絵本紹介:絵本探求ゼミ3期②『漂流物』デイビット・ウィズナー
『漂流物』デイヴィット・ウィーズナー(BL出版)
2007年コールデコット賞受賞
この絵本は文字のない、絵だけで描かれた絵本です。
見返しの後、まずは海辺の景色。砂浜で砂を掘っている少年の絵が遠くから描かれています。
次のページはタイトルと献辞。そこには貝殻や流木、鳥の羽、ボトルなど様々な漂流物が描かれていて、期待が高まります。
そして次のページを開くとページいっぱいのやどかりとそれを見ている巨大な目。視点が近すぎてビックリします。一瞬なんの絵なのかわからない驚きは次のページを思わずめくらせてしまうページターナーと言えます。
次の見開きページでは視点が遠くに離れ、砂浜で寝転ぶ男の子が手のひらにのせたヤドカリを虫眼鏡で観察している様子が描かれ、前のページの絵はその手のひらにググっとズームアップしたいたことがわかります。
期待感を高める漂流物の絵
↓
ズームアップした絵
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遠く離れた絵
とたくみに視点を変えることで冒頭の数ページだけですぐに読者に興味と驚きを与え、もっと先を読みたいと思わせるのに充分すぎるほど魅力的です。
その後もコマ割り、ズームアップと絵の技法を生かしながら、少年が海から流れてきて古いカメラを拾ってそのフィルムを現像するところまでが時間の経過を感じさせながら描かれていきます。
さてそのフィルムにうつっていたものとは!
驚きの海の生き物たちの姿でした。機械仕掛けの魚、蛸の一家の団欒、海の中の宇宙人などなど信じられない世界が広がります。
ものがたりは一気にファンタージの世界へ。
そして最後に見た写真には、写真を手に持ちほほえむ女の子。
その写真をじっくりと見ているうちに、少年はこのカメラにまつわるひとつのルールを理解していくのです。
この絵本には絵の技法を駆使して、絵でものがたりを語る魅力がたくさんつまっています。少年が最後に気づいたルールも、誰もが一度は憧れる「瓶の中の手紙」のようでワクワクします。文字がないのに驚くほど豊かに物語が伝わってくるのです。
絵本のカバーをはずすとカバーの絵とは全く違うまるで古いノートか日記帳のようなデザインにエンボスでタイトルと蛸でしょうか?!描かれているというとても凝った仕様になっています。
絵で語るものがたりの楽しさ、読者も想像しながら読む楽しさがたくさんつまった一冊です。
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