私/会社員ライター

しがない会社員ライターによる読書・エンタメ鑑賞の記録

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  • 会社員ライブラリー

    読んだ本の書評をアップしています。基本的に幅広いジャンルを読むように心がけていますが、文学、エッセイ、評論など、人文系の書籍が多めです。

  • ナナシス観測記

    スマートフォン向けリズム&アイドル育成ゲーム「Tokyo 7th シスターズ」(ナナシス)のエピソード解説やライブ、イベント感想など

  • アニメの話

    深夜アニメを中心にレビューを綴っています。記事の目標は「おもしろい」「素晴らしい」などの感想はもちろん、「どういう作品なのか」「どういうメッセージが込められているか」など、作品の位置づけや新たな発見、着眼点を言葉で表現することです。

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【アニメ】「正義」と「悪」を捉えなおす――『戦隊大失格』

 1975年放送の『秘密戦隊ゴレンジャー』を皮切りに、現在までに48の作品が制作されている「スーパー戦隊シリーズ」。作品ごとにモチーフや作風の違いはあるが、いずれも男女複数人で構成される戦隊ヒーローが、社会を脅かす悪の組織と戦うという展開が代々踏襲されている。  約半世紀もの間、こうした勧善懲悪の物語が支持され続けているのはなぜか。それは、正義のヒーローが悪を懲らしめるというストーリーが、(特に幼少期の)視聴者の爽快感やカタルシスを喚起する最も大きな要素であるからに他ならな

    • 【書評】世界は「編集」でできている――『知の編集工学』

       動画編集、画像編集、雑誌編集……。「編集」という言葉には、どこか職人気質なイメージが纏わりついていると感じる。実際に『広辞苑』で「編集」の頁を引いてみると「資料をある方針・目的のもとに集め、書物・雑誌・新聞などの形に整えること」とある。  つまるところ、編集とは新聞や書籍や雑誌、映画やテレビや動画といったメディアをつくる一連のプロセスを指し、そのスキル(編集力)は記者や編集者、テレビマン、クリエイターといった特定の職業にのみ求められるもの――。そう思ってはいないだろうか。

      • 【書評】融通無碍な書評――『経営読書記録 裏』

         読み手から見た「書評の価値」として、本を選ぶための判断基準となる点が挙げられる。  総務省統計局が実施した調査によると、2022年中に発売された新刊出版物の数は約6万6000冊にのぼるという。ちなみに21年の出版点数は6万9000冊、20年は6万8000冊、19年は7万1000冊だったそうだ。  毎年6~7万冊、4年間で24~28万の書籍が世に出回るのだ。自分の知的好奇心を満たしてくれる「面白い」本に出合うのは容易ではない。「面白そう」と手に取って読み始めても、「そうで

        • 【書評】「読みたくなる」書評集――『経営読書記録 表』

           著者は一橋ビジネススクール特任教授を務める経営学者。専門は競争戦略で企業が長期的に利益を生むための経営戦略、ビジネスモデルの研究を生業としている。『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』『逆・タイムマシン経営論』など、経営専門書を多く上梓している一方、書籍解説や雑誌の書評連載も多く手がけている。  本書は著者がこれまでに公開した書籍解説、書評を1冊にまとめたものだ。経営学者ということもあり、紹介している書籍はビジネス書が多めだが、なかには歴史書や伝記、ノンフィクシ

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        【アニメ】「正義」と「悪」を捉えなおす――『戦隊大失格』

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          【書評】「純粋さ」ゆえの「異常さ」――『とんこつQ&A』

           ほのぼのとした表題。白を基調にしたポップな装丁。その牧歌的な印象に引きずられ、ハートフルな物語を期待して読み進めれば、きっと痛い目を見ることだろう。本書に収録されているのは、いずれも不気味で背筋が寒くなる作品ばかりだから。  表題作『とんこつQ&A』は「とんこつ」という名前のラーメン屋が舞台。店主である「大将」と大将の息子(「ぼっちゃん」)の2人が切り盛りする店に、ある日アルバイトを志願する「わたし」が訪れる。お客と満足にコミュニケーションが取れないわたしは、『Q&A』と

