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ギャラリーオーナーの本棚 #5 たった一節の文章がつなげてくれること 『アルケミスト 夢を旅した少年』

偶然の重なりから出会った一冊


『アルケミスト』は、一介の羊飼いの少年が、宝物とピラミッドを目指して旅を続けるうち、様々な人との出会いや経験を通して成長し、たくましくなり、偉大な力を手に入れるまでを描いた冒険物語。ブラジルの作家パウロ・コエーリョの人気作です。(訳書は角川書店より出版)

あるアーティストをインスタグラムでフォローしていたら、その人の描くキャラクターがこの本を読んでいるという設定があって、興味が沸いたのですが、その後間もなく友人から、この本で読書会をやるから参加しないかと誘っていただき、読んでみることに。
そして読んでみると、企画中の展覧会のコンセプトにつながりもあり、偶然に偶然が重なったというわけです。

ただ、この物語、比較的うすめの文庫本だったのですぐに読めるかと思ったら、意外に難航しました・・・。

というのは、設定がいささかファンタジー過ぎて、なかなか物語に入っていけなかったのです。たとえば「預言者」とか、「賢者の石」とか、「大いなる魂」とか・・・これは好みの問題(こういうのが好きな方、ごめんなさい)。
それでもがんばって読んでいると、物語に散りばめられたメッセージに、時々ハッとしたり、深く頷くところがありました。あくまでも私が「メッセージ」と受け取ったものなので、物語の主要なエレメントとは限りませんが、3つほどご紹介します。

前兆・強い望み・中心をつくること


まずは「前兆に従うこと」
お話の中では前兆は神に与えられることになっていますが、前兆に気づくのは本人なので、周りで起こる物事をしっかりと見て、それが自分にとって何を意味するのか判断しなさいということなのでしょう。

2つ目は「おまえが望めば、宇宙のすべてが協力してくれる」
まぁ宇宙のすべては言い過ぎとしても、人生はある程度望んだ方向に進むものです。自動車を運転している時、進みたい方向に視線を移すだけで車はそちらへ向かっていくように。
望みがあるから行動が生まれ(これは先日ある人から言われた言葉)、協力者が現れる。望みが強いほど、協力者も増えていくはずです。

3つ目は一番心に刺さりました。
「何をしていようとも、この地上のすべての人は、世界の歴史の中で中心的な役割を演じている。そして、普通はそれを知らないのだ」
これを読んだ時、ちょうどGallery Pictorの2022年のプログラム《中心はどこにでもあり、多数ある》を構想している時で、そのコンセプトとこの一文がリンクしました。
そのコンセプトで私は、「この世界ではたった一つの司令塔のような制御の中心があるのではなく、すべてのものが中心となり得る。地上のすべてのものが主体にも客体にもなり得て、互いに関係し合うことで現実をつくっていける」と書いていました。この文章は『アルケミスト』を読む前に書いたものです。

たった一節の文章がつなげてくれること


物語の設定上、入りにくいところがありましたが、一文でもハッとする文章があると、その本を読んでよかったということになります。

先日もふとした会話から、ある本の一節を思い出して、相手の方に共有したのですが、ずいぶん気に入っていただいて、その人がまた他のお知り合いに共有したいと言われました。その方がどんな方なのかも分かりませんが、何かお役に立てているといいなと思います。20年も前に読んだ本の一節を、私もよく覚えていたものだと、少しだけ得意になりました。

『アルケミスト』で言うと、先ほどの3つ目の文章は、この先も心に浮かんできそうな気がしています。

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