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製造業の未来を考える:世界的な電化政策

■自動車業界を中心に加速する脱炭素の動き

前回、紹介したカーボンニュートラルにともなう脱炭素やグリーンエネルギーの動きは自動車業界を中心に加速しています。電気自動車(EV)シフトの流れが世界では進んでおり、化石燃料を使用するガソリンエンジンから電動モーターを動力とする自動車の開発が転換しています。

中でも欧州が2020年10月に内燃機関搭載車の生産を2035年以降の販売禁止する方針を打ち出したことは自動車業界に大きなインパクトを与え、2022年時点では欧州のEV販売台数は世界の約25%を占めていることからも、EVへシフトを強く後押しすることにもつながりました。

モビリティ市場全体においてもEV化の動きは加速しており、製造の現場もそうした動きに対応できる体制を整えることが求められています。

■世界はゼロエミッションに向けて加速

今やEVシフトは世界の命題になっており、自動車大国の米国でも規制が進んでいます。2020年7月には米15州とコロンビア特別区が、中大型車のゼロエミッション(Zero Emission Vehicle:ZEV)化に向けた覚書を締結し、続いて同年9月にカリフォルニア州が、2035年までに乗用車と小型トラックをゼロエミッション化することを義務づけています。

EVの販売台数では世界トップにある中国は猛烈な勢いでEVシフトを進めており、政策としては2020年10月に「中国省エネルギー車・NEV技術ロードマップ2.0」を発表し、新車販売に占める新エネルギー車の割合を2025年までに20%以上、さらに2035年までに50%以上にする目標を掲げています。

さらにここに来て注目されているのが、東南アジアでのEVシフトに向けた動きです。市場調査会社「Counterpoint Research」によると 、東南アジアのバッテリー電気自動車(BEV)の販売台数は、ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアでの需要が前年同期比で894%増と飛躍的な伸びを見せています。

その背景には人口が増え続ける各国が大きな課題としているゼロエミッションに向けた動きがあり、例えばベトナム政府は2022年7月に内燃機関車の国内生産と輸入を2040年に停止し、2050年には内燃機関車の走行をゼロにする目標を掲げています。

また、世界人口でトップになったインドは温室効果ガス排出量が中国と米国に次いで世界で3番目に多いことから、早急にゼロエミッション化を進めています。2030年までに商用車の70%、自家用車の30%をEV化することを目指しており、様々な支援策により2023年2月にはEVの販売台数が大きく伸びています。

成長が続くEVを生産する工場の建設に力を入れる動きも進んでおり、テスラがインドネシアと生産工場の建設で合意したことを発表したり、タイでは中国のEVメーカーが工場建設に向けて投資を開始しています。ベトナムのEVメーカーがインドに工場を進出する計画もあり、アジア全体のEV化に向けて大きく動いていることがわかります。

■ジャパン・モビリティショーに見る日本の変革

EVシフトでは世界に後れを取っていると指摘されている日本ですが、日本政府は2021年1月に乗用車の新車販売を2035年までに100%電動化することを発表していることもあり、ようやくその動きにも変化の兆しが見え始めようとしています。

先日、東京で開催されたジャパン・モビリティショー(JMS)は、東京モーターショーから名称を変更したことからもわかるように、従来の大手メーカーが発表する新車が華々しく並ぶ展示会から大きくスタイルを変え、自動車以外のモビリティも含めて内燃機関からの脱却が明確に打ち出された展示内容となっていました。

会場では日本のEV市場へ参入を強化するメルセデス・ベンツやEV販売で世界第2位のBYDの出展が話題を集めていましたが、トヨタ、日産、マツダなど多くの国内メーカーは次世代に向けたEVのコンセプトモデルを発表し、本格的なゼロエミッション化に向けた取り組みをいよいよ加速させようとしていることが印象づけられました。

ここで注目すべきは動力に使用される蓄電池のタイプです。現在、EVに使用されるバッテリーは軽量で大容量のリチウムイオン二次電池が一般的で、自動車の走行に必要な高い電圧が得られ、繰り返し充電が可能なうえに寿命も比較的長持ちとされています。しかし、発火の危険性という安全面では重大な問題があり、充電には時間がかかるといった課題があることから、それらを改善する新しいバッテリーを開発しようと研究が進められています。

代表的なものとしては電流を発生する電解質を従来の液体やゲル状から固体に変えた全固体電池があり、安定性が高く耐熱性に優れ、寿命が長いという特徴があります。また、電池の原材料も主流であるレアメタルの使用を減らす方向にあり、トヨタはすでに研究開発を進めていることを発表しています。

JMSの会場全体では水素と酸素を化学反応させて発電する燃料電池を使用するモビリティも多数、展示されており、ゼロエミッションを目指しながらこれまでの自動車と同じような性能を発揮できる技術の開発が進められています。

JMSのトヨタブース(撮影:著者)

さらに日本独自の動きとしては、リチウム硫黄電池の開発も話題になっています。安価で高いエネルギー密度を持つことから従来のバッテリーに比べて容量を大きくできるというメリットがありますが、寿命が短く、エネルギーロスも大きく、その点を改良して実用化する研究開発が進められています。

■スマートグリッドからスマートシティに向けて

バッテリー技術の進化は自動車の電化を進める以外にも、バイク、自転車、キックボードといった様々なモビリティを電化させ、新しいカタチのパーソナルモビリティも登場させています。ディーゼル燃料を使用する機関車や船もゼロエミッション化に向けて電化が進められており、それにともない運転システムの自動化も実用化に向けた研究開発が行われています。

電化によってモビリティがネットワークと接続され、全体を管理するシステムやサービスも開発されています。中でも重要なのが、電化されたモビリティのエネルギー供給所であるスマートグリッドと呼ばれる次世代電力システムの構築です。IT技術や最近ではAI(人工知能)を活用して電力の供給と需要をトータルに管理し、電力を効率良く提供する方法を自動でコントロールすることができます。

都市のエネルギーインフラとなるスマートグリッドとモビリティとを融合させることによって、次世代のスマートシティを構築しようとする動きも世界ではすでに始まっています。収集されるデータを都市計画に用いることで、移動手段を最適化したり、物流の効率化を図ったり、今後、期待されている自動運転の実用化にも活用されようとしています。

日本では経済産業省が、モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会の中で、自動車産業を超えた都市や産業との連携を進める流れについても議論しており、
その例には、
‐電気自動車のバッテリーを電源とするV2H(Vehicle to Home)、
‐V2G(Vehicle-to-Grid)、
‐VPP(仮想発電所)、
を利用したエネルギーの循環の実現などがあります。


図:自動車産業を超えた連携の例
出典)経産省「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」資料より

製造業においても工場の運用などで電力の効率化や最適化を図るスマートグリッドの考え方を取り入れ、スマートファクトリー化を進めることは今後重要になると考えられます。工場単体ではなく、周囲の環境とも連携しながら計画を進めることで未来の成長につなげていくには、関連する情報収集がますます大切になるといえるでしょう。(野々下裕子)

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

出展に関する詳細&ご案内はこちらからご覧ください。

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