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④ぶれない音楽への情熱と進化続けるヒット作品創りの力 ~BTS(防弾少年団)の世界的人気の10の理由~

8/21、新曲「Dynamite」がリリースされましたね!
初回記事にも自己紹介にもすでに記載していますが、私は元々Michael Jacksonの大ファンなので興奮冷めやらぬ状態です。

◆ Dynamite [2020]

彼らが世界中で人気・評価されている大きな要因は、ダンスやビジュアルやキャラクターだけではなく、トレンドをふまえて作成される楽曲の質の高さと一貫したBTSカラーの表現があるからだと思います。

1. 初の全編英語詩でいよいよ狙いに来た世界チャート

大衆性のある現代風キャッチーポップスである「Boy with Luv」を超えた、世界で万人受けしそうなヒット曲を今後出すのは、正直相当難しいのでは…、と思っていました。BWLはHalseyとのコラボという大きい後ろ盾もありましたし。

◆ Boy With Luv (feat. Halsey) [2019]

…が!さすが期待を超えてくる世界のアイドル・アーティストBTS。

初の全編英語詞デジタルシングルレトロファンクディスコダンスポップスをこの段階で採用するあたり、英語圏チャート狙いにきている気概を感じますし、ティーンの親世代層へのアプローチにもなりそうです。ラップもK-POPらしいダンス・曲調も抑えめで、ラジオでかかったらK-POPだなんて思わずに、洋楽と勘違いしてリクエストしてしまいそうなので、K-POP無縁だった人々にもするりと受け入れられてしまうのではないでしょうか。

もちろん、皮肉たっぷりのラップ、治安悪めなヒップポップ、キレキレのシンクロダンスも彼らの魅力なので、それを求めているファンは物足りなさを感じるかもしれませんが、今の世界情勢を考えると、底抜けに楽しくて無条件で気分が乗るようなまさに世の中を明るく灯してくれる太陽のような曲調や映像がたくさんの人の心に響くのではないかと思います。

ネイティブではないながら英語の発音もメンバー全員頑張っていて上手ですし、歌い方も「小さい頃から洋楽もたくさん聴いてきたんだろうなあ…」という感じ。リーダーのRMはさすがの発音。
そして、「英語」「韓国語」「スペイン語」「中国語」「日本語」の字幕付きのYoutube公開。少しでもたくさんの国の人へ曲のメッセージを伝えたい思いと、世界を席巻したいという勢いが伝わります。

音楽は、70's~80's前半のソウルトレインなファンク感やその頃流行ったサタデーナイトフィーバーなディスコソング感があり、初期のマイケル・ジャクソン、今でいうとブルーノ・マーズの曲調を思い出します。マルーン5あたりも入ってるかも。とにかく、明るくて軽快でダンスがしたくなるようで、そしてシンガーの声がソウルフルで高めの私の大好きな系統です。

似ていると思う雰囲気の曲を列挙してみます。

◆I Want You Back [1969]- The Jackson5 

明るくて元気になる曲調が同系統。K-POPでは、TWICEもカバーしていましたね。まさか、「①結成当初からの世界視野」の記事に続き再びジャクソン5のリンクを貼ることになるとは感慨深い。。

◆Stayin' Alive [1977] - Bee Gees

「Coz, ah, ah, I'm~♪」 の部分がビージーズのこの曲の「Ah, ha ha ha~♪」を彷彿とさせ、曲を採用した映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のジョン・トラボルタなディスコダンスな振付が採用。

◆Le Freak [1978] - Chic

軽快でファンキーなギターリフがナイル・ロジャース
ダイアナ・ロスマドンナデヴィッド・ボウイジョージ・マイケルデュラン・デュランなどの曲を手がけたことのある名プロデューサーでもあります。

◆September [1978] - Earth, Wind & Fire

誰もが聴いたことがある、EW&Fの名曲。体が勝手に動きます。この曲大好きなので、巨人戦連れていかれるたびに阿部慎之助選手がバッターボックスに入るのをノリノリして待っていた思い出。

