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【ナナシス】「特別なオンリーワン」になることの非情さ――EPISODE 2053 SEASON3-001『星に手が届くなら』

 2002年にリリースされたSMAPの「世界の一つだけの花」は、競争社会に疲弊した人々に寄り添う楽曲として一世を風靡した。「ナンバーワンにならなくてもいい」「もともと特別なオンリーワン」など、存在そのものを肯定する歌詞が多くの人を勇気づけたようで、シングルCDの売り上げ枚数は300万枚を突破。日本のオリコンシングルチャートで歴代3位にランクインしている(24年8月現在)。

 このように、「世界に一つだけの花」が社会に与えた影響は絶大で、それを否定するつもりは毛頭ない。が、ことナナシス、特に「EPISODE2053」に関して言えば、「オンリーワン」と「ナンバーワン」は二者択一ではなく、順列の関係にある。

 すなわち、「オンリーワン」になるには、「ナンバーワン」にならなければならない――。『星に手が届くなら』で描かれているのは、そんな冷酷かつ非情な事実である。

スターダムの影にある非情な現実

 『星に手が届くなら』は、Stella MiNEの2人がスターダムにのし上がるまでのプロセスを描いた物語だ。
 
 あらすじは次のとおり。Stella MiNE結成後、芸能事務所に入所し「ネクストワンダー」のメンバーとして本格的にアイドル活動に携わるようになった星影アイと月代ユウだが、この事務所では所属アイドルが減ってきており、メディアへの露出も少なくなるなど、落ち目のアイドルとして世間から目されていた。そんな中、ネクストワンダーに舞い込んだ番組出演のオファー。アイとユウは捲土重来と言わんばかりに番組で爪痕を残し、トップアイドルへの階段を駆け上がっていく――。

 本エピソードを二つの視点から切り込んでみたい。一つは「勝者」の視点。本エピソードでいえばStella MiNEの視点だ。そしてもう一つは「敗者」の視点。後にTokyo-07を席巻するユニット、LuSyDollsの視点である。

 当初、Stella MiNEを見つめる世間の目が冷ややかだったのは既述のとおりだ。ネクストワンダーにオファーがあった番組も、彼女らに引導を渡すことが本来の目的。新時代のアイドルとして耳目を集めているLuSyDollsと共演させ、世代交代を印象づけることが制作側の狙いだった。
 
 趣旨を察知した2人は「評判を吹き飛ばす」ために、番組をジャックすることを企てる。この目論見は見事成功。出演者・裏方ともに2人のパフォーマンスにくぎ付けとなり、世間にStella MiNEの存在を印象づけた。いわば、LuSyDollsとの競演に“勝った”のである。
 
 その結果、2人に何がもたらされたのか。それは冠番組への抜擢である。この番組は当初LuSyDollsをメインにキャスティングしていたが、Stella MiNEの活躍によってその座が入れ替わったのだ。
 
 一方、競演に“敗北”し、はしごを外される形となったLuSyDollsは、Stella MiNEの後塵を拝するユニットとして雌伏の時期を長く過ごすことになる。のちにRiPoPとして活躍する恋渕カレンが星影アイを目の敵にする理由がここにある。この因縁が、のちのAsterlineとの物語に絡み合っていく。

 このように、Tokyo-7thのアイドルたちは一つのパイを奪い合う過酷な競争にさらされている。勝者と敗者が瞭然となるゼロサムゲームに、繰り返し参加することを余儀なくされ、勝負に敗れた者は「敗北者」として容赦のない仕打ちを受けてしまうのだ。番組出演権の付与と剥奪が容易に行われたことが、まさにTokyo-7thのアイドル業界がこの論理に立脚していることを証明している。

 メインの座を奪われたLuSyDollsが、この後どのような処遇を受けたかは具体的に描かれていない。救済措置があったのか、それとも、何の手当てもなかったのかは憶測の域を出ることはない。しかし、Stella MiNEとの邂逅によって、飛ぶ鳥を落とす勢いだったLuSyDollsの活躍に水が差され、アイの脱退という形でStella MiNEが解散(休止?)するまで2番手のポジションに甘んじていたことは、すでに配信されているエピソードで明らかになっている。

 一方、番組での活躍がきっかけで、Stella MiNEはスターへの階段を一歩ずつ、着実に駆け上がることになる。ヒットチャートの記録を連日塗り替え、ドーム公演を成功に収める、まさにカリスマユニット。その足元にはさまざまなアイドル、少なくともLuSyDollsの敗北が横たわっている。

Tokyo-7thという街の問題

ユウ「私は、私たちを世界が無視できない存在にしたい」
アイ「え?」
ユウ「特別な存在だって、わかってもらう」

『星に手が届くなら』第3話

 これまで見てきたように、Stella MiNEはLuSyDollsを圧倒し、スターダムへとのし上がっていった。しかし、アイもユウも、決してLuSyDollsを目の敵にしていたわけではなく、あくまでも自分たちの目標を達成するべく、行動に移したに過ぎない。

 その目標が、「世界が無視できない特別な存在になる」というもの。言ってしまえば、Tokyo-7thで「オンリーワンになる」ということだ。

 ここにTokyo-7thのアイドル業界が孕む、冷酷かつ非情な現実が垣間見える。すなわち、熾烈な競争に勝たなければ特別な存在になれない構造。換言すれば、「オンリーワン」になるには「ナンバーワン」になるしかない、という現実だ。

 この構造はStella MiNEに限らず、Asterline、Roots.、RiPoPをめぐるエピソードからもうかがえる。特に色濃く描かれているのが「EPISODE Roots.」だ。

 Roots.はオーディションを通じてメンバーが選抜されるため、候補生にはさまざまな課題が与えられ、その課題をクリアできなければオーディションから脱落してしまう。事実、Roots.のオーディションでは多くの候補生が脱落していった。なかには、アイドルになるという夢を粉々に粉砕され、オーディションを去る候補生の姿も描かれていた。オーディションで「ナンバーワン」(厳密にはナンバーn)になれなければ、Roots.という「オンリーワン」になれないというわけだ。もっと言えば、「ナンバーワン」になる競争に敗れれば、「オンリーワン」になる権利すら失ってしまうのだ(そういう意味では、ハヤオンニ=アリナ・ライストの再起は「ナンバーワン」になれなくても、「オンリーワン」になれるという可能性を示唆しているように感じる)。

 本エピソードに話を戻そう。Stella MiNEが自分たちの目標として掲げた「世界が無視できない特別な存在になる」。しかし、その道のりは決して平たんではなく、むしろ、他者との熾烈な競争に勝ち抜かなければ、その目標は永遠に達成されない。相手を引きずり落とし、苦杯をなめさせなければ、「オンリーワン」にはなれないのだ。

 『星に手が届くなら』で描かれているのは、「ナンバーワンにならなくてもオンリーワンになれる」という温かさとは対極の競争社会の実相、そして、Tokyo-7thという街が孕んでいる冷酷さである。

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