が貼り付けてあった。話を戻すと、結局その場で色々苦戦した結果オーダーできたのはチーズバーガー1つだった。1.2ユーロでセット価格なんておかしいとは思ったのだが、気づいたのはカウンターで小さい紙袋を渡されたときだ。何で気づけないかなーと思いながらぼとぼとホテルに帰り、これじゃお昼は足りないなぁ、と思いながら一口齧った。日本で食べたチーズバーガーと何ら味は変わらない。それも発見だった。ふと、ホテルの近くにあったハンバーガーのチェーン店、HESBURGERを思い出した。HESBURGERはラトビアで一番よく見かけるチェーン店だ。雰囲気はモスバーガー似ている。そこでふと、マックのバーガーとHESBURGERのバーガーを食べ比べしてやろう、という気になった。それならちょっとイライラしている心も長らく歩いてペコペコなお腹も満足する。実に簡単に機嫌を直して早足でホテルの近くのHESBURGERに向かい、欧米らしいとっぷりとした体型の女性の店員さんに「それだけ?」と言われたのでファンタのMも頼んで(何故かオレンジだけだ。グレープの選択肢がない。日本ではグレープばかり飲んでいたので悲しい)、2ユーロちょい。お昼は合計3ユーロ50セントくらいに収まった。HESBURGERを出る頃には、雨はどうってこと無いくらいの小雨になっていた。嬉しくて、リアルにスキップした。熱々のHESBURBERのハンバーガーと冷えたマックのチーズバーガーを抱えて部屋に戻り、極めて公平な目線でジャッジをしたところ、HESBURBERオリジナルの具沢山マヨネーズソースが美味しくて圧勝した。ごめん。そんなこんなで、こうやって書き起こしてみるとなかなか充実した(?)、まあ面白い1日ではあった。お昼は15:30くらいになってしまったけれど、夕飯も鯖の缶詰をパンに載せて、オリーブオイルでぐしょぐしょにしてあんぐりと食べた。マシっそっそ。シャワーに2日ぶりに入ってスッキリしてしまえば、もうベッドに横たわってYouTubeを見たり、友人のインスタを見て嫉妬してすぐ閉じたり、日記を書いたり、何を入っているから全くわからないロシアのコメディドラマを見ていれば11時とか12時になっている。こてんと寝る。そんな毎日です。

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