◆Don't Stop 'Til You Get Enough [1979] - Michael Jackson

底抜けの明るさとか、演奏とか、ダンスとか、マイケル・ジャクソンの作品の中ではこの曲が一番似ていると思います。

◆24K Magic [2016] - Bruno Mars

どちらかというとUptown Funkの方がぽい気もしますが、ブルーノ・マーズが得意なファンキーな曲調。

CAN'T STOP THE FEELING! [2016] - Justin Timberlake

ジャスティン・ティンバーレイクのこの歌、とにかく笑顔になる作品で好きなんですが、曲の雰囲気もだけど、レトロカーにドーナツショップなど、MVまでどことなく似てる。


ディスコポップな曲調や振付に加え、MVの映像の方も、70'sレトロカーにレトロファッション、80'sのお店の雰囲気やカラフルな色使い、90'sのティーンの部屋やテレタビーズ感(笑)、などなどいろいろなアメリカンレトロ要素が含まれており、そしてメンバーの楽しそうな自然体な表情やダンスに思わず一緒に体が揺れ、笑顔になってしまいます。

80'sポップカルチャー大好物な私としては、ビートルズクイーンデヴィッド・ボウイAC/DC、そしてまさかのアーノルド・シュワルツェネッガー(映画「ターミネーター」)のポスターが飾ってある90'sアメリカドラマに出てきそうなラジカセやキーボードが置いてあるティーンの部屋でJUNGKOOKがマイケルプレスリー風ダンスをし、ワム!(ジョージ・マイケル)ボーイズ・Ⅱ・メンガンズ・アンド・ローゼズなどのレコードが並ぶストアでRMが口ずさみ、BTS全員でファンキーソウルなリズムに乗りながらMJポーズを次々決めてくれる日が20'sにやって来るとは夢にも思わなかった。私も中高校時代、半分くらい同じポスター飾ってましたよ…。JUNGKOOKの部屋の作りは、マイケルのBlack or WhiteのMVで一人で踊るかわいいマコーレ・カルキンを思い出してしまいました。

◇JUNGKOOKの部屋のポスター

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◇『Black or White』(Michael Jackson) の冒頭 と 『Dynamite』 の 序盤

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既視感あると思ったらポーズまで一致…。

『Dynamite』の歌詞に登場する「like a rolling stone」はボブ・ディランの曲(あるいはそのままローリング・ストーンズ)、「move like we off the wall」「we dance to the break of dawn」はマイケル・ジャクソンの曲のタイトルの引用に感じますし、NBA選手のレブロン・ジェームズまで歌詞に登場。序盤・終盤の衣装もバックストリート・ボーイズ'N Syncなどの90'sボーイズバンド風だし、K-POPらしさも得意のラップも抑えて本当にザ・アメリカン…。

◇RMのレコードショップのレコード&歌詞に出てくるレコード

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70's80's90's世代やファンには、MVの中にイースターエッグのように散りばめられたアイテムたちは、まるで宝探しのような楽しみとノスタルジーがあります。
これらの名だたるレジェンドの引用は、往年のスターたちへのシンプルなRespectLikeを感じるとともに、全部いいとこ取り込んでBTS色にして、歴代アーティストを超えてやる!という彼らの挑戦のようにも感じます。
70's80'sあたりのファンとしては、これを期にK-POPしか興味がない世代もあの時代のソウル・ファンクにも関心を持ってもらえたら嬉しいですし、K-POPを敬遠している世代にも彼らの魅力を知ってもらえれば最高です。

YoutubeでMVが公開された2日後現在の時点ですでに1.4億視聴を突破したこの曲、リスナー参加型のリップシンク企画もスタートし、さすが得意のSNS活用も抜かりなし。
韓国発シングル曲としてどこまで英語圏のヒットチャートに食い込めるか楽しみです。日本の「ベストヒットUSA」で取り上げられる日も保守的なグラミーが重い腰を上げる日も現実味を帯びてきました。

Sing 'Dynamite' with me [2020]


全編ステージパフォーマンスの公開はまだですが、ダイナマイトのMVではディスコダンスに加え、MJキックをはじめマイケル・ジャクソンのダンスオマージュがかなり多いことにマイケルファンでない方も気づいたのではないでしょうか。
多くの人にとっては、元気やパワーをもらえるMV公開になったと思いますが、マイケルファンの私は、ちょっと違いました。
世界中のARMYと新曲公開を待ちわび、この動画をカウントダウンから公開と同時に堪能できたのも、『Dynamite』公開より先にBTSに出会いファンになっていたおかげだったという僥倖に、目に見えない音楽の神様の導きを感じ、マイケルのダンスが時代を超えて受け継がれ続けていることを改めて体感し、なんだか目頭が熱くなってしまったのでした。
もちろん、2回目以降の視聴からはノリノリで堪能しています。

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マイケルのレッグキック、内にも外にもきれいに床に180°曲がるのに異常なスピードでこの美しさ。彼の振付をほぼ脳に記憶しているマイケルオタクとしては、ぜひ比較動画作成してみたい…。

(※2020/9/6、作成して追記しました!)


