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あの日もらった花の名前を、ずっとずっと覚えてる。



冬の夜は、シンとしてる。
冷たい空気は、どんな音もひろってきそうなのに。ひとたび静かになってしまうと、ずっとずっと続いてしまいそうな感覚におそわれる。


そう感じている夜は、いつにも増して、眠りにつくのがゆっくりで。次第に手や足が冷んやりとしてくる。


もそもそと動きながら、あたためつつ、てをのばす。シャリっとした感触は、目当てのもの。手さぐりであけると、中にはいっているものをとりだす。目にあてると次第にあたたかくなってくるアイマスクだ。


ホカホカとしてくると、ふわりと花の香りがした。おそらく、布団にもぐるまえにつけたボディクリームの香り。ほどよくただよう花の香りをすーっと吸うと、思いだすことがあった。



あの時も、眠れないことが多かった。


今よりもずっと薄着で体も冷えていたし、朝起きるのがしんどいくらいだった。栄養バランスを考えてごはんを食べてもいなくて、見るからに元気そうではなかったのかもしれない。


苦笑いしながら、寒くて眠れなくてしんどいななぁって、友達にこぼした日があった。


寒いねっとか、眠れないんだぁとか言うことがあっても。しんどいなぁって弱音まで言ってしまったのは、初めてだったかもしれない。聞いていてくれた友達があの子だったからなんだろう。

友達は、しっかりものなのにおだやかで。ゆっくりと話してくれるし、目を見て話をきいてくれる人だった。ついつい、本音がこぼれてしまったんだろうな。

翌日、眠れないと言ったことなんて、すっかり忘れていた。眠たそうな声でおはようって友達に言うと、あいさつとともに手渡された包み。きれいな紙にくるまれた…プレゼントだった。


すごく驚いて、受けとったままプレゼントを見つめていると。友達は笑って、開けてみてってプレゼントをつついた。

そぉっとシールをはがすと、中から出てきたのは、もこもことしたひつじのぬいぐるみ。


いい香りがするから、眠る時に枕もとに置いてねって、また笑った。ラベンダーの香りだった。


友達は、わたしとさよならした後。そのまま、ラベンダーの香りのひつじさんを買いにいってくれたのだ。眠れないのがしんどいと言った、わたしのために。



目がさめると、カーテンのむこうがわが明るくなっていた。


数時間前つけていたアイマスクは、おでこのとこにあった。時間を確認しようと、もそもそと動くと、ふわりとまた香るラベンダー。


安眠を誘うといわれるラベンダーの香り。
わたしがこの香りを好むのは、何もない日にもらったプレゼントの香りだったから。あの日の友達の優しさがほんとにうれしかったんだ。



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