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作られた分断:第七部 無関心が生む原発再稼働容認論 その欺瞞にせまる



平成最後の8月。千代田区霞ヶ関の経済産業省前。

昼下がりのきつい西日が差すなか、この日は各省庁の子ども見学デーということもあり多くの親子連れで賑わっていた。

そんななか、経産省の正面玄関前で反原発を訴え、座り込み抗議を行う3人の老年の男女の姿があった。

経産省から次々と出てくるスタンプラリーを首から提げ、陽気にはしゃぐ子どもとそれを微笑ましく迎える母親は好奇の目で彼らを見つめる。
その違和感たっぷりの光景に思わず足が止まった。


「若い人たちは原発を推進する現政権の恐ろしさを知らない。」
「私たちは老い先が短いから大丈夫だけど、私たちの子どもや孫、その先の世代にこの問題(原発)を手渡したくない。」
そう訴える彼らの表情には悲壮感がにじむ。

現政権が「ベースロード電源」と位置付ける原子力発電は、1970年代の石油危機に際して石油を使わずに電気を生み出す方法として採用されはじめた。

北陸電力唯一の原子力発電所である志賀原発(石川県羽咋郡志賀町 2018年9月1日撮影)

燃料を直接加熱しないので二酸化炭素を一切出さないという環境面における優位性、燃料費・発電にかかるコストも抑えられる点などが当時の主力だった火力発電に取って代わる画期的な発電施設であると期待された大きな理由だ。

◎原子力発電が火力発電よりも画期的だとされた理由

①火力発電のように化石燃料を使わないため環境に悪影響を及ぼす二酸化炭素が出ない

②燃料費が安い

③原発を動かすための燃料となるウラン鉱石を比較的治安がよいカナダやオーストラリアから輸入できる(火力発電は石油を使う。そしてその石油資源が豊富な国々は情勢が不安定な中東地域に集中するため価格も流動的。)

ただ、原子力発電はその他の発電方法にくらべ抱えるリスクがあまりにも大きい。

原子力発電は、放射性物質をふくむウラン鉱石を核分裂により冷却水を沸騰させその蒸気でタービンをまわし発電する。仕組みとしてはやかんでお湯を沸かす原理と同じだ。(燃料が火であるか核燃料であるかの違い)

原子力発電のしくみ=日本電磁界情報センターHP(http://www.jeic-emf.jp/explanation/998.html)より

ウランが核分裂を起こすと莫大な熱量と放射線を生み出すので高温になりすぎないよう海水を使って冷却する必要がある。

では、なんらかの形でウランを含む制御棒を冷却できなくなるとどうなるのか。

それは、2011年3月におきた東日本大震災による原発事故によってすでに再現されてしまっている。

事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所は、海水を冷却するための「電力」を震災による送電塔の倒壊で失った(外部電源喪失)外部電源を喪失した原発はここで単独で電力を生み出す非常用電源作動させて制御棒の冷却を試みた。

ところが、地震後発生した10m超の津波が原発敷地内を襲いそれによって非常用電源さえも水没し使用不能になった。

これが当時の東京電力も政府も「想定外」とした全電源喪失という最悪のインシデントだ。

しかし実際は、2006年に国会でこの全電源喪失という最悪の事態の発生を指摘する質問主意書が出されていた。質問書に回答した当時の安倍首相(第一次安倍政権)は答弁書のなかで“我が国の原発で全電源喪失が起きたことはない“という主旨の発言をし実質的に原発の全電源喪失を想定した対策をひとつも講じなかった。

◎2006年12月22日政府答弁書の一部
“我が国において、非常用ディーゼル発電機のトラブルにより原子炉が停止した事例はなく、また、必要な電源が確保できずに冷却機能が失われた事例はない。”
(「衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対する答弁書」 答弁者名:安倍晋三内閣総理大臣 より一部抜粋)

むろん原発は津波による浸水被害を防ぐため防波堤が設置されているが、福島原発を襲った津波は国の想定を越える高さだったため浸水を防ぐことができなかった。

外部電源が失われ、非常用電源も水没。

その結果、冷やされなくなった制御棒(核燃料)の温度は上昇し続け、やがて燃料プール(冷却水)が干上がって制御棒が水面から完全に露出。そして高温で溶け出した核燃料が原子炉を覆う鋼鉄を溶かして突き破り、最終的に水素爆発(原子炉内の水素の圧力上昇により引き起こされる爆発)により地上に核燃料から発生する大量の放射性物質が放出されてしまった。(メルトダウン)