2. 作詞作曲に関わり、自分たちのことを歌うこと

BTSは実に多様なジャンルの楽曲を持っていますが、どのジャンル曲でも、彼ら自身が作品作りに参加し、自国語である韓国語を中心に一部英語も上手に使って等身大のメッセージをのせること、根底にあるヒップホップ&ラップ、そして音楽への強い情熱は初期から変わっていません。そのため「自分たち」のことを歌う歌が圧倒的に多く、彼らがそのときに置かれていた状況や等身大の感情がダイレクトに響きます。
※今回の新曲『Dynamite』はコロナ禍でライブ開催できないどころか普段の生活もままならない人々を明るくするスポット曲なので少し例外ですが、彼らの世界を元気にしたいという思いが伝わります。

メンバーのほぼ全員が作詞・作曲ができます。特に小学生のときから作詞作曲をしてきたRMSUGAを中心としたラップラインのレベルが高い。古いミュージックも、今のトレンドもきちんと勉強している。作詞作曲の経験が多いメンバーから他のメンバーに手解きがされて初心者だったメンバーもできるように成長しており、彼らの才能や努力と音楽への愛情に加え、得意分野の分担がうまく相互作用しているBTSのチームワークの良さの結果でもあります。
すべてが自作曲というわけではなく、作家やプロデューサーともうまく役割分担して楽曲制作に関わっているようです。

ヒップポップはもともと、自身の内面の主張や不満時代風刺をラップに載せて歌うのが特徴で、かたやアイドルはファンを虜にするような甘いラブソングや勇気づけてくれるハートフルな歌や応援歌を歌うのが定番なので、「ヒップホップアイドル」というのは対極の組合せのように感じます。

彼らはアイドル以前にヒップホップが根底にあったため、デビュー時から「自分たち」のことをしっかり歌詞に乗せて歌っています。逆にラブソングは少ない。10代から寮で共同生活をし、厳しい練習と膨大な仕事量をこなし、マスコミに追われ、そしてファンを大切にしてきた彼らにはいわゆる「普通の恋愛経験」をする機会が少なかったせいもある気がして、少し心が痛みます。
そのせいか、彼らが「君」を思う歌を歌っているとき、彼ら自身の恋を歌っているのではなく、ファンであるARMYやメンバーや家族のことを歌っているように聞こえてしまうのは、実際にARMYやメンバーのことを思って歌っているからでしょうか、それとも単なるファンの盲目でしょうか(汗)

Lights [2019]


私の敬愛するMichael Jacksonもラブソングが少なく、彼のスター故の葛藤や内面の叫びアンチやマスコミ対しての非難と怒り差別や環境汚染など社会問題への提言をすべて歌とダンスで数多く表現してきたのが魅力でしたが、BTSも同じく強烈!『DOPE』や『Spine Breaker』や『Silver Spoon』のような現代社会を痛烈に皮肉った歌もいいですが、個人的には下記の曲に登場する歌詞が印象的です(途中略あり)。

アーティストって呼んでもアイドルでもいい
俺は自分が大好き、ファンが大好き、自分のダンスもそれ以外も ~IDOL
数年間の飛行機のせいでマイレージだけでも数十万。
叶えられなかったお前らを慰めるときだ、そのマイレージポイントでプレゼントするよ ~Airplane Pt.2
失敗すると思ってただろうけど元気だよ、ごめんね、ビルボード。ごめんね、世界。息子が売れ過ぎてごめんねママ。代わりにしてあげようか?お前がしなかった親孝行、俺たちのコンサートは空席絶対ない ~MIC Drop
K-POPアイドルとして生まれ再び生まれ変わったアーティスト。俺がアイドルでも芸術家でも何が重要なのか。胸が痛い ~Dionysus
V LIVE、BON VOYAGE、分かってる。好きは止められない。
やめなよMV解釈は後にして。どうせ僕の写真は君の部屋にもたくさんあるだろ?1時間が何だっていうのさ 1-2年だってあっという間 ~Pied Piper

