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【SLOWP連載③】風に吹かれ、自分と街を見つめなおす。雑木林を切り開いた先に広がる景色と未来

この記事は株式会社SNARKが運営するフィールド型ショーケース「SLOWP」について、合同会社ユザメ様に取材いただいた連載記事の三本目(最終回)となります。初回、二本目の記事は下記にご紹介しておきます。

「小屋」という建築や、この土地ならではのイベントを通して新たな暮らしを提案しているSLOWP。さまざまな人や植物、生き物が集まり、自然と向き合うことで自分を見つめ直す……そんな人にも環境にも開いた場所としてスタートしました。

SLOWPがあるのは、高崎市片岡町、護国神社から観音山の山頂方面へ伸びる道路「羽衣線」沿い。実はもともと、この場所は1メートルを超える雑草と木々が生い茂る雑木林でした。

では、どうしてそんなエリアを活用することになったのでしょうか。きっかけになったのは、ワークショップで生まれた一つのアイデアでした。

「年に一度、SNARKの社員全員でおこなうワークショップで、”新規事業を考えてみよう”というものを実施したことがありました。その中で、お子さんのいる社員から『子どもたちが集まったり、ワークショップを開催したりする場所ができたらいいね』という話が出て。当時、片岡町のこの場所の使い方をちょうど検討していたところだったので、それならここで実現できるのではないか、と考え始めました」(小阿瀬さん)

その土地の「数値化できない価値」を見る

この土地を活用する、ということはひとまず決定。次に考えるのは、具体的にどんな場所を作るのか。その構想が始まったのは2021年のことでした。まず最初に考えたのは、小屋をつくり、それを展示するためのショールームを兼ねた公園のようなものを作ること。ただ、小屋を建てるまでには、さまざまなハードルがありました。

「急斜面であることに加え、そもそもSLOWPの土地自体が土砂災害警戒区域になっているので、厳しい制限がかかっているんです。その中でどのようにして平地を整備し、人がいられる場所を確保するか。それを考えるのに最も時間がかかり、許可をもらうまでに3ヶ月くらいかかりました」

当初の計画と模型

土地にも造成にも制限がかかる中で、自分たちの構想をどのように形にするか。模型を使って何度もシミュレーションを繰り返しましたが、造成が始まると、模型ではわからなかった「余白」の必要性を感じるようになったのだそうです。

「SLOWP全体は、建物の配置を工夫することで屋外の居場所を作っているのですが、想定していたよりもかなり端まで建物を寄せることになりました。シミュレーションの段階ではもう少し内側に建てる予定でしたが、実際に造成してみたら、人の居場所となる空間があまり取れなくなってしまったんです。狭すぎると通路みたいになってしまって、自分たちが想定するような使い方はできないと思ったので、造成しながら配置を調整していきました」

造成の説明をする井上さんと小阿瀬さん

普段は平らな場所に建てることが多く、土地から作る経験はなかったという小阿瀬さん。規制も多いため、過去手がけてきた場所の中でも、難易度が高かったと言います。しかし、街から離れた自然豊かな場所だからこその価値があるとも語ります。

「片岡町以外にもたくさんあると思いますが、こういう場所って、造成や給排水などを考えると不動産としての価値が見出されにくいところがあります。ただ、自然が豊かだったり、見晴らしがよかったりと、数値化できない価値が多くあると思うんです。魅力的な場所を探すときには、数字以外のものさしを持っていたいですよね」

変化とともに、等身大で生きるということ

そうして完成したSLOWPに建つ小屋たちは、ひとつひとつの建築としてのバリエーションも光ります。たとえば、トイレ、シャワーなどのある「view」は、外から見えないよう閉じられた空間に。ワークショップやキッチンスペースとして使用できる「build」は、公に開いた空間となるよう、ガラス張りにしています。

大きなガラス窓を開けると縁側のような姿になる「build」

通常の住宅では、1つの建物の中にリビング・トイレ・お風呂・寝室など、さまざまな用途を間仕切りながら
組み込む必要があり、どうしても複雑なつくりになってしまいます。しかし小屋は用途を絞ることで、1つの作り方で完結して建物を完成させることができるのです。小屋のもつ建築としての面白さは、この「作りの明快さ」にあると言います。

「『build』は、木の柱・屋根・ガラスの壁という要素だけで小屋一つが自立してできています。普通の住宅ではありえないほど少ない要素で構成されているんですよね。それによって、小屋の作り方を用途だけで決めることができるんです。作りが簡単なので、住宅にはない工夫も可能です」

その時のニーズに合わせてカスタマイズできる小屋という建築、街から離れた静かな住宅街というエリア。この組み合わせは、私たちが私たちのままで暮らすためのヒントを与えてくれます。

そして、フィールド型ショーケースであるSLOWPそのものも、人々に使われていく中で発展を続けます。「SLOW DOWN, VIEW YOUR LIFE. /自分らしさに想いを馳せる、なだらかな時の丘」。この場所を起点に生まれる出会いやアイデアは、丘に心地よく吹き抜ける風のように広がり、私たちの背中を押してくれることでしょう。

以上で合同会社ユザメ様による連載は終了となりますが、今後2023年9月10日に開催された「SLOWP OPEN DAY」でのトークショーの様子もアップ予定がありますので、ご覧いただけますと幸いです。
引き続き、SNARKとSLOWPにご期待ください。



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