眠り姫になった君へ
もう目覚めることのない深い眠りについた君
共に“存在を否定されるこの世界”を生きた戦友が死んだ。
私達はまだ大人になりきれない大人だった。
大人のふりをして生きていたから心が子どものままだった。
愛されたい、本当の自分を見てほしい、隠れている辛い私を誰かに見つけてもらいたくて、でも心配かけたくなくて
そんなどうしようもない感情がどんどん大きくなって。
ある日SNSで彼女を見つけた。
言葉の選び方が優しくて儚く尊い、そんな彼女は“死にたがり屋”だった。
言葉に出来ないくらいの感情を彼女は一切表には出さなかった。
SNS上だけが彼女の本当の姿だった。
そんな彼女と私はいつしか共にこの人生を乗り越えていく仲になっていた。
辛いことがあれば一人で何度も薬物に手を出し、時々彼女とも現実から逃れるために薬に溺れながら生き延びてきた。
薬以外にも、真っ当な逃げ方もしてきた。
お金を気にすることなく遊んだ。
カラオケに行ったり、自転車二人乗りで夜の海にも行った。
補導の時間を無視して夜道を歌いながら歩いたり。
辛いことしか見えないほど辛くなったら、楽しいことが見えるようになるまで遊んだ。また生きたいと思うまで、何度でも。
でも、この世界は本当に素晴らしいものなの?
「生きていればいいことがある」
「死んだら楽しいこともできなくなる」
「辛いのは今だけ」
そんなこと、もうどうでも良くなるほどに今が辛かった。
何度生きたいと思ってもまた一人になると死にたくなる。
生きるためには辛いことも乗り越えなければならないだろうが、
そこまでして生きる意味が本当にあるのだろうか。
いつしか私達は乗り越える仲から終わらせる仲に変わっていった。
『もう、終わらせちゃおっか』
私達は十分生きた。
世間で言えばまだまだだろう。まだ20歳にもなっていない。
誰かに頼るとか、命がもったいないとか
きっと色んなことを言われるだろう。
そんなこと望んでいないのにな。
そんなことまでして生きようだなんて最初から思っていない。
この世界に期待をしていなかった。
けれど何もしなかったわけじゃない。
普通になりたくて精神科に通った。色んな人に相談もした。
薬以外の逃げ道を作ろうと努力もした。
でも全部無駄だった。結局私は普通にはなれなかった。
彼女と二人なら何でもできるような気がしていた。
彼女と二人きりの世界ならきっと生きることも辛くはなかったのだろう
と思いながら私達は共に死のうとした。
市販の薬を大量に買い一緒に飲んだ。
遺書も書いた。同じように悩んでいるSNSにいる子達に別れを告げて。
私は目覚めてしまった。
隣を見ると、既に冷たくなった彼女がいた。
彼女がいないこの世界で生きていける自信がなかった。
自分も死ななければ。
SNSにいる私達を知っている人に助けを求め
彼女を追いかけるために追加で薬を数え切れないほど飲んだ。
それなのに、次に目覚めたときは病院にいた。
ああ、私は死ねなかったんだ。
助けを求めてしまったことをひどく後悔した。
家族からは
「生きていてよかった」
「みんな貴方を愛しているのに」
やっぱりな。そんな言葉望んでいない。
ねえ、こんな世界で私生きていけないよ。
一緒に死ぬんでしょ、おいて行かないで。
一緒にまた楽しいことしようよ。
深い眠りになんてついていないでさ、起きてよ。
入院しているとき、警察の人や看護師さん、お医者さん、家族に色んな話をされた。
ICUに運ばれたときも閉鎖病棟に転院したときも
私は明るい子を演じ続けた。
もう彼女は戻ってこない
そんな世界に落胆した姿すら見せることなく。
自分から本心を打ち明けることが苦手だった。
それでも精神科の先生位は、私の心を見てくれるだろうと期待していたけど
自分が変わらなきゃ、SOSを出さなきゃ、だれも気付けなかった。
結局すっかり元気になった私はあの日からたった一ヶ月で退院した。
元気になったとみんなが思っているからか普段通り接された。
「もう迷惑かけないでよね」
「甘えてばっかり生きないで」
「いい加減変わりなさい」
「さっさと働いて入院費返して頂戴」
ああ、なんで私がこうなったとか分かろうともしてくれないんだな。
きっと世界は広いんだろう、
それでも自分の一番近くにいる人が自分の世界に、
未成年の子なんて特に環境を変えるなんて難しい。
ねえ、私はこれからどうしたらいい
貴方のいないこの世界で、
誰も貴方みたいに私の中身を知ろうとしてくれない。
私の本心を包みこんでくれる人は貴方しかいなかったのに。
だからって追いかけようとするのもきっと望んでいないんでしょ、
私が貴方の命を奪ったと自分を責めることも望んでいないんだよね、
だからって生きること、私には難しいな。
貴方と一緒なら何でもできたのに。
ねえ、いい加減起きてよ
貴方のいる世界が全てではないこと、きっとそんなこと知っているだろうけれど、環境を変えない限りは世界を知ることなんて殆どできない。
環境を変えたからって、育ってきたものが貴方を支配することもあるでしょう。この状況から抜け出す方法はそう簡単には見つからず、死んだほうがマシだと思うことも多々あります。
同じような環境の人たちにこの思いが届きますように。
一緒にこの世界を乗り越える戦友になってはくれませんか。
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