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生き直す。

こんにちは☺️児童養護施設出身、少年院出身の青年たちの自立をサポートする団体 NPO法人スマイル リングでの、若者たちとの日常をnoteします☺️✨


弟分が岡山から来ることになりました〜!

“アニキ!そっち向かってます!”

って今日連絡があって。

『お前、せめて前の日に連絡すれよ!』

って言ったんですけど。

もう部屋借りれて、家電を運んでいる最中です。

せっかく付けたカーテン、

なんか短かったみたいです!

わはははは!!

今晩、コイツの分のご飯も有りますっ⁈



この非常にめちゃくちゃな内容の電話は
スマイルリング代表の堀ちゃんからのものである。


この日は突然、(いつもの事だが)スマイルリングに新しい青年が現れた日でもあり、


さっきLINEで

『◯◯って子、

 今日からホームに住みま〜す😁🎶』

と連絡が来たばかり…。


“普通は絶対無いよね”

みたいな事を早口で一気に話す。

そんな彼の話の内容に付いていくのは

もう慣れたとはいえ

状況を頭で整理するのも

ちゃんと理解するのも

全部は至難の業である。


スーパーで買い物中の私は、

取り敢えず

『分かったよ〜』と返事をして

晩御飯のメニューだけを考える事にした。

後からちゃんと聞けばいいや。

私も随分、非常識な大人になったものだ。


急いで大量の買い物をしてホームに走り

リビングの扉を開けると、

緊張した顔の“堀ちゃんの弟分”が

立ち上がって頭を下げ、挨拶をしてきた。


初めまして。

カズと申します。

アニキから話し、聞いてます。


『遠くからよくきたね。疲れたでしょ。

 じゃあ、“カズちゃん”て呼ぶからね。

 私のことは“ちあきさん”て呼んでね』


その日現れた青年にも声を掛け、

大急ぎで夕食を作った。



“カズちゃん”は30代後半。

言うまでも無く、スマイルリングの自立サポート対象の青年では無い。

だがしかし

堀ちゃんは、困って自分を頼ってくる人には

どんな人に対しても

このように手一杯、面倒を見る人なのだ。


社会的な支援やサポートから溢れ落ちている人。

つまり、『一番困っている人』を

放っておく事は絶対にしない。

私はそんな堀ちゃんが大好きだ。



カズちゃんは

堀ちゃんが若い頃

絶好調に『悪い事』をしていた頃の“舎弟”だ。


身体中に入れ墨が入っている。

少年院にも懲役にも行っている。

薬物依存、アルコールを飲むと

もしかしたら暴れるかもと言う事だった。


『どんなんなるかねぇ。

 まあ、堀ちゃんと一緒なら大丈夫でしょ。』


疲れているだろうに、

着いた次の日から

堀ちゃんの会社で働き出した。


初めての日曜日も

『どうせ暇だべ!』

そう言う堀ちゃんに強制連行されて

私達の畑に連れて来られて泥だらけで働いた。

それからほぼほぼ毎週、

カズちゃんとは一緒に畑へ行っている。


“可哀想に〜。たまの日曜日、

少しは休ませてやったらいいのに”

とも思って見ていたが、


カズちゃんは本当に健気な“弟分”で

“アニキ”の言う事は絶対であるようだ。


カズちゃんは、

私達も驚くほど

こちらに来てから良く働き、


時たまホームに泊まっては

スマイルリングの青年達に

ご飯を作ってくれたり

お弁当を作ってくれたり

お茶碗を洗ってくれたりして

彼等の面倒を見てくれる。


言葉に時々詰まりながらゆっくり話す。

ガラガラ声で、しみじみと話す。

人の良さや優しさ

朴訥な人柄が滲み出る。


お酒も

青年達と仲良く飲んでいるようだ。

薬物にはもう手を出さないだろう。

私はその心配は一切していない。


でも本来ならば、

薬物やアルコールに溺れていた人にとっては、

それは本当に、

とてもとても難しい事だ。


“油断している”

と思われるかもしれないが、

ただ、私はカズちゃんを心から信じられるのだ。

カズちゃんの“真っ当に生き直す”

という、静かで強い決意を

肌で感じている。


この、人情味のある

目の前のカズちゃんからは想像も付かないが

若い頃は相当暴れていたようで

“小学4年生の時から運転してました”と言う。


スマイルリングの青年達と同じように

家族とは暮らせず、施設で育った。


暴走族やら暴力団に入り、

入れ墨を入れ、

薬物やアルコールを大量に摂って

自暴自棄に生きてきた人生だった。


そんな風に一人で生きてきたカズちゃんが

20年以上も前に一緒に“悪さ”をしていた

“アニキ”だけを頼りに


こんな遠くの北海道まで飛んできた

その心持ちはどんなものだったのだろう。

私には想像も付かないような思いがあったはずだ。


10月1日は

堀ちゃんの47回目の誕生日だった。


皆んなで一緒にお祝いしたかったが、

堀ちゃんは、

北海道の美唄市の小学校『開校50周年記念』

の講演会を頼まれていて不在であった。


私はカズちゃんと、

ホームのリビングで

堀ちゃんの話をして過ごした。


3年ぐらい前かな?

アニキと内地で再会したんですよ。

俺、車を走らせて

会いに行ったんです。


昔のアニキの顔とは全然違ってました。

凄く優しい顔になってて。

『カズ。お前だから話せる事があるんだからな』

って、言ってね。


『あのなぁ、カズ。

 真面目に生きるって、

 気持ち良くて、凄くカッコいいんだぞ』

 って、真剣に言ってきたんですよ。


カズちゃんの心に、

堀ちゃんのその言葉が

ずうっと息づいていたのを知った。


私もカズちゃんのこと

大好きだからね。 

皆んなだってカズちゃんのこと好きだよ。 

来てくれて本当に良かった。

嬉しいよ。

私達はもう、家族だからね。

これからも、堀ちゃんのこと

助けてやってね。

堀ちゃんには感謝だねぇ。

あの人のおかげで、

皆んな大切な人が増えてくね。


目を真っ赤にしたカズちゃんが

黙って目を擦る。

『オレはアニキを支えるっすよ』

ガラガラ声でそう言った。


人は絶対に生き直す事ができるのだ。

どんな環境で育ち

どんな過去があろうと

人との出会いによって

そのチャンスが訪れる。

たった一言の

相手を思う気持ちから出た真剣な言葉が

人生を決定的に変えることがあるのだ。


今までいろんな経験をしてきた

カズちゃんの存在も、

未来がまだ見えない

スマイルリングの青年達にとって、

そのことを本当にリアルに

感じさせてくれるだろう。


どんな過去も価値に変えてみせる。

私達はその事を

絶対に諦めない。

NPO法人スマイルリング💫
理事 ののむら ちあき☺️

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