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絵本ゼミ第3期③ケイトグリーナウェ賞についてとアンソニー・ブラウンの絵本



(1)ケイト・グリーナウェイ賞とは


19世紀のイギリスの絵本作家ケイト・グリーナウェイにちなんで1956年に英国図書館協会によって設立された賞で、毎年イギリスで出版された絵本の中で、とくに優れた作品を描いた画家に対して贈られている。第1回目の受賞者は、1956年エドワード・アーディゾーニ(1900~1979)で受賞作は『チムひとりぼっち』(Tim All Alone)である。

ベーシック絵本入門 ミネルヴァ書房より

(選考基準)

絵を通して読書の喜びを得られることが求められる。
創作材料やフォーマット
表現形式とテーマの協調性
作品全体を通した絵の質、絵とテキストの相乗効果

BOOKEND2020年号(絵本学会)より

ケイト・グリーナウェイ賞受賞作を確認した時に、コールデコット賞より知っている作品が少なく、持っているものも少なかった。
最も馴染み深かったのは、ジョン・バーニンガムとアンソニー・ブラウン。
他には受賞作を数冊、受賞作ではないけれど受賞作家の作品も数冊持っていました。今回はとても興味深かった『好きですゴリラ』(あかね書房)でケイト・グリーナウェイ賞を受賞したアンソニー・ブラウンについて調べてみた。



(2)アンソニー・ブラウンについて


アンソニー・ブラウン(1946年 イギリス)
1976年絵本作家デビュー。ブラウンの作品は、子どもの心理や社会問題などを、ユーモアを交えた親しみやすい表現で描写したものが多い。中略 デビューから現在まで、細部まで楽しめる絵とシンプルなテキストで読み手の想像力をかきたてそれぞれが物語を創り上げて楽しめる作品を発表している。
(BOOKE)ND2020年号(絵本学会)より

BOOKEND2020年号より

今回の講座の解説で最も興味深かったのは、アンソニー・ブラウンの解説でした。
早くに突然父を亡くし、ひときわ父への思いが強いこと。アンソニー・ブラウンの作品によく登場する「ゴリラ」は父をあらわしていることが多いとのこと。
以前から持っていた絵本『うちのパパってかっこいい』(評論社)は父への愛情をストレートに伝えるものであり、ユーモラスでありながらもラストには心の奥にしみわたるような親子の愛を伝えるものであったことが、説得力を増しとても興味を惹かれた。


作家にとってゴリラは、大切なモチーフで、描いても描き飽きないものだろそうだ。17歳のときに急逝した父が、ゴリラのように大柄で優しい人であったという。ユーモラスで、お話もたくさんしてくれたとか。大きいゆえに凶暴なイメージを持たれやすいゴリラだが実際は穏やかで群れの中でも喧嘩をしない思慮深い動物。アントニーの絵本に描かれるゴリラも、子どもの気持ちが立ち直るまでそっと、寄り添ってくれる存在として描かれる

ベーシック絵本入門132P ミネルヴァ書房

この記述により、やはり作品の中でゴリラに父を投影していることがわかった。先述の『うちのパパってかっこいい』も、父親の強さ、優しさをたたえ、こちらでもゴリラにも例えている。

「元ボクサーで体格がよく、怖いと感じることがあった一方で温厚で繊細でまるでゴリラのような人だった」

BOOKEND2020年号

また、この文章からもアンソニー・ブラウンの父親の姿が思い描かれる。

(絵についてのメモ)

絵についてはシュールレアリスム(超現実主義)を用いていると参考図書数冊に書かれていた。私が知るシュールレアリスムの画家と言えば真っ先にダリとシャガールを思い浮かべるが、それとアンソニー・ブラウンの絵は共通するものにも思えなかったが、『森のなかへ』(評論社)を見るとシュールレアリスムという表現があてはまるのかもしれないと感じた。



好きですゴリラ』には、デリケートなイメージの網が複雑に張りめぐらされ、色が孤独や愛、力といったテーマと関連づけられている。

子どもはどのように絵本を読むのか(柏書房)

色が、孤独や愛、力といったテーマと関連づけられているということがどのようなことなのかは考えてみたいテーマだと思った。
『好きですゴリラ』で机に座るハナに父親が寄り添う場面では「ブレスレット状印影」という技法やふたりの人物を真横から描きほとんど奥行きを感じさせない描き方をすることによって宗教画のような特質をつくりだしているとも描かれていた。(『絵本の絵を読む』(玉川大学出版部)より)

(絵本考察)


『好きですゴリラ』も『森のなかへ』も共通して物語のスタートは、父、母の不在である。
不安と孤独を感じさせる広い食卓に離れて座る親子。
『森のなかへ』では父親が不在であり、離れて座る母は全くの無表情。冒頭あらゆるものに「パパかえってきて」と書いた紙がはりつけてある。思いの切実さを感じると共に、アンソニー・ブラウンの背景を知ると余計に胸にせまってくるものがある。
 途中はモノクロームの不気味な森。木が顔のように見えたり、そこここに不思議な動物や何かを暗示するようなものが描かれているのもアンソニー・ブラウンの絵がシュールレアリスムをと言われることに通じるのだろう。

『森のなかへ』は、ストーリーとは別に、「三匹のくま」や「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」などが絵の中に登場してきます。それに気づかなくてもストーリーはわかりますが、知っているとさらに楽しめるようになっているところも魅力のひとつです。

そして『好きですゴリラ』と『森のなかへ』のラストにも共通点が見られます。スタートの不安や孤独を一気に振り払う、温かいラストにほっと胸を撫でおろします。
『森のなかへ』ではお父さんと無事会うことができ、最初と別人のような笑顔の母が帰りを迎えます。
二度と会うことができなくなった亡くなった父への思いがこのようなラストにもこめられているのかもしれません。

(3)感想


テーマはケイト・グリーナウェイ賞でしたが、アンソニー・ブラウンへ感心がうつったため、アンソニー・ブラウンについてのレポートになりました。
このように、一人の作家、ひとつの作品の背景を探り、調べることで、更に深く読み込みができることが楽しさにもつながる。それを子どもの読者に伝える必要はないのではないかと思っていますが、自分が知っていることでより良い選書や伝え方をできるのではないかと考える。

(4)ミッキー語録 印象に残ったことば


【発表する時は1冊だけじゃなく2.3候補を準備する。常にバックアップを用意しておくこと】
【選ぶという行為。1冊選ぶという行為にその人の意思が入る。思考が入る。オーダーの意味を考えて準備する。フォローできる準備をする。】
【自分で図書館いいき借りてくる、1冊選ぶ、どうやって説明するか考える。そのすべてのプロセスが学び。先生は情報を提供するのではない。学びの環境をつくる、トリガー、学びの仕方をつくる】
【クエストとジャーニーの違い。クエストは聖なるものを探す旅】
【多様な受け取りができる作品の深さ、幅があるのか】
【こどもは細部を見る】


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