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今住んでいる街のこと

今住んでいる街(仮にK市とする)にはこの4月に引っ越してきた。
なぜ、この場所に、というのは「縁」としか言いようがない。
そもそもK市に馴染みがあったわけでもない。まぁ、名前は知っているけど。というくらいで。

この街が私の身近になったのは、去年5月に畑を借りたのが最初だ。

4年前、三重県の山あいに、畑や田んぼを貸してくれ、教えてくれる塾がある、と聞いて通い始めた。当時の私はいろいろもじゃもじゃと悩んでいた。仕事や人生に対する自信のなさ、というか。一旦は遠ざかっていたグラフィックデザインの仕事を、細々と再開したは良いけれど、自分のout putに何かピンとくるものがない。小手先で、頭だけでやっているような気がしていた。それはずっと感じていたことで、整体教室に通ってみたり、デザインの仕事から離れてみたり。あれこれやってみるけれど、延々と迷路にいるような、晴れ晴れとしない気分だった。

そうして通い始めたその塾は、土を耕さず、肥料も農薬も使わず、自然に沿った形で農を実践している。そんなふうに自然の中に飛び込んで、継続して深く関わっていくことで何かが変わるんじゃないか、そんなぼんやりした期待があった。

土いじりなんかしたこともなかったけれど、竹藪だらけのまるで原野のようなところを開拓するところから始めた。やり始めると無になるというか、別に楽しくないけれど、夢中になってやってしまう。今のこんな暑い時期には、信じられないくらい汗だくだくになって、体はへとへとになる。でも、一休みしているときに感じる一陣の風がどれだけ気持ちいいか。草刈りをしていると刈られたばかりの草がなんてさわやかないい匂いを放つか。なんだか止められなくなって月1回の集合日には必ず行った。夏場は集合日以外にも草刈りに行った。

でも家から3時間かかるのだ。あまりにも遠い。もっと家の近くに、せめて週1回通えるような場所に自分の畑を借りれないかなぁと思い始めたときに、今のK市の畑を紹介された。それでも家から1時間半かかったが、私はなぜか迷わず「借ります」と言っていた。

不思議なことに、畑を借りることにしたのと同時に、行きつけの美容師さんがK市に住み始めた。お互いに「エーっ!」となった。
そういえば、それより前、気に入っていた飲み屋のマスターが、店を畳んでK市に新しく店を構えることになったというので訪ねていったことがある。思えばそれがK市とのつながりの最初だ。

だからもう、昨年末から引越しを考え始めたときに、K市というのはとても自然な流れで好きも嫌いもない、という感じだった。

特に思い入れもなく住み始めたこの街。
昭和の香りのする商店街が駅前から伸びている。八百屋、果物屋、小間物屋。刃物研ぎ屋まである。
これが、寂れていないのだ。すごく繁盛しているとは言えないまでも、いつ見ても誰かしらお客さんがいる。駅前にスーパーもデパートもあるのに。
果物屋であんずを手に取れば、「それおいしいよぉ、皮のところは鉄分豊富なんだって。お客さんに教えてもらったわ」とお店のおばさん。
小間物屋で風呂のフタを買おうとすれば、「奥の売れ残りのほうが安いからそっちにしたら?歩いて持って帰るん?」と手際よく持ちやすいようにひもで結んでくれる。
こないだの日曜日には「百円商店街」なるものが催され、綿菓子やフランクフルトの出店があったりして、子供たちがわらわらと集まって賑わっていた。

私はこの街がだんだん好きになってきている。

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