          【書評】「純粋さ」ゆえの「異常さ」――『とんこつQ&A』

          【書評】繊細な心理描写と「覆る」快感――『ツミデミック』

           文学作品には作者の個性や感性が多分に反映されている。いわゆる「作風」と呼ばれるものだ。コメディーが得意な作者がいれば、シリアスな展開に定評がある作者もいる。作風は作者によって千差万別。それゆえに、自分の趣味嗜好とマッチした作者、作品と出会ったときの快感は、形容しがたいものがある。一穂ミチ『ツミデミック』がそうであったように。  本作は、新型コロナ感染症に翻弄された人物を描いた短編集である。2020年に大流行した未曽有の感染症は、私たちの生活を一変させた。本作はそうした生活

          【書評】繊細な心理描写と「覆る」快感――『ツミデミック』

          【書評】語り手の「おかしさ」を察知できるか――『むらさきのスカートの女』

           近所で有名な「むらさきのスカートの女」。頬にはシミが浮き出ており、肩まで伸びた黒髪はツヤがなくてパサパサしている。いつも紫色のスカートを穿いているから、いつしかこの呼び名が定着していた。本作はそんな「むらさきのスカートの女」を軸として描かれる「何かおかしい」物語である。  本作の語り手は「むらさきのスカートの女」ではない。彼女と友だちになりたいという「黄色いカーディガンの女」の視点で物語が進んでいく。  語り手は「むらさきのスカートの女」が仕事を探していること、就職活動

          【書評】語り手の「おかしさ」を察知できるか――『むらさきのスカートの女』

          【ナナシス】10周年の青空に飛び込んで――「DIVE TO YOUR SKY!!」雑感あるいは決意表明

           8月17日、18日の2日間、幕張メッセイベントホールで開催されたTokyo 7th Sisters LIVE「DIVE TO YOUR SKY!!」に参加してきました。  10年の節目で開かれる今回のライブでは、10年という長いようで短い時間を通じて磨いてきた音楽性と演出が、全体を通して発揮されていたように感じます。 メドレーライブという新機軸  ナナシスはこの10年間で170超の楽曲をリリースしました。170という数字を直視するたびに、あらためて10年という時間の重

          【ナナシス】10周年の青空に飛び込んで――「DIVE TO YOUR SKY!!」雑感あるいは決意表明

          【書評】ニュートラルな視点で世界を見つめる――『成瀬は信じた道をいく』

           完全無欠で唯一無二――。あの成瀬が帰ってきた。本作は昨年3月に出版された『成瀬は天下を取りにいく』の続編である。 『成瀬は天下を取りにいく』は滋賀県大津市在住の中学生・成瀬あかりとその周囲の交流を描いた短編集で、発売からわずか1年で10万部を突破。「2024年本屋大賞」をはじめ、第20回「女による女のためのR-18文学賞」で大賞・読者賞・友近賞、「BOOK OF THE YEAR 2023」(ダ・ヴィンチ)で小説部門第1位を受賞するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで支持

          【書評】ニュートラルな視点で世界を見つめる――『成瀬は信じた道をいく』

          【書評】「天下を取る」少女の物語――『成瀬は天下を取りにいく』

           成瀬あかりは“浮世離れ”した人間である――。物語に触れるなかでそんなイメージが沸き上がってきた。  本作は滋賀県大津市の女子中高生・成瀬あかりと、その周囲の交流を描いた連作短編集で、一つのエピソードを除いてあかりに関わる他者の視点で物語が進んでいく。  文学作品である以上、主人公が人間であるのは言うまでもない。とはいえ、本作で描かれている「成瀬あかり」という人物の一挙手一投足をみる限り、思わず人間離れした印象を抱いてしまうのだ。  例えば、閉店を間近に迎えた西武大津店

          【書評】「天下を取る」少女の物語――『成瀬は天下を取りにいく』

          【書評】一方通行化する「言葉」への警告――『東京都同情塔』

           東京2020オリンピック・パラリンピック大会のメイン会場に使用された新国立競技場。その目と鼻の先にある新宿御苑に、70階建ての高層建築物が屹立している。通称「シンパシータワートーキョー」。東京スカイツリーや東京タワーのように、都会のシンボルとして大衆の耳目を集めているが、実態は犯罪者を収容する刑務施設である。  もちろん、私たちが暮らす日本にはこのような施設は存在しない。実際の新宿御苑は四季折々の自然に間近で触れることのできる、風光明媚で静穏な自然公園だ。  そう、本作

