北東インドのアチャール
北東インドと日本には、発酵食品や保存食を通じて共通する食文化があり、これらは戦争中の交流や研究者たちの努力によってつながりが深まっています。例えば、日本の発酵デザイナー小倉ヒラク氏や国税庁醸造試験所の斎藤和夫氏、シッキム大学のJyoti Prakash Tamang教授などは、インドの発酵食品を研究し、その多様性に着目してきました。日本の納豆に似たナガランド州の「アクーニ」や、古代の発酵技術を残すマニプル州の「イロンバ」など、北東インドのアチャール文化は、日本と共鳴し合う部分も多くあります。
それでは、北東インド各州が育んできた独自のアチャール文化を、地形や特産物とともにご紹介しましょう。
1. アルナーチャル・プラデーシュ州
ヒマラヤ山脈の東端に位置し、豊かな森林資源を持つアルナーチャル・プラデーシュ州。ここでは竹の子(バンブーシュート)が特産品として重要視されており、収穫後に発酵させて作るバンブーシュートのアチャールが主流です。お酢や柑橘使わず揚げた青唐辛子と塩の浸透圧で脱水した筍をマスタードオイルと和えて陽の光の元4−5日置いておく乳酸菌発酵による作り方が特徴である。いわゆる北インドのアチャールのようなスパイス使いはここでは登場していません。使ってもターメリック程度。なるべく山で採れるものだけで作っているような最小限の材料が過酷な山岳地帯の環境で生まれた保存食文化を物語ります。
2. アッサム州
ブラマプトラ川の肥沃な流域に位置するアッサム州では、酸味と辛味が融合した「パニテンガ(Panitenga)」は欠かせない存在です。マスタードシードとガルシニア(南インドのコダヴァ料理で使うカチャンプリと同じ果物)を使い、油を使わずに発酵によって風味を引き出すこの漬物は、酸味とマスタードの辛味が絶妙なバランスを持ち、アッサム料理の食卓を彩ります。パニテンガはご飯やカレーとともに食べられています。日本の発酵食品と通じる部分も多く、異文化間でも親しみやすい味わいを持つアッサムならではの漬物です。見た目はペースト的で、チャトニのようですが、内容物を見るとアチャールというか南インドらしさもあるのでピックルに近いです。
3. マニプル州
マニプル州は豊かな山岳地帯の気候と地形に恵まれ、独特の食文化が根付いています。その中でも「カージンアチャール(Khajin Achar)」は、シンプルながら風味豊かな一品として知られています。
このアチャールは天日で乾かした小さな海老を使い、シンプルなマサラで仕上げられています。使用されるスパイスはターメリック、チリ、ヒング、塩のみと最小限ですが、そのスパイス使いには職人技が光ります。特に揚げたホールチリを崩して加えるテクニックや、にんにくを刻みとペーストの二段階で使用する技法は、シンプルさの中に奥行きと深みを生み出し、思わず食欲をそそられます。
さらに酸味を加える方法にも特徴があります。他の地域ではレモン汁やヴィネガー、タマリンドが使われることが多いですが、このアチャールではアムチュール(ドライマンゴー)が使われています。これは山岳地帯の特性に合わせた工夫とも言え、ドライマンゴーの酸味がアチャールの保存性を高め、山間部での生活にも適した風味を生み出しています。
4. メーガーラヤ州
メーガーラヤ州は「雲の住処」とも呼ばれ、豊かな自然と山岳地帯の気候が育む独特の食文化が魅力です。その中でも「Ashar Sohphie(ソーフィーのアチャール)」は、現地の果実ソーフィーを使ったピクルスで、日本のやまももに似た酸味と甘味が楽しめます。カシ語で「アシャール」と呼ばれるピクルスは、果実にマサラを和えて揚げるシンプルな作り方ですが、この地域のピクルス文化を象徴するのが「モディ・マサラ」の特製ピックルマサラが加えられます。1979年にシロンで創業されたモディ・マサラは、グジャラートから移住してきたハスムク・P・モディが創業し、カシの人々にインドの香り豊かなスパイスを広めました。内戦から逃れたモディ一家はシロンで生計を立てることを決め、祖父の伝統を受け継いでスパイスを取り扱う店を開業。長年にわたり、地域に根付いたスパイス店として成長し、モディ・マサラのスパイスはメーガーラヤ州の料理にも欠かせない存在となりました。風土だけでなく人のストーリーがその地域の料理をユニークなものにするんですね。
(ソーフィーのアチャール)
5.ミゾラム州
ミゾラム州は、インド北東部の山岳地帯に位置し、温暖湿潤な気候に恵まれています。ミゾ・スタイルのバードチリピックルはスーパーシンプルなアチャールです。にんにくとバードチリを乾かして、塩入れずに油注ぐだけ。このレシピでは塩を加えると浸透圧によりチリ香り飛んでしまうのであえて入れない。保存性の観点からは油空気を遮断しているので大丈夫。そして、食べるときに塩をふるそうです。その非常に簡素な材料と製法が特徴であり、土地の風土と気候に根ざした保存食文化を反映しています。自然の恵みを大切にしながら、余計な加工を加えずに作られるこのピクルスは、山岳地帯に暮らす人々の生活に適した一品で、長期保存も可能です。
(バードアイチリ・ピックル)
6. ナガランド州
ナガランド州は丘陵地帯が広がり、発酵食品が発展した地域です。ナガ・フード、ナガ・スタイルと呼ばれるほど特徴的で豊かな料理は現地の人のプライドの一つです。
「アクーネ(Axone)」と呼ばれる発酵大豆のアチャールも有名です。アクーニは、日本の納豆に似た発酵の香りと風味があり、強い旨味と独特の匂いが特徴です。豚肉や魚と一緒に調理されることも多く、発酵大豆の深い風味が料理に奥行きを与え、ナガランドの食文化の代表的な一品となっています。
(豚腸のピックル)
(発酵大豆と豚肉のピックル)
まとめ
北東インドのアチャール&ピックルどうでしたでしょうか。厳しい自然の中で最低限のスパイスを使いながらも発酵大豆などを使った日本人には馴染みのやすい味のある北東インド作り方、アムチュールのみで酸味を追加しドライに仕上げる調理方法など実用的で持続性のある工夫が見られますね。
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