『Pied Piper』なんて耳が痛いですね(笑)

◆Pied Piper [2017] ※ファンの方作成の和訳動画です

BTSの曲は、ストレートな歌詞が多く、比喩的表現は少ないですが、詩的な表現が綺麗だったり、もちろんラップでは韻はうまく踏まれていて言葉のチョイスが上手だと思います。音楽以外の芸術や文学にも造詣が深く引用もあり、一つ一つのフレーズに細かいこだわりを持って制作されているので、ファンが想像力や興味をより働かせられるしかけも上手です。

一般的にウケそうな表面的な甘い歌や応援歌や解釈が難解な歌を歌うことよりも、スターであることの自覚と普通の同世代の男の子としての葛藤や不安、アンチへの怒りを正直にシンプルにさらけ出した作品を普段から多く提供していること、そして歌詞や彼らのメッセージには自己肯定感があり、彼ら自身が普段の言動でそれを体現しているため、甘い歌や元気ソングを歌ったときも嘘っぽくなく素直に伝わりやすく、ファンの心に刺さるのかもしれません。

応援ソング系も、「がんばれ!」や「俺たちがいつもそばにいるよ!」というお約束歌詞でなく、「辛いときは頑張らなくてよい」「自分らしくそのままでいればいい」「僕たちはそばにいけないけどファンを思ってただ歌うよ」という系の歌詞が多いのが、なかなか現代っぽいなと感じます。

何よりやはりメンバーが制作に関わっているので、歌わされている感がなく、メンバーの口から出てきそうな言葉をメロディーに乗せてくれるので、歌の表現も歌詞もすっと入ってくるんですよね。


3. アルバムコンセプトの一貫性と訴求力

彼らの作品の魅力は、アルバムが単なる曲の集合ではなく、しっかりとコンセプトやストーリーに基づいて曲が作られ、練られた世界観ができているところ。
一枚ではなく、複数枚の年をまたぐアルバムで一貫したシリーズものになっているパターンもあります。アイドルはともかくアーティストでも日本でここまでこだわって継続できているグループは少ないと思います。

過去にリリースされたアルバムの詳細や各コンセプトは、HMVの記事が素晴らしくまとまっているのでどうぞ!

『学校3部作』の少年らしさと大人への憧れから、『花様年華』『WINGS』で大人の階段を上る少年たちの青春や儚さや葛藤を描き、『Love Yourself』シリーズでは「自分を愛すること」を起承転結で見事に表現し、現在進行形の『MAP OF THE SOUL』シリーズでは、心の光と影の内なる叫びが込められています。

アルバムの構成や完成度も素晴らしいのですが、このコンセプトシリーズ自体が、10代でデビューして間もない少年たちのエナジー溢れるやんちゃな頃、20代になり大人へ変化することへの戸惑いや仲間たちとの青春、アイドルとアーティストの間での葛藤、海外からの注目度もが上がり、一方でアンチも増える中で自分を愛し自分らしさを貫くことの大切さ、ビルボード1位や記録が当たり前に期待される大スターになり、彼らが得た名声と失った日常という光と影…と、まさに彼らの等身大の時間の経過と成長の表現となっており、作品に訴求力が生まれ、同世代を中心にファンが増えたのだと思います。

また、各シリーズでは、曲のつながりだけでなく、ヘッセの作品やユング心理学からの引用があったり、MVも細かいキャラクター設定伏線など別の楽曲と世界観やストーリーが連動していたり、これがまたオタク心をくすぐり、ファンを惹きつけてやまない魅力の一部となっています。

また、デビューからすべてのアルバムのジャケット写真を見てわかるように、本国アルバムジャケットには一切BTS本人の姿が登場しません。アイドルとしては異例だと思います。ジャケットも含めて作品なので、ミュージシャン・アーティストとしての芸術性のこだわりを感じます。おかげで、アイドルファン初心者でも大変手に取りやすく、部屋のインテリアとしても、スマホのミュージックアプリ再生の映像としても邪魔しないのでありがたい。
ただし、日本版アルバムに関しては興行性を考えてか日本のレコード会社の意向か、ジャケットは彼らの写真がメインになっています…。

