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2050年のカーボンニュートラル達成に向けた取り組み

■製造に伴うCO2排出量を軽減する

この夏は日本だけでなく世界全体を酷暑ともいえる暑さが襲い、2023年7月には観測史上初めて地球の平均気温が過去の記録を上回りました。異常気象に伴う洪水や浸水被害も世界各地で増え、山火事の被害もかつてないほど規模が拡大しています。

こうした地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けては、2015年に国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)において「パリ協定」が採択され、2020年以降の温室効果ガス削減に関する世界的な取り決めが示されました。

また、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成することなども合意され、実現に向けて世界各国が目標を設定し、現在、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量が均衡状態にあることを意味しており、温室効果ガスを全体でゼロにするという取り組みを指します。具体的には二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しており、達成のために様々な取り組みが必要だとされています。

出典)カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル|環境省

カーボンニュートラルを実現することは誰もが無関係ではなく、全ての人たちが一体となって取り組む必要がありますが、全産業のうち、特に製造業のCO2排出量の割り合いは約25%とされていることから、カーボンニュートラルへの取り組みが不可欠とされています。

■カーボンニュートラルに取り組むメリット

製造業が環境に与える負荷には、製品を製造する生産過程と製品が顧客の手に渡った後の使用過程で発生するものがあり、このうち生産過程においては、電力源をクリーンな再生可能エネルギーに切り換えたり、生産設備の省電力化や効率化をしたりする脱炭素によって、地球温暖化対策を行う方法が効果的だとされています。

ただしその実行には設備投資などによる膨大なコストと運用の手間もかかり、特に製造業の工場ではその排出量の大きさのため脱炭素はだけでは限界があることから、排出量を削減した上で、それ以上はできない排出量を他の場所で行われた削減や吸収、除去などの手段と相殺し、全体でゼロにするカーボンオフセットなどによるカーボンニュートラルの取り組みが必要になります。

カーボンニュートラルへの取り組みは環境への負荷を減らすだけでなく、以下のようなメリットがあると考えられます。

(1)エネルギーの可視化による最適化
カーボンニュートラルへの取り組みを実現するには、まず自社内のエネルギー使用量などをIoTなどで可視化して見直す必要があります。その結果、エネルギーの無駄や効率化を図るポイントを見出すことができ、エネルギー管理の最適化をすることでコスト削減にもつながります。

(2)連携によるビジネスチャンスの開拓
企業が単体でカーボンニュートラルに取り組むことは難しいため、様々な企業と連携して協力関係を築く必要があります。そこから新たなビジネスチャンスを開拓したり、オープンイノベーションにつなげたりできる可能性があります。

(3)社会への信頼性と企業価値の向上
環境問題へ取り組む姿勢を見せることは企業価値や信頼性を高めることにもつながります。特にグローバルに向けては規制対策に取り組んでいることで他社より優位に見られる場合もあり、競争力を向上させることにもなります。

■日本の現状と今後の目標設定

日本政府は2020年10月、2050年までにカーボンニュートラルの達成を目指す「カーボンニュートラル2050」を宣言し、さらに2030年度までに温室効果ガスの発生を2013年度と比べて46%削減し、2050年までにはゼロにすることを目指しています。

その日本では2018年度の事業者別温室効果ガス排出量データによると、合計排出量6億3,945万tCO2のうち、76.9%を製造業が占めていることがわかっています。工場を動かすには多くの電力を使用することから、CO2の排出量が増えるのは当たり前のこととはいえ、どのような方法で減らしていくかについては、各企業が個別に対応を進めているのが現状です。


出典)環 境 省、経済産業省より「地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による平成 30(2018)年度温室効果ガス排出量の集計結果」

政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現については、現時点での分析では並大抵の努力では実現できず、また、2018年から2030年までの削減ペースに比べて2030年以降は加速する見通しであることから、実現への投資費用の増加が企業にとって大きな負担になることが予想されています。

そこで政府は、2030年以降のカーボンニュートラルエネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取り組みを、大きく加速することが必要だとし、脱炭素の推進をきっかけに産業構造自体を見直し、新たなビジネスチャンスを成長させる機会へとつなげる「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(グリーン成長戦略)を掲げています。

出典)経済産業省より「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して策定されたグリーン成長戦略では、産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野について実行計画を策定しており、その中には製造業に関わる分野も含まれています。さらに2020年にはグリーンイノベーション基金が設立され、2兆円近い予算でこれらの14分野の支援を行うことが決定しました。


出典)経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より、
グリーンイノベーション基金が支援する14分野

その他にもカーボンニュートラルに向けた支援策としては、投資促進税制やグリーンボンドの取引を活発化させる「グリーン国際金融センター」の設立の構想などがあり、こうした動きも注視しながら対策を進めて行くことが求められています。

■世界の製造業におけるエネルギー対策とグリーン政策

カーボンニュートラルへの取り組みは各国で課題となっており、世界的な協力が必要とされています。製造業がカーボンニュートラルを実現するためには、DX化の推進、GHG(温室効果ガス)プロトコルによる温室効果ガス排出量の視覚化並びに事業環境変化への素早い対応が重要であるとされており、あわせて製造現場のグリーンエナジー化、省電力、カーボンフットプリントに向けた動きが求められています。

それらに向けて欧州では2019年に欧州委員会が設立した「欧州グリーンディール」を最優先課題と位置付け、その内容に沿った政策が進められています。日本と同じく2050年までの温室効果ガス排出を実質ゼロにすることで、全ての地域において気候中立を実現することを目指していますが、その中では人々の幸福と健康の向上を目的とし、あわせて雇用を創出しながら、排出量の削減を促進する成長戦略としても位置付けられています。

産業においてはイノベーションの促進でグリーン経済のリーダーになることを支援するとしており、エネルギーや環境対策は経済を成長させる上で重要であると考えられていることがわかります。

米国では2021年3月にバイデン大統領が2兆ドルを超えるインフラ投資計画を発表し、その中では化石燃料業界への補助金を廃止する一方で、再生可能エネルギーやグリーンエネルギー技術の成長に向けて力を入れる方針が示されました。

バイデン政権は地球温暖化対策において世界の主導的地位を取り戻すことを目指しており、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年と比較して50から52%削減するという国際公約を掲げ、2035年までに国内電力をクリーン電力源から調達するという目標を打ち出しています。また、2022年2月に発表された国内製造業の活性化と重要製品のサプライチェーン強化に向けた計画とあわせて、国内におけるクリーンエネルギーの製造と展開に対する税制支援の法制化を提言するなど積極的な動きを見せています。

また、経済産業省は2023年3月にアジアの脱炭素の重要性をテーマにしたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)閣僚会合を開催しました。その中で「脱炭素とエネルギー安全保障の両立を図る」、「経済成長を実現しながら脱炭素を進める」、「カーボンニュートラルに向けた道筋は、各国の実情に応じた多様かつ現実的なものであるべき」という3つの共通認識を含む共同声明が合意されました。

このようにエネルギー政策への取り組みは国際的競争力を高めるうえで不可欠なものとなっており、今後はこうした取り組みを外に向けて積極的に発信し、協力関係を広げていくことが重要になると考えられます。
(野々下裕子)

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

出展に関する詳細&ご案内はこちらからご覧ください。

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