この原発事故により震災から7年半経った現在でも原発周辺に人間が住むことはできない(防護服を着用すれば可能だが‥‥‥)

では、この原発事故の直接的な原因が水没による非常用電源の喪失にあるならば、それさえ防ぐことができていれば起きなかったのか。

答えはNoだ。

なぜなら非常用電源はあくまでも非常用であり、当然限りがある。

仮に水没せず非常用電源が作動し冷却をできていたとしても、非常用電源は長くて1週間程度しか持たないため、それまでに外部電源つまり原発に電力を供給する送電網が復旧しなければ結局たどる道は一緒なのだ。

一方で、東日本大震災で福島第一原発と同程度の揺れと津波に見舞われた宮城県の女川原発は電源がある場所が海面より高く位置していたため外部電源喪失を免れた。 

また、先日北海道胆振地方を襲った大地震のときも道内唯一の原子力発電所、泊原発の外部電源が喪失した。泊原発には大きな揺れが襲ったわけではなかったものの、北海道では発電所の送電システムが1カ所に集中していたためそこが地震により崩壊、北海道全域の大停電(ブラックアウト)に陥った。

ブラックアウトに陥るまでのプロセスは下記の新聞記事に詳しいので参照してほしい。(原理としてはブレーカーが落ちるときと似ている)

2018年9月7日付朝日新聞「北海道ブラックアウト 最大の火力発電所からドミノ倒し」より (画像内にリンクあり)

このとき幸いにも泊原発は東日本大震災以降稼働を停止していたため、核燃料は比較的低温で冷却するための電力が少なくて済んだ。それにより非常用電源を維持できる日数が伸びた。

要するに、泊原発が地震の際稼働していたか否かでは想定されるリスクの大きさが雲泥の差だったということだ。

(専門家や著名な言論人によりすでに指摘済みだが)このとき、「地震のとき、原発が稼働していたら大規模停電(ブラックアウト)は起きなかった」との主張がさまざまなメディアを通して拡散されたが、制御棒を冷却するためには電力が必要なわけで停電すれば当然ながら冷却システムも停止するという大前提を無視した主張であることは言うまでもない。

◎泊原発がメルトダウンを免れた3つの理由

1.原子炉を破壊するほどの揺れが襲わなかった

2.大規模停電による外部電源のショートが予定よりも早く復旧した

3.原発が稼動してなかったため、制御棒を冷やす電力が少なくて済んだ


ところで、津波による浸水被害に限って見るならば、他の原発も海面から高い場所に移せば事故は起きないではないかとの声が出てくるであろう。
が、冷却水を海水から引っ張ってくるため、あまりに標高の高い場所に移動させるのは構造上無理がある。

関西電力は福島第一原発事故後、非常用電源が水没するリスクを避けるため非常用電源の場所を高台に移動する策を講じている。

ただ、原発は潜在的な核戦力にあたるので万が一原発をテロリストや他国によるミサイル攻撃で破壊されれば被害の大きさは福島原発事故どころではないし、震度7クラスの激震が直接原発を襲えば原子炉の破壊も免れない。
地震予知もできず、活断層もどれだけあるか掴めていない以上いつどの原発を激震が襲っても決して「想定外」ではないのだ。

原発は発電効率のよさや環境性の高さにおいては申し分ないものの上記のような長期にわたって人間が居住できなくなる大きなリスクをはらんでいる。

それを知らずして原発の是非を語ることはあまりに危険だ。

経産省前で座り込み抗議をし続ける人たちは、「右翼だからとか左翼だからとかそういったイデオロギーはいっさい関係ない。私たちの子ども、孫その先の世代にこのようなリスクを背負わせたくない。」と語る。
決して「自分たちの安全」のみを考えているわけではないのだ。

あらゆる社会問題を考えるにあたって最も恐いのが無関心であるということだ。

たしかに原発がどういう仕組みで発電し、どういったメリット・デメリットがあるのかを理解するのには時間はかかってしまう。それでも無関心であることがわれわれの生命さえも脅かすことになる以上知らなければならない。
そうすれば、原発再稼働を強行し続ける現政権がどれだけ異常な集団なのかが実感できるようになるだろう。

現政権や経産省はなぜこれだけのリスクを抱える原発を意地でも動かそうとするのか。

それについては、次の機会に譲ることにしよう。

最後に北海道地震によるブラックアウトが起きた際、ホリエモンこと堀江貴文氏は自身のTwitterで「(電気を復旧させるため)今すぐ泊原発を稼働させろ」とのたまっていたが、「スイッチONですぐに稼働するほど原発はお手軽ではありません。」と一言添えておきたい。

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