日本のアイドルと違うところで言うと、BTSは音楽活動がメインであり、一般のTVバラエティ活動や俳優活動をほとんど行っていないことも、制作作業や練習に集中し、楽曲やパフォーマンスの質の高さを維持できるポイントではないかと思います。
とは言え、『RUN BTS !』というBTSオリジナルの配信バラエティ番組を見ている限り、バラエティの能力が大変高いのも魅力なのですが。。

先日、次のアルバムの制作の会議オンラインで配信されました。彼らの曲作りの姿勢やこだわりだけでなく、性格や立ち位置もはっきりわかって面白いです。次のアルバムも楽しみです!

◆BTS7人の次回アルバム会議 [202004]

やはりRMとSUGAがリードしていますが、プロジェクトを任されたJIMINも頑張っています。"Carry On"がキーワードで、困難な状況でも人生は続くことがテーマとなりそうな次回アルバム。陰の部分が見え隠れする『Map Of The Soul : 7』と違って明るい雰囲気にしたい様子。果たして、伝説の「ラジボララ」は音源化されるのか(笑)!?


4. K-POPを超えたジャンルの多様性とトレンドの研究

以前みた番組で、「曲作りのときに意識していることは?」という質問に対して、SUGAが「興行。売れるかどうかトレンドを研究する」と答えていたことが大変印象的でした。

「売れるかどうかは関係ない、自分たちの音楽をやるだけ」「ファンが求めているものを作りたい」などとアーティストは主張しがちなので、この発言は「俺たちはちゃんと狙ってちゃんと売れてるんだ!」と言い切っているようで大変清々しく気持ちよく感じました。

つまり、彼らの世界進出&成功はBTSおよび所属事務所BigHitスタッフの勤勉な努力綿密な作戦彼らのプロ意識の成果ということ。

アルバム作りの中でも 、プロモーション活動の中心となる「タイトル曲」は、キャッチーな楽曲であるだけでなく、印象的な振付や番組でフル披露できる適度な長さなど、あらゆる面で計算されて作られています。


初期のBTSはヒップホップやラップ色強めです。『学校3部作』ともいわれる作品では、少年らしさと大人に憧れるやんちゃさが曲にも衣装にも表現されています。

Danger/Boy In Luv [2014]

この頃はまだ興行的にはそこまで芳しくなく、次の『花様年華』シリーズで大きく転換を図ります。彼ら自身も転換の1曲に挙げる『I NEED U』がまさにその象徴でしょう。この歌で地上波音楽番組で自身初の1位をとります。

I NEED U [2015]

『花様年華』以降は、徐々にボーカル色が濃くなり、耳馴染みのよいポピュラー曲が増えますが、ヒップホップをやめたわけではなく、表現できるジャンルが広がり、メインジャンルの比重を大衆ポップスに移行しただけで、以降のアルバムにも『MIC Drop』やその他ソロ曲でも主張がはっきりしたラップが強めのヒップホップもしっかり含まれています。

MIC Drop [2017]


これまでリリースされた曲のジャンルは、ヒップポップ、ロック、ポップ、R&B、ジャズ、ソウル、エモ、EDM、ファンク、ラテン、バラード…、雰囲気はストリート系、不良系、キュート系、芸術系、スタイリッシュ系、エスニック系、伝統系、モード系、やんちゃ系などなど多岐にわたり、しっかりその世界観やコンセプトをグループ全体で表現できる力があります。現在も様々なジャンル・ムードの曲にそのときの流行を取り入れながらチャレンジしており、ファンを飽きさせません。かっこいい系、セクシー系、爽やか系といった王道だけでなく、『Anpanman』『GO GO』のようなコミカルなソング&ダンスもなかなか深い歌詞ながらも愛嬌満点かつかっこよくできてしまうのも強みで、この振り幅の広さと大きさで更なるファンを増やしていきそうです。日本の演歌テイストな『おつかれソング』by SOPE(SUGA,J-HOPE)もぜひ音源化してほしいところ。