          【書評】一方通行化する「言葉」への警告――『東京都同情塔』

          【ナナシス】音楽の本質をいかにして取り戻すか――『EPISODE.KARAKURI』と『EPISODE2053』

           2024年5月7日、EPISODE2053の新エピソードが公開された。Stella MiNEにフォーカスした物語(『星に手が届くなら』)で、アイドル候補生として活動する星影アイと月代ユウの一挙手一投足が描かれている。  この話の感想は別記事(「特別なオンリーワン」になることの非情さ――EPISODE 2053 SEASON3-001『星に手が届くなら』)に記したのでここでは触れない。今回触れたいのは「EPISODE.KARAKURI」である。2017年に公開されたエピソー

          【ナナシス】音楽の本質をいかにして取り戻すか――『EPISODE.KARAKURI』と『EPISODE2053』

          【ナナシス】「特別なオンリーワン」になることの非情さ――EPISODE 2053 SEASON3-001『星に手が届くなら』

           2002年にリリースされたSMAPの「世界の一つだけの花」は、競争社会に疲弊した人々に寄り添う楽曲として一世を風靡した。「ナンバーワンにならなくてもいい」「もともと特別なオンリーワン」など、存在そのものを肯定する歌詞が多くの人を勇気づけたようで、シングルCDの売り上げ枚数は300万枚を突破。日本のオリコンシングルチャートで歴代3位にランクインしている(24年8月現在)。  このように、「世界に一つだけの花」が社会に与えた影響は絶大で、それを否定するつもりは毛頭ない。が、こ

          【ナナシス】「特別なオンリーワン」になることの非情さ――EPISODE 2053 SEASON3-001『星に手が届くなら』

          【ナナシス】それでもAsterlineは「誰かの背中を押す」――『EPISODE2053 SEASON2』

           とある映画の撮影で訪れた孤島での夜。満天の星空の下で、奈々星アイは「Asterline」らしさについて模索していることを支配人に告げる。アイドルでいるために無理をするのは違う。自然と誰かの背中を押せる、そういうのが私たちらしいのではないか――と。  これは『EPISODE.2053 SEASON2-003「バックステージ」』第4話での一幕だ。ある「若手映画監督」から映画出演のオファーを受けたアイは、一ノ瀬マイと朝凪シオネ、支配人とともに孤島へと向かう。島では多くのトラブル

          【ナナシス】それでもAsterlineは「誰かの背中を押す」――『EPISODE2053 SEASON2』

          【ナナシス】つながりの拡散と途絶――EPISODE 2053 SEASON1-006『スター・ライト』

           EPISODE.2053 SEASON1-006「スター・ライト」にはアイドルどうしの"バチバチ感"が終始漂っている。「Asterline」の奈々星アイ・一ノ瀬マイ・朝凪シオネ、「LuSyDolls」「RiPoP」の恋渕カレン・一ノ瀬ミオリの間には、「切磋琢磨」という爽快感あふれる言葉では説明しきれない、異様な関係性がみられる。  それは777☆SISTERSにとっての4UやKARAKURIのような「ライバル」ではなく、AXiSのような「エネミー」でもない。お互いに研鑽を

          【ナナシス】つながりの拡散と途絶――EPISODE 2053 SEASON1-006『スター・ライト』

          【ナナシス】「つながり」が生み出す思考変容――EPISODE 2053 SEASON1-005「星屑のアーチ」

           前回の記事では『EPISODE 2053 Roots.』の背景にある「競争社会」の功罪を整理し、消耗や疲弊を乗り越えるための戦略として、利得から切り離された「つながり」の重要性を述べた。 「Roots.」はメンバー入りを賭けた候補生どうしの熾烈な競争、エンタメ業界でより多くの収益を得るための「商品」としての競争――の2種類の競争にさらされている。このミクロ、マクロレベルの競争は候補生のスキルアップに寄与する一方、精神的な疲弊や対人関係の悪化といった負の効果ももたらした。

          【ナナシス】「つながり」が生み出す思考変容――EPISODE 2053 SEASON1-005「星屑のアーチ」