スタートアップにおける資産としてのカルチャー形成のすすめ


Ubie Advent Calendar 2020 の12日目の投稿です。
Ubieではデータサイエンスチームに所属して、機械学習エンジニアをやっている望月 (@smochi_pub) です。
創業初期に入社し、スタートアップのカルチャーが事業にあわせて変化、進化していく様を目の当たりにしてきました。
その効用の大きさを当事者として強く感じてきたため、主にカルチャーに関する施策を行うチームにも所属してます。

今回は後者のチームで携わったカルチャーガイドブックの作成と、その過程で考えたことについてご紹介していきます。


■本記事の概要と想定読者

最近、Ubieではカルチャーガイドブックと呼ばれる文書を作成しました。
これは内部や採用候補者の皆さんに向けて、会社の組織やカルチャーについて、事業目標から一貫した構造で理解する手がかりとして作成されました。

カルチャーに関係する制度・施策の構造化による明示で

- 持続可能な採用ターゲット層の拡大
- 組織の前提変化にカルチャーが追従する柔軟性
- ルールの最小化

という効用が得られました。
また、作成過程を通じて、いわゆるスタートアップN人の壁(N=50, 100など)に対する有効な打ち手として、戦略的な資産としてのカルチャー形成があるとの考えに至りました。
本記事が、採用拡大とカルチャー形成のトレードオフに日々向き合うスタートアップの皆様や、事業目標と組織のあり方について悩む皆様のご参考になれば幸いです。

■カルチャーを構造化して得たもの

・持続可能な採用ターゲット層の拡大

当社はリファラル採用を中心に拡大してきたため、創業当初からしばらくは、Web系エンジニアやスタートアップに親和性の高い人間が自然と集まっていました。
一方で、PSFの手応えを掴み、PMFを狙っていく頃には、似たような経験、スキルの人間だけが集まった組織による事業目標の達成に限界を感じ始めるように。
そこで、主にマーケティングやBizDevなどの領域で採用ターゲットを拡大し、幅広いバックグラウンドとスキルを持った人材を採用することにしました。その試みは成功し、組織として新たな能力を獲得できました。

一方で、仕事の進め方やカルチャー理解の側面での議論の時間が増えるという課題が発生。このままカルチャー理解に起因するコストをかけ続けるか、採用ターゲットを縮小し事業進捗を遅らせるかの選択を迫られていました。

そこで、コストを解消し続ける資産を築くべく、このカルチャーガイドブックが作成されました。
現在進行系ではあるものの、オンボーディング時に既存メンバーや組織の価値観を構造的に共有できるようになり、オンボーディング時のカルチャー理解に起因するコストは明らかに減っています。
また、一定の学習能力があれば、どんなバックグラウンドの人材であってもカルチャーを高速に理解して活躍が可能な状態が作れてきたため、組織として持続可能な採用ターゲットの拡大ができました。

・組織の前提変化にカルチャーが追従する柔軟性

Ubieでは、戦略的な組織分割やホラクラシーの導入など、あまり前例がない施策を採用することもあります。
そのため、導入時に施策の必要性について前提の共有や議論が発生したり、新入社員が過去施策の導入に至った背景を理解するのが難しいなどの問題がありました。
今後は新しい施策を導入したいと考えたときに、既存のカルチャーとの一貫性や合理性についてガイドブックに基づいて検証できるようになりました。
そして、事業や組織の前提に変化があれば、それに対応する改善や新たな施策の必要性についても、より簡単に説明可能です。

Ubieの行動指針は、一般的な企業で求められる振る舞いとは異なる部分が多々あり、入社するまでの価値観と衝突する場合もあります。
そうした場面で、自らの価値観を改善すべきか、あるいは行動指針を改善すべきか、という問いに対してもカルチャーガイドブックは答えてくれます。
より上位のありたい姿(バリューや事業戦略)の実現に対して、どちらの方が合理的であるかを考えればよいからです。

・ルールの最小化

人材要件や行動指針が事業目標に繋がる形で構造化され、ルールの最小化が可能になりました。
独自のカルチャーで有名なNetflixでは「自由と責任」という標語を掲げ、「Netflixの利益を最大化する使い方であれば、どんな経費も承認される」という方式を取っている部署があるそうです。
この考え方の肝は、より上位の「利益最大化」という目標を提示することで、細かいルール設定や、ルールの複雑化によるコストを取り除く点にあります。
カルチャーガイドブックも考え方は近く、事業目標から構造化された行動指針や組織設計の存在で、細かいルールや承認を設定しなくても、個々人が実際の状況に応じて素早く意思決定をできる構造になっています。

■戦略的な資産としてのカルチャー

スタートアップがスケールする中で直面すると言われる、N人の壁問題などは、まさにこのカルチャー形成とその浸透に起因するものと感じます。 

最適な戦略や行動指針は、状況によって常に変わります。
ある特定の戦略や行動指針に固執しても、前提が変化して上手く行かないことはあります。
そして、事業環境に応じた戦略や指針を策定できたとしても、その理由や解釈を浸透できないと、これまでのやり方と衝突する部分で問題が発生します。
後者に起きる悲劇が、新たな組織の前提や行動指針を巡って内部で解釈の違いが発生し、最悪の場合、内戦状態になり自滅するというパターンです。

事業目標から一貫したカルチャーの形成と浸透は、こうした不毛な内部の戦いを省略できる有効な戦略だと思います。
常に全員の拠り所となる論理体系により、何か問題が起きたら参照し、あるいは変更に依存する部分を順次改善すれば解決できる安心感があります。

今回、カルチャーガイドブックの作成を通じて、ソフトウェアにおけるリファクタリングに近い作業だと感じました。
それまで、散発的に特定の要求に答えるため実施してきた組織施策を俯瞰で機能や役目について整理し、実現している出力について大きな変化はなくとも、今後の組織の変化に向けて拡張性を獲得したと思います。
そういった意味で、カルチャーもソフトウェア資産と同じく、状況に応じてメンテナンス、改善していかなければ負債はたまり、陳腐化するものなのかもしれません。
今後も事業目標から一貫した戦略的カルチャーを、大きなフローを生み出す資産として育てて行きます。

Ubieでは、職種に関わらず、戦略的な資産としてのカルチャー形成に興味がある方を募集しています。本記事を読まれて当社に興味を持って頂いた方は、ぜひ一度お話させてください。

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