Anpanman [2017]

おつかれソング by SOPE (練習) [2016]


日本語で発売される日本向け楽曲では皮肉や主張系の歌詞や激しいダンスは抑えて、メロディーもわかりやすくJ-POPっぽく作られており、ダンスよりカラオケ文化な日本に寄せられています。TPOに合わせて作戦が練られていますね。

Stay Gold (日本語曲) [2020]


普通は、同じグループでこれだけ扱うジャンルがばらばらだと一貫性がないように感じ、グループの特徴ボヤけてしまいそうなのですが、作曲に関わっているプロデューサーが同じなこと、本人たちの曲作りに対する変わらぬスタンス作品の方向性の一貫性、表現の幅とスキルが高くグループの個性がはっきりしているので、どんな曲でもBTSの色が主張できています。

また、BTSは元々小さな新しい事務所の初の男性アイドルグループで、2019年に後輩グループがデビューするまで1グループで事務所の看板を背負ってきました。
アーティストやアイドルが多く所属する大きな会社では、各グループにそれぞれ異なるジャンルや得意分野を持たせて売り出す戦術を取るのがセオリーですが、BTSはBigHitという会社が推すたった1つのグループだったことも多岐に渡るジャンルにチャレンジし、表現できるようになった要因かもしれません。

「BTSの音楽ジャンルは、BTSです。BTSがジャンルになればいい」という発言が本人たちから出るのも納得です。


5. 良質な作品に必要な歌唱力と表現力、個性を生かした歌割

結局、どんな良質な歌詞と音楽とビジュアルと振付と物語があっても、それを表現できる歌唱力と表現力があるかどうかがすべて。

全員歌は上手で個性もあり全体的なバランスが良い。
メインボーカルのJUNGKOOKの安定した優しい歌声とセクシーで技巧的なハミング・ハモリ・ハイトーン、リードボーカルのJIMINの甘くてかわいい女性的な高音と印象的なしゃくり・こぶしの表現、Vの魅惑的な深みのある中低音ボイスと広い音域に、JINの透明感のあるまっすぐな歌声…、J-HOPEの明るいラップやスパイスのきいた低音ボーカル、SUGAの投げ捨てるようなクールなラップにメインラッパーのRMの説得力のある力強い重厚な高技術ラップ…と、7人それぞれの個性の詳細は、「③7人の個性と役割バランス」の記事で詳しく記載していますが、現在はデビュー時より全員音域も広がり歌も随分うまくなっていると思います。

メインボーカルのJUNGKOOKとリードボーカルのJIMINのパートは比較的多いですが、歌割は彼らの個性や特徴に合わせて行われています。
K-POP全体に言えますが、一般のアイドルボーイズ・グループにありがちな「全員で合唱」「とにかくハモる」をほぼしないところがアーティストとしての楽曲の質を高めています。

そして、アルバムに収録された歌とステージ上での歌の質がほとんど変わらない凄さ!

DNA [2017]

激しいダンスでこの歌の安定感…。

Mikrokosmos [2019]

歌割が絶妙で好き。掛け声や合いの手もライブならではの魅力。


また、メロディーやキーやジャンルの特徴をうまくメンバーの音域や得意分野に合わせてパート割しているだけでなく、歌詞のパート割もうまいです。自作・自プロデュースの曲が多いからこそできるのだとも思いますが、どのメンバーに歌詞を担当させればよりメッセージが伝わるかも考えられています。
『StayGold』の「奇跡なら僕が見せてあげる」は黄金マンネのジョングクが歌うからしっくりくるし、『DOPE』の「ン?オソワ?」の出だしはRMしか考えられないし、『FIRE』の「ブルタオルネ」や『MIC Drop』のマイクを落とす役割はやっぱりSUGAが適任だなあと思います。

FIRE [2016]


■まとめ

ダンスが揃っていて歌がうまくビジュアルがよいグループは、BTSだけでなくK-POPにはたくさんありますし、日本にだってあります。

が、それだけではない楽曲の多様性と大衆性歌詞のメッセージ性と高い表現力個性の魅力とバランス、そして、彼らの音楽への情熱がBTSを世界的アイドルに導いた要因だと思っています。

次回は、「⑤SNS戦略による宣伝効果と親近感」を公開予定!






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