その5

 子どもたちの寝息が響く暗い部屋で、明かりのついた隣の物置から漏れる光で本を読む。上橋菜穂子さんの物語は丁寧に読みたくて、意識のしっかりしている時に少しずつしか進まない。暑くなる前に読み終わるだろうか。
 社会人になってからドラマを見ることが好きになって、心惹かれるドラマを見つけてはワンシーズン楽しむのが習慣になっている。NHKで「精霊の守り人」というドラマを見たことが、上橋さんの書籍に出会うきっかけだった。ちょうど私が結婚した時期で、結婚式で飾る刺繍をする時間を作らなければいけないのに、少しでも手が空くと上橋さんの作品を読まずにはいられなかった。その時の風景と、物語を読みたくてたまらなかった気持ちのどちらも鮮明に覚えている。
 刺繍は結婚式前夜になんとか完成した。お色直しのドレスと同じウエッジウッドのジャスパーカラーの、クロスステッチ 。今も埃をかぶりながら寝室の壁に掛かっている。


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