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ショートショート:タイムマシン

『で、できた!完成だ!』

『やった!ようやくタイムマシンの完成だね!博士…いや父さん!』

『ああ、これでわれら親子の悲願が果たせる…!』

天才と呼ばれた親子は、長年の研究と実験を繰り返し、ついにタイムマシンを作り上げた。二人には果たすべき悲願があった。30年前殺された博士の妻を殺人犯から救うことだ。犯人は博士の助手だった男だった。博士にとっては最愛の妻を、息子にとっては幼い頃に無くした母を、それぞれに救いたい思いを秘めながら研究を重ねてきたのだ。

『父さん、いよいよだね。でも、どうやって母さんを救うの?』

『そこは考えがある。妻が殺される数年前の儂の研究所に行くんだ。妻を殺した奴は儂の助手だった頃、研究所にコーヒーの入ったタンブラーを持ち込んでいた。そこに毒を仕掛け、あいつを殺す。この毒は儂が今回の為に新たに発明したものだから、30年前の科学レベルなら理解すらできないはずだ。いや、現代科学だって儂以外には毒の正体はわからんかもしれん。』

『なるほど、でも気を付けてね。タイムマシンのエネルギー量だとあまり長時間滞在できないよ。』

『わかっている。じゃあ行ってくるぞ!』

博士は最低限の装備と毒を携えタイムマシンのポッドに入った。息子が計器を調整し、パソコンを操作する。タイムマシンが轟音を響かせながら揺れだした。

『3...2...1...行け!』

タイムマシンが光を放ち、ポッドごと博士の姿が消えた。どうやら成功したようだ。

『頼んだよ…父さん…』

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博士が目を覚ますと、そこは30数年前に自身が研究員だったころの研究所、その中の物置部屋だった。成功した喜びを感じつつ、落ち着いて時計を確認する。時間は午前7時、間もなく過去の自分と犯人が出勤してくる時間だ。ひとまずポッドに布をかけ、しばらく隠れることにした。

数時間隠れた後、毒を仕掛けるべく休憩所に向かった。休憩所に人はいない、博士は周囲を警戒しながら犯人のタンブラーを開け、毒を入れた。毒は即効性だ、飲んだら直ぐに死ぬ。犯人の死を確認すべく、休憩所のいつも犯人が座っていた席が映るようにカメラ付きのペンを置いておいた。これでポッド内のパソコンで犯人の死を確認できる。念のため痕跡を丹念に拭き上げ、博士はポッドに戻っていった。

ポッドに戻った博士はパソコンを起動し、カメラの映像を眺め始めた。まもなく休憩時間になり、まだ若いころの自分と犯人が休憩所に入ってきた。そして犯人は自分の席に移動し、タンブラーからコーヒーを飲む。その直後、犯人は全身を痙攣させ。血を吐いて倒れた。成功だ!

もう少し様子を見ていたかったが、タイムマシンのエネルギーが少ないことに気づいた博士は現代に帰ることにした。帰れば最愛の妻と息子が出迎えてくれるはずだ。来るべく幸せを予期しながら、博士はポッドのスイッチを押した。

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ポッドが轟音を響かせ、博士は現代に帰ってきた。

『おい、息子よ!ついにやったぞ!』

元居た研究所に息子の姿はなかった。どこに行ったのだろう、結構時間が経っていたので一旦隣の自宅へ戻ったのだろうか。

博士が自宅に戻ると、リビングに妻の姿があった。亡くなったころより流石に老いているが、間違えるはずがない、妻だ。博士は嗚咽を漏らしながら妻に抱き着いた。

『おお!おまえ!会いたかったぞ…!ずっと…!』

その姿を見て妻は驚きながらも抱きしめ返す。

『何ですか急に。毎日顔を合わせてるじゃないですか。』

博士はしばらく再会の喜びに震えた後、妻に尋ねた。

『ああ、すまない取り乱して...。そうだ、息子を見なかったか?』

すると妻は不思議そうに答えた。

『息子...?何をおっしゃっているの、私たちに子供はいないじゃないですか?』

『なんだって!?ほら、息子だよ、私の助手をしてくれている。』

『あなた、疲れているの?いったんお水でも飲んで落ち着きなさいな。そうそう、私ちょっとあなたに話があるのよ。』

博士はやや取り乱しながら、妻から渡された水を飲んだ。

次の瞬間、博士の喉に熱した棒を突っ込んだような衝撃が走った。喉から下腹部まですべての臓器が悲鳴を上げ、口から大量の血を吐き、全身を痙攣させた。この症状は覚えがある。自分の作った毒だ。博士は振り絞るような声で妻に問いかけた。

『おい…なぜおまえが…これを…』

『30数年前、助手のあの人を殺したのはあなただったのね。あれからずっと解明されず謎の毒物だったこれ、昨日あなたの研究所で見つけたのよ。あなた気づいてたのね、私があの人と不倫をしていたのを。それであの人にこんな毒を...』

『なに…を...』

博士は声にならない声を出したまま動かなくなった。

それを見た妻はすこし悲しい顔をした後、毒入りの水を一気に飲み干した。



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