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せんそうってさぁ。いまこのせかいで?

お迎えを待つ最後の一人となった4歳児。

「ねぇ、これよんで」
と図書コーナーから本を持ってくる。

最初はせなけいこさんのおばけシリーズを数冊。
そのあと、少し大きい本をじーっと見つめ、

「これってさぁ、あのさぁ、これよみたい!」

意を決したように手に取った。
そういえば先週、この子のクラスでそれを読んでいたはず…もう一回読みたいって思ったのかな…?

広島の原爆資料館にあるお弁当箱にまつわるお話。
『まっ黒なおべんとう』

静かにページを開く。

絵本は、紫陽花の花を見つめながら泣くおばあちゃんの涙を孫が見てしまい、「どうしてないてるの?」「ねぇひみつおしえてよ!」と迫るところから始まる。

おばあちゃんが渋々話を始めるとすぐに、“戦争”という言葉が出てきた。

そこから絵本を読み進める中で、戦争について私とその子との対話が始まった。

「ねぇ、せんそうってさぁ…。なんかいまテレビでみたことあるけどさぁ。」
「そうだね。ウクライナとロシアが戦争をしているよね。」
「うん、そうそう。それでさぁ、でもさぁ、このおはなしは?」
「うーんとねぇ、そうだなぁ、○ちゃんのおばあちゃんのお母さんが子どもだった時には、日本でも、戦争があったんだよ。」
「ほんとうに?いまこのせかいで?」
「そうだよ。テレビで見たようなことが、ここでもあったんだよ。」

「そしたらさぁ、どうなっちゃうの?ほいくえんとかはさぁ…」
「保育園の子どもたちも、爆弾が落ちてきたら、先生と一緒に逃げたり、お父さんやお母さんと一緒に逃げたり、今とは違うところに急にお引越しして暮らしたりしたんだよ。」
「ほいくえんはどうなるの?」
「保育園のお庭も、畑にしてお芋を作ったりしないと、食べるものがないから…遊ぶ場所は無くなっちゃうかもねぇ。」
「でも○くんはほうちょうとかけんとかもってるからだいじょうぶだよ」
「どうかなぁ、爆弾はお空から降ってくるし、鉄砲で打ってくるのは遠くからだったりして、包丁とか剣じゃどうにもできないかもしれないね」
「あぁ、そっかぁ。ばくだんだもんなぁ。」

読み進めるうちに竹槍の訓練をすることが話の中にも出てきた。そうか、この国では、今私の目の前にいる4歳児が話したようなことを、みんなが信じて戦おうとしていたんだ…と気付かされて愕然とした。

「あっ!ばくだんだ!」

原爆を落とされた後の煙が立ち上る絵を見て、その子はすぐにそう言った。

「ピカドンって、知ってる?」
「ううん、わかんない。」
「ピカドンは、爆弾の中でも一番すごい爆発をするんだよ。ピカっと光った次の瞬間には、もう全部、燃えて消えてなくなっちゃうくらい。」
「これは、それなの?」
「そう。そんな怖い爆弾が、このおばあちゃんの子ども…真(登場人物)たちのおじさんたちの街に落ちてきたんだよ。」

「これはなんのひと?」
「爆弾が落ちた後はねぇ、うーん、○ちゃんのお友達も、花火で火傷したりしてたでしょ?」
「うん。なんかあかくなってて、いたそうだった」
「この人たちはねぇ、そういう火傷が、手とかだけじゃなくて、体がぜーんぶ火傷になっちゃったんだ。」
「いたそう…」
「そうだよねぇ。痛くて、でも熱くてお水がほしくて、こんなに赤くなっちゃって本当はお薬を塗ったりしないといけないんだけど、ないからそのまま歩いてお水を探したりしていたんだよ」
「○くんがおくすりぬってあげるよ。おみずもいっぱいあげる。」

場面は、焼け野原で自分の子どもを探す若き日のおばあちゃんが、白骨の下からお弁当箱を見つけるところへと進んでいく。

「このおばあちゃんはうそをついてるよ!」
「どうして?」
「だって、おべんとうをたべちゃったからしんじゃったんじゃないのに、どうしておべんとうばこをみてなくの?」
「お弁当箱はねぇ…うーんとね。爆弾が落ちてきて、この子は死んじゃったでしょ?」
「うん。そうでしょ?」
「そう。それでねぇ、朝、お弁当を持って「いってきまーす!」「いってらっしゃい」って言って見送ったのに、その子がお弁当を食べる前に、爆弾が落ちてきて死んじゃったから…」
「あぁ、おべんとう、たべてないのか」
「そう、まだ朝だったから、食べてないんだよ。まっ黒なのは、お弁当のご飯が、みんな焼けちゃったからなんだよ」
「まっくろなおべんとう…」

少し黙り込む。
お弁当を持ってお出かけするのは、この子とっては楽しい行事のイメージだろう。楽しみにしていたであろうお弁当を食べる前に死んじゃった、という出来事は、受け止めきれないかもしれない。。

「あのさぁ、○ちゃんさぁ、ママとかパパとかにあいたくなっちゃったな。」

ポツリと呟くように言い、絵本を覗き込むようにしながら身を寄せ、ぴったり私にくっついてくる。

「もうすぐお迎えが来るよ。」

そう言われて少し安心したような表情になった。

「じゃあ、たんけんにいかなくっちゃ!」と気持ちを切り替えるように大きな声で言うと、張り切ってリュックを背負って、探検(締め作業として園内の施錠や電気類の点検を大人がすることを知っているため、お手伝い、という名目で一緒に回る)の準備をし始めた。


探検の途中にも、“戦争”についての対話は続いた。

「せんそうはさぁ、おばけよりも、もーっとこわいよ。どうしてせんそうをするの?」

「おいもだけじゃおいしくないのに、どうしておいもだけなの?」

「おうちがなくなったらさぁ、みんなでくらせばいいよ。そしたらせんせいだって、ひとりじゃなくて、みんなでねれるよ?」


大人として、どういう答えが持てるのかを、この子に伝えた自分の言葉が嘘にならないようにどんな行動ができるのかを、考えている。

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