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記憶の中の物語、記憶のような物語

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随想、或いは、私小説と呼ぶのが一番近いかもしれません。 でも出来れば、物語と呼びたい。
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#随想

淡い憧れだけで

 中古の小さな鍵盤は、四千円もしなかった。  ハノンの楽譜は千円ちょっと。表紙には「大人…

清水はこべ
3か月前
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父の一周忌に寄せて 『銀雨の星 〜♭4 self cover 2023 〜』

「この歌、何だか、お父さんを思い出した」  私が作詞で参加した、なおがれさんとの共作オリ…

清水はこべ
10か月前
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今更のご挨拶 〜清水はこべのプロフィール〜

そう言えば、ご挨拶していませんでしたね。 おはようございます。こんにちは。こんばんは。ご…

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紫陽花と中学生

自宅近くに、こんなに紫陽花が沢山咲いているなんて、知らなかった。 ---★--- 在宅勤務が始…

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信じられないままでいてくれてありがとう

「はこ、これあげる。最近、はこが明るくなって、嬉しいの」  学級委員の夢ちゃんから手渡さ…

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ふたつの町

 五月は、通勤が楽しい。  新緑の中だと、バスを待つのが苦ではない。バスに乗り込んでから…

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歌と祈り――そうじゅもりおさんと、ティル・ナ・ノーグの事

 歌姫は、杖を突きながら、ゆっくりとステージに立った。  長いスカートのワンピースで、華奢な体をふわりと包んで。肩にはレースのショール。ちいさなティアラに見えたのは、もしかしたらペンダントだったのだろうか。星のような石を、額にひとつだけ垂らしていた。  ステージの片隅に杖を置いて、マイクの前に立った歌姫は、まっすぐに背筋を伸ばした。  前奏が流れ、そして、歌声が響いた。どこか懐かしく、優しい歌。ライブのテーマは、月の光だった。  あれから、多分、二十年くらいが経ってい

噴水と鐘の木、そして、ソフトクリーム

 ニュースの見出しに、懐かしい場所の名前を見掛けた。幼い頃を過ごした町にあった、象徴的な…

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呑んだり呑まなかったりする人の話

「え? 清水さん、お酒呑むんですか?」  日本酒を頼んだら、同僚に驚かれた。無理もない。…

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流星群へ宛てた手紙

 元気ですか?  今、どんな景色を見ていますか?  そこからは、私が見えるかな。どんな風…

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ゴブガリータで乾杯しましょう

 友人が結婚した。嬉しくてたまらない。  久しぶりに、友人達と食事をする機会を持つ事にな…

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ちょっとしたお知らせ

 寒くなりましたね。お元気でいらっしゃいますか?  私は元気です。  毎朝、どのくらい厚…

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夢をあきらめない

 高校三年生の時のクラスは、ひとことで言うと熱かった。  私は人から「熱い人ですね」と、…

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彼女はそれでも海を嫌いになれないと言った

 海沿いのその家は、ふたりの生き方が全部詰まっていた。  笛を吹き、絵を描き、物語を作りながら暮らしていた彼女が選んだのは、地元の土にこだわり、焼き物を作る陶芸家だった。昔から決められていた事としか思えないほど自然に、ふたりが出会って、結婚するのを目撃した。  海沿いの新居は、一階は土間が広めに取られていて、旦那さんの作業場になっていた。家の漆喰は職人さんと一緒に、ふたりで塗ったと聞く。階段を上がると、大きな窓のある、ひと続きの部屋に出る。  台所でもあり、居間でもあり