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魔女の森のおひめさま19 #物語

アンバーな正絹の帯揚げにそっと触れた。
古くからの親友が、高名な文学賞にノミネートされた時は、まさか受賞式に姫様も呼ばれる事になろうとは思っていなかった。

その文学のモデルになっているのが、おひめさまの事だと知った時、脂汗が滲み出るような感覚を覚えた。
とても賢く、無口な彼はおひめさまが巧妙に隠し続けたその影をそっと理解しているような気がしていた。

不幸であった、そんなちんけな言葉で片付けられたくなくて、つとめて明るくかっこよく生きてきた。
それなのに、今更になってそれを暴かれるような気がして、体に食い込む伊達締めを帯の上から撫で口元を白のハンカチで抑える。

周りにはどう見えているのだろう。
恋人の晴れやかな席に同席する、年増の女が、感極まり肩を震わしていると思われているのだろうか。
それとも、承認の塊の様な女が男を使って美談をでっち上げているとでも思われているのだろうか。
島田に結いあげ、地味な留袖を纏う女の恐れをわかりはしないであろう。

佐伯くんには、丁寧なお手紙をいただいたが、肝心な作品の事は何一つ知らされていない。
ストレートに少し加水した、ジャパニーズウイスキーが揺れる。

帯揚げの色と飲み物の色を合わせて、少しずつ味わう手だれささえも、きっと周囲には伝わってはおるまい。
ひめの孤独は、今この無口な男によって世間の目に晒されそうになっている。

金屏風の前で首を垂れる男のチーフが、アンバーである事を目の端に留めた。

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