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絵本紹介:『星の使者 ガリレオ・ガリレイ』ピーター・シス

絵本紹介

『星の使者 ガリレオ・ガリレイ』
作:ピーター・シス
訳:原田勝
徳間書店


絵本探求ゼミ3期 グループ発表より

この絵本紹介の文章は、私が参加している、インフィニティアカデミア絵本探求ゼミの3期グループ発表の中で私が担当した部分です。
チームで探求、発表したものなので、全体は載せられませんので私が発表した部分のみ掲載します。

発表全体は「ピーター・シス 壁を越えて」というタイトル。
ピーター・シスの作品に注目し、シスの生い立ち、人生をたどり、制作された作品との関連などを考察しました。
特に、シスの作品の象徴にもなっている「壁」に注目して進めました。
よって、以下の絵本紹介は「壁」に注目した紹介文となっています。

ちょうどこの発表をまとめている時期に「ピーター・シス 闇と夢展」が開催されていて、見に行けるメンバーが来訪、その体験も加えていただき、発表に奥行きが出たと思います。


ガリレオ・ガリレイと聞いてみなさんは何を思い出しますか。
一番有名なのは「地動説」を唱え、宗教裁判で有罪となり不遇の晩年をおくったことではないでしょうか。

この絵本は、もちろんその点を中心として描かれていますが、ガリレオが、科学者、数学者、天文学者、哲学者、物理学者と幅広い分野で様々な功績があったことも描かれています。
「星の使者」というタイトルにもそのような幅広い功績があるからこそでしょう。
読み終わった後、私はその偉大な功績と天才ぶりに「ガリレオは宇宙人だったのかもしれない」とすら思えたので、このタイトルに大いに共感しました。

天才的なひらめきと考察力を持ち、真実を求め、過去や権力にとらわれることなく真摯に学問を続けたガリレオの姿が、工夫されたタイポグラフィー、細部まで描きこまれた絵で表現されています。そこに描かれた絵は心象風景、イメージの投影や暗喩のようなものが多く含まれています。
見る人がじっくりと見ながら考える、自分なりの解釈ができるような絵です。それは時に難解にも思えます。

「壁」に注目すると26P~27P「教会に従わず激しい拷問や罰を受け、苦しんだ人がいるのがガリレオは知っていた」という場面。
四角い壁に囲まれた中心に、ひとり立つガリレオ。無表情で心細げに見えます。周りには大蛇がとぐろをまいて口を開き身動きできません。その四方の壁には目隠しされ拷問をうけているような苦し気な人や骸骨、巨大な炎のように見える壁にも人の顔が描かれています。恐怖と混乱を感じる絵です。

変わって30P~31Pは、満月に照らされた壁に囲まれた家の前に一人立つガリレオが描かれています。裁判で有罪となり幽閉されたガリレオの姿です。周りには堀があり、甲冑を着た兵士が見張っています。一生自分の家から一歩も外に出ることが許されなかったのです。けれどその表情は穏やかで美しい月に照らされ微笑んでいるようにも見えます。
権力に屈せず自分自身の信じるものを貫き通したことに悔いはないという姿でしょうか。

ピーター・シスは自分自身が「鉄のカーテン」に閉ざされた壁の中で育ち、恐怖政治に支配されていたことからも、ガリレオが宗教裁判で有罪になっても屈せずにいる姿に共感して描いた作品ではないかと考えました。
今見えていること、当たり前に思われていることが真実とは限らない。権力や暴力によって人は時にとてつもない間違いを犯すことがあるという警鐘を感じた。

ちなみにこの絵本によると、1633年に有罪になったガリレオが正式に許されたのは、驚くことに1992年です。実にガリレオの死後350年もたってからのことでした。


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