見出し画像

地雷を踏み続けたケアマネージャーさん。【エッセイ】

お父さんをデイサービスに行かそうか…

母と何度も話し合った。

なんせ頑固✖️10の父である。

母の言う事は絶対聞かない。
簡単に『うん』とは言わない。

行きつけの医師の協力の元、どうにかこうにか介護認定を受ける事になった。
近所の施設にお願いして、ケアマネジャーさんを紹介して貰った。

ケアマネジャーさんは男性で、とにかく優しい口調で
頑固親父の心も柔らかくなりつつあった。

父は彼を気に入って、色んな話を自分からしていた。

それでもデイサービスには行かない!の一点張り。

無理強いするのはよくないからと、彼は父の意見を尊重し、機能訓練型の施設を紹介してくれた。

事は順調に運んでいると思ったのも束の間、
彼が遠方へ転勤が決まったと知らせて来た。

父も母も私もショックだった。

しばらくして、新しいケアマネジャーさんが来られた。
今度は明るいハキハキした女性である。

彼女は父の顔を見るなり『お父さ〜ん!』と言って話し始めた。

父は黙って喋らない、頑固✖️10に逆戻りである。

彼女が帰った。

『アイツは何者や!お父さんって どういうことや』と父は憤慨した。

初対面の人間に対して『お父さん』と呼んだ事が気に入らないのである。

昭和10年生まれの頑固✖️10➕プライドハイクラスと来てる。
父は中々の難しい人間である。

前回のケアマネジャーさんは、その点よく理解していたようで、『〇〇さん』と苗字で呼んでくれていた。プライドハイクラスの父と適度な距離感で
上手く付き合っていた。
さすがである。

彼女は、父と少しでも親しくなろうと思って『お父さん』と呼んだに違いない。
彼女なりの付き合い方だった。
しかし相手が悪い。

利用者の心を掴むのはきっと難しいに違いない。
高齢者になっても、とかく男はプライドが高い。
年寄り扱いされたく無いとか言うのだ。

1ヶ月に一度ケアマネジャーさんがやって来る。
父は朝から不機嫌だ。

彼女はいつものように『お父さ〜ん!』と明るく声を掛けた。


ドカン!っと一発踏んでしまった。

父の顔が強張る。
凄い形相で睨む。

しかし彼女は意に返さず
『お父さん』を繰り返す。
一生懸命距離を詰めようと努力していた。

父は彼女が帰るなり『塩巻いとけ』と言う始末。

『お父さんの為にわざわざ来てくれてはるのよ』と 母が言う。


『お父さんの為?』
父の顔色が変わった!


またもや ドカン!と一発踏んでしまった。

『もぉ来てくれんでいい!』と父は言う。

ケアマネジャーさんが来た日は夫婦喧嘩の日となった。 

ケアマネジャーさんを変えて頂こうかとも考えたが、
次に来た方を父が気に入るとも限らない。

結局父が亡くなるまで彼女にお世話になった。

父が亡くなった後、彼女が母に言った。
『お父さん、私の事嫌いでしたか?』と。

母は返答に困ったと言う。

彼女は父との向き合い方に難しさを感じていたのだろう。
仕事とはいえ、父と会う日は気が重かったに違いない。
相性もあるだろうが、
『お父さん』ではなく『〇〇さん』と呼んでくれていたら…きっと良い距離感でお互い楽だったのではないか。

地雷を踏みつつ2年間、お疲れ様でした。

担当を続けてくれたケアマネジャーさんに、家族一同心よりお礼を申し上げたい。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?