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#02 ポジティブ心理学とは

この記事では、「ポジティブ心理学」とは何かについて一緒に学んでいきたいと思います。


「ポジティブ心理学」のイメージ

皆さんは「ポジティブ心理学」と聞いて、どんな心理学をイメージされますか?「ポジティブ」という言葉の響きから「物事を前向きに捉えること」「常にポジティブに考えること」などが連想される方が多いんじゃないでしょうか?もしくは、どこかで一度、ポジティブ心理学に触れたことがある方は、「幸せを科学する心理学」と思われているかもしれません。また、「ポジティブ」という言葉の響きから、ちょっと胡散臭いイメージをもたれる方もいらっしゃると思います。

では、そもそも「ポジティブ心理学」とは何なのか?

ポジティブ心理学を理解するためには、この心理学ができた背景を知ると、とてもわかりやすくなると思いますんで、この記事では、ポジティブ心理学が生まれた背景を一緒に見ていく中で、この心理学がどんな心理学なのかを一緒に学んでいきましょう。

戦後の心理学は「マイナスをゼロに戻す」

「心を科学する」という発想自体、西洋的な考え方だと思うんですが、近年の心理学はアメリカを中心に発展してきました。そのアメリカなのですが、第二次世界大戦後、多くの元兵役の人たちが帰還した際、PTSDをはじめとする精神疾患を発症していき、一つの社会問題になってしまったのです。アメリカ政府も「やばい!これはどうにかしないと!」と、精神疾患の診断と治療の開発に莫大なお金を注ぎ込みました。その結果、多くの精神疾患が治療できるようになったのですが、その一方、「心理学」は「人のマイナス部分をゼロに戻す」ことがメインの学問になっていきました。

忘れ去られた「心理学」の3つの目的

このように、うつやトラウマ等の人間のマイナス面ばかりが研究されることがある意味、当たり前になった心理学に対して、1990年代後半に「ちょっと、この在り方っておかしくない?」と疑問を投げかけた人がでてきました。それが当時、アメリカ心理学会会長であったマーティン・セリグマン、ポジティブ心理学の創始者です。

マーティン・セリグマン

彼は本来、心理学には「3つの目的」があったと言います。

第二次世界大戦前の心理学の目的
1. 精神的な不調を治療する
2. 全ての人々の人生をより充実したものにする
3. 高い才能を見分け養成する

Seligman & Csikszentmihalyi, 2000

第二次世界大戦後、1つ目の目的に関して、心理学は多大なる貢献をしてきましたが、2つ目と3つ目の目的に関しては、置き去りになっていたことを彼は指摘したのです。

「こころ」にはマイナス部分もあれば、プラス部分もあるはずなのに、それらプラス面の研究はこれまでほとんどされておらず、多くの研究がうつやトラウマ等のネガティブな部分に関する研究ばかりで「ネガティブ心理学」と言っても過言ではなかった状態に陥っていたのです。

ネガティブだけに偏った心理学をあるべき姿に戻す

因みに、人間のプラス面って皆さんはどんなことをイメージされますか?

例えば、「幸せだな」といった幸福感から「ありがたいなあ」という感謝、「面白そう」という好奇心、勇気、希望、達成感、強み、謙虚さ、思いやり、人生の意味などなど。これら、人間のプラス面に関して、これまで哲学や倫理学、宗教学では盛んに議論されていたのですが、「心理学」ではほとんど議論されていませんでした。

これまで哲学等でアリストテレスやプラトンなどが主観的に語っていた人間のプラス面を、しっかり定義付けして、データを集めて分析し、客観的に理解しよう、そして、ネガティブなことばかりに偏った心理学の在り方のバランスを、本来あるべき姿に戻そうという試みで、1998年に生まれたのが「ポジティブ心理学」なのです。こちら、その定義です。

「ポジティブ心理学」の定義
人生を価値あるものにするのは何かを科学的に研究する学問
Positive psychology is a scientific study of what makes life worth living.

Seligman & Csikszentmihalyi, 2000

「ポジティブ心理学」のトピックは多岐にわたる

そのため、ポジティブ心理学が扱うトピックは「幸せ」から「勇気」、「やり抜く力(グリッド)」から「強み」まで多岐にわたります。極端に言えば、人間のプラス面や人生を価値あるものにするものの研究だったら全部、ポジティブ心理学の研究になっちゃうんです。ですから、よく誤解されがちなんですが、「幸せ」だけではありませんし、「全て前向きに捉えよう」というポジティブ思考でもないんです。

幸せって何だろうか?人はどんな時に希望が湧いてくるのか?感謝深い人はそうでない人と比べて、どんな違いがあるのか?パフォーマンスが高い人はそうでない人と何が違うんだろうか?やり抜く力を育むにはどうしたらいいんだろうか?愛情は心だけでなく、身体にも良い影響があるんだろうか?皆が無力感を感じる中、すぐに立ち上がることができる人はどんな特徴があるんだろうか?などなど、これらの質問すべて、ポジティブ心理学の研究テーマになっちゃいます。

また、上述したように、「幸せ」を研究していた人や「感謝」を研究していた人、「強み」を研究していた人などが一同に集まってできた心理学で、1つの理論から派生してできたわけではないため、ポジティブ心理学は「幕の内弁当」のようなイメージで捉えるとより分かりやすくなると思います。(ある人はエビフライを研究していて、ある人はかまぼこを研究していたみたいな感じ)

そのため、もしポジティブ心理学に興味があり、もっと学びたいと思われるのであれば、ぜひ、「人間のプラス面の中でも自分は何に興味があるのか?」をまずは考えてみられることをお勧めします!

まとめ

さて、話をまとめますと、ポジティブ心理学とはこんな心理学です。


  • ネガティブな側面ばかりに偏った心理学のバランスを取り戻すためにできた心理学

  • 哲学や倫理学、宗教学で語られていた人間の善い部分について、データを取って客観的に理解しようとする試み

  • 人生を価値あるものにするのは何かを科学的に研究する心理学

  • 人間のプラス面の研究であれば、なんでもポジティブ心理学

  • 「幸せ」だけではなく、また、「常に前向きに捉えよう」ではない

  • トピックが多岐に渡るため、「幕の内弁当」のような心理学


いかがでしょうか?まだ「ポジティブ」という響きから胡散臭さは拭えないかもしれませんが、少しポジティブ心理学とはどんな心理学かをご理解いただけましたでしょうか?

また別の記事で、「メンタルヘルス」という角度からポジティブ心理学とは何かについて書いてみたいと思いますが、この「幕の内弁当」のおかず、つまり、誰しもが本来もつ力やプラスの部分にフォーカスしながら、悩んでいる人や問題を抱えている人のサポートをしていくのが、ポジティブ心理学のアプローチになります。このアプローチを基に皆さんが具体的に抱えている問題や悩みについて、解決の糸口になるような記事を書いていきますので、ぜひ、悩みごとや相談ごと等ありましたら、お気軽にどんどんコメントを送ってください!

【参考文献】
Seligman, M. E. P., & Csikszentmihalyi, M. (2000). Positive psychology: An introduction. American Psychologist, 55(1), 